AI/ロボットに関しては、仕事を奪われる「AI脅威論」がある一方で、有効に活用すれば生活価値や労働効率性が高まるという「希望論」もある。では、実際に働いている人は、AI/ロボットによる仕事の代替をどのように捉えているだろうか。
NTTデータ経営研究所は、全国の政令指定都市に勤務するオフィスワーカー約1000人を対象に、AI/ロボットによる業務自動化についての意識調査を行なった。これによると、会社員が自分の仕事のなかでAIに置き換えられると認識している領域は「3割程度」と判明。テクノロジーによる業務代替にポジティブである一方、来たるAI時代に向けた具体的な準備をしているのは少数で、楽観的な姿勢も浮かび上がった。
自動化されると認識している自分の仕事領域
調査では、「10年後、今の自分の仕事を代替している存在」について、AI(36.4%)とロボット(21.6%)など「自動化テクノロジー」との回答が46%。後進の若者(22.6%)や外国人(11.7%)、アルバイト(10.5%)、競合他社(9.1%)などの「自分以外の人間」は73.6%で、「テクノロジー」よりも「自分以外の人間」に代わると考えていることが明らかになった。
また、「あなたの現在の仕事の何%が将来的にAI、ロボット等のテクノロジーに代替されるか」の回答は、平均で「32%」。自動化されやすいと認識する業務については、マニュアル業務や数値を集計する業務などの「手順やルールが決まった業務」が平均89.6%、1日の作業の計画を書き込み整理する業務や自分自身の目標と予定を管理する業務など「タスクを管理する業務」が平均64.0%で、半数を上回った。
一方、自動化の余地が少ないと見ているのは、部下や後輩の育成や臨機応変に対応する業務など「コミュニケーションを必要とする業務」(平均23.1%)、新たな事業やサービスを企画する業務など「創意工夫が求められる業務」(平均31.9%)などが上がった。
テクノロジーによる業務代替は肯定派が多勢
テクノロジーによる業務代替については、好意的に受け止めていることも判明。「非常に楽しみであり効果に期待している」(13.2%)、「期待を持っている」(46.2%)の肯定的な回答が59.4%。「強い抵抗を感じる」(6.5%)、「少し抵抗を感じる」(34.1%)のネガティブな回答(40.6%)を上回った。
ポジティブな意見の理由では、「人が行なうべき仕事に集中できるようになる」や「労働力人口減少を補うことができる」、「新たな職や産業が生まれる」、「業務時間が短くなる」など、業務内容や働き方の質の向上や新たな可能性への期待が多く寄せられた。
ネガティブな意見では、「失業者が増え、経済の悪化につながる」「臨機応変に対応する能力がない」「心の通ったサービスが受けられなくなる」が多数を占めるなか、「自分の仕事がなくなってしまう」「仕事にやりがいを感じる人が減少してしまう」「情熱をかけてきた仕事が代替されることが寂しい」という、仕事に対する愛着に所以する意見も見受けられた。
AI/ロボットによる仕事の代替に対する感情を属性別にみると、勤務形態や条件による違いが顕著。例えば、肯定的な考えを持つ人は管理職で68.9%に対し、非管理職は56.0%と少ない。年収別でも、年収1000万円以上と500~1000万円以上の人は7割超が肯定的なのに対し、300~500万円では半々となり、年収300万円未満では多勢がネガティブ派(58.1%)に逆転する。就業形態では正社員の63.5%は肯定的だが、派遣社員は39.5%、契約社員は37.3%となり、ネガティブ派が多勢だ。
一方、年代別では肯定派が20代で52.0%、50代で50.3%など、顕著な差は見られなった。
自動化手段による代替への対策は
では、AI/ロボットによる仕事の代替に向けた準備はどの程度進めているか。「自動化による仕事の代替を想定した対策を行なっている」という回答は、全体の9%にとどまり、対策をしていない人が9割以上だったことが判明した。さらに、対策を行なっている回答者で、テクノロジーによる仕事の代替をポジティブに捉えている人は全体の7.7%に留まる。
同調査ではこの7.7%の人を、AIによる環境変化を自分の仕事の価値を向上するチャンスと捉え、前向きに準備している人と仮定し、その人物像について分析を行なった。
すると、自動化によって削減された時間を「新たな仕事を作り出す」や「新たなスキルを獲得するために時間を使う」などの項目が、その他の回答者よりも高い結果となった。また、自らを会社にとって「なくてはならない存在」と自己肯定する割合も大きく、組織に対して貢献している自己認識が強い。
さらに、「あなたが経験した転職や部署移動には、スキルアップ/キャリアアップに繋がったと感じているか」に対しては、肯定的意見が79.5%と高かった。これらを踏まえ同調査では、AI/ロボットによる業務代替をポジティブに捉え、環境変化に強い人は、職場に貢献している実感や自己肯定感が強く、環境変化にも柔軟に対応して成功実感が高い人と特徴づけた。
調査は2017年4月3日~4月10日までインターネットで実施。対象者は、政令都市の従業員100名以上の企業に働く20~50代の男女。有効回答数は948人。