無料スマホレンタル「handy」が日本でサービスを開始したのは2017年7月。以降、ホテル・旅館を中心に次々に導入されてきたが、いよいよサービスの領域を“観光地”にも広げる。自治体やDMOなど地域との連携だ。第1弾として、同社は神奈川県と連携協定を締結。2月中旬から3月末まで実証実験として県内5か所の観光案内所で計300台、訪日外国人旅行者に対する無料スマホレンタルを開始する。
無料スマホは観光地でどのようなサービスを提供し、地域の自治体・DMOには何をもたらすのか?なぜ、多彩な観光地とアクセス利便で恵まれた神奈川県が、今回の実証実験に取り組むのか。神奈川県産業労働局観光部国際観光課長の今井明氏と、handy Japan代表取締役社長の勝瀬博則氏に話を聞いてきた。
回遊を促し、日帰りから宿泊する観光地へ
世界屈指の大都市・東京の隣県で、東京/京都間のゴールデンルート上にもある神奈川県。横浜や箱根、鎌倉などの人気の観光地も多く、以前は「何もしなくても旅行者が訪れていた」が、現在は「神奈川県の魅力を出していかなければ、このままでは厳しい」(神奈川県・今井氏)という危機感を持って観光誘致に取り組んでいる。
その理由のひとつが、国内の他エリアにおける観光地域の台頭だ。神奈川県の訪日外国人旅行者数は2017年、前年比5.6%増の244万人。国全体の伸び率と比べると小さく、訪問率では縮小傾向にある。国がインバウンド誘致、なかでも地方誘客を強化し、LCCなど地方へのネットワークが拡充するなか、地方へ行く旅行者が増えている。
さらに東京に近いアクセスの優位性は、夜には東京のホテルに戻ることになり、日帰り観光で終わってしまう。「県としては県内で回遊し、泊まってもらうことが重要」(今井氏)とし、そのためのコンテンツ発掘と効果的なプロモーションの展開が求められていた。
すでに神奈川県ではタビマエのアプローチで大変革に着手。訪日外国人向けの英語版ホームページをリニューアルし、名称を「Tokyo Day Trip -Kanagawa Travel Info-」に変えた。メインの部分に“神奈川”ではなく“東京”を入れたのだ。自治体が他の自治体名を冠するホームページとするのは初めてだという。
当初は県庁内からも疑問の声があったというが、世界的に圧倒的な知名度のある“東京”を入れたことで、サイト流入が以前の100倍以上の差になって表れた。訪日外国人の約半数強が訪れる東京から神奈川県への動線を強めたなか、神奈川県は今回の連携協定に至ったという。
一台で一石三鳥、特に期待はデータ分析
今回の協定で行なうのは、訪日外国人旅行者に対する(1)快適な通信環境の提供、(2)多言語での観光情報発信・プロモーションの実施、(3)行動データ取得による観光施策への活用。
訪日旅行者の不満の一つに無料Wi-Fi環境の整備があるが、handyの4G通信があれば、ユーザーがアクセスポイントの場所や接続方法を意識せずに、いつでもどこでも使える通信環境を提供できるようになる。また、handyには神奈川県のほか、貸出場所の観光案内所を運営する各観光協会(横浜、箱根、鎌倉)の観光情報をコンテンツとして掲載。災害情報など、リアルタイムの発信にも対応する。こうした情報の閲覧履歴やhandyのGPSデータを分析することで、観光施策にいかしていく。
特に期待しているのは、行動データの取得・分析。現在、神奈川県では「滞在日数やルートなどを旅行者のプロファイル(属性)に落とし込んだデータは、正確なところは取れていない」(神奈川県・今井氏)という。実はこれは、handyの貸出所となる観光案内所を運営する各観光協会(横浜、箱根、鎌倉)でも同意見。観光客の回遊を促す上でデータマーケティングが欠かせないが、詳細なデータを取得・分析することは各地域にとって大きなハードルになっている。
こうしたビッグデータとその分析結果は購入できるものもあるが、その購入価格は自治体やDMOがデータ分析を継続するためには予算的に難しい。しかし、handyなら「通信環境を含む訪日受入れ体制の整備とプロモーションを兼ねてデータを取得できる。一石三鳥で動きが取れるなら、県の施策を作る上で有効」(今井氏)との考えだ。
スマホではなく「スマートパンフレット」
handy Japanの勝瀬氏は、街で貸し出す無料スマホを「スマホだけどスマホじゃない。観光案内所では、スマートパンフレットとして機能していく」と話す。handyが提案するスマートパンフレットとはどういうものか。具体的な使われ方は、以下のイメージだ。
観光案内所に来た訪日外国人は通常、ラックに置かれたパンフレットや地図などで情報を収集し、興味のあるものを手に取って必要に応じてスタッフに話を聞く。しかし、handyをレンタルした場合、コンテンツとして掲載する県や各観光協会による観光情報や、ブラウザで興味のある内容を検索して、情報を得ることができる。
行き先が決まれば、そのままhandyで経路を調べて移動し、気に入った場所や体験などは、その場でInstagramやFacebookなどのSNSに投稿。観光や移動中に思いついた関心事をその場で検索して次の行動を決めたり、予定していた行動を変えたりできる。
つまり、利用者にとってはスマホ1台で、様々な範囲の情報が表示され、求めている情報にリーチしやすくなるので、より便利に観光ができるツールになる。
一方、自治体やDMOなど地域の受入れ側にとっては、「利用者の移動経路が分かるパンフレットになる」と勝瀬氏。マーケティングでは消費者のマイクロモーメント(※)を捉えることがますます重要になっているなか、「まさにリアルタイムのマイクロモーメントに対応できる」とアピールする。
※マイクロモーメント:モバイルの浸透で、消費者が心理的なタイミングに瞬間的に欲した情報や消費をする行動。デジタルマーケティングではその瞬間をとらえることが重要そこで閲覧されたコンテンツの内容はもちろん、そのコンテンツに実際に出かけたかどうか、今この瞬間に見られている人気のコンテンツはどれかなど、さまざまな切り口のデータが得られ、旅行者のタビナカの実態把握に繋がる。これは紙のパンフレットではできなかったことだ。実際、香港での事例では、handyのデータから、中国本土からの旅行者が訪れた飲食店はイタリア料理が最も多かった、という意外な結果が判明したという。
こうした利用状況を見ながら、反応の良い記事の傾向を分析したり、割引クーポンや無料券の販促を行なうなどで、その結果検証をしながらA/Bテスト的な効果測定も可能だ。つまり、「地元の人が旅行者の行動をコントロールできるパンフレットになる。それが結果的に旅行者の満足度向上にもなる」(勝瀬氏)というのが、handyがスマートパンフレットとして地域に提供できるメリットだ。
これらを使えば、観光地周辺の店舗の広告やプロモーションの展開なども可能で、handyは自治体・地域が収入を得るツールにもなる。将来的には、日本で未実装の決済機能を活用し、「現地イベントの決済や地域通貨の導入でも活用できるのでは」とも提案。自走する組織としてDMOが抱える課題である、稼ぐための仕組みにもなりえるという。
データの有用性は?
今回は実証実験のためコストは発生しないが、同規模(5か所の観光案内所に各60台、1日の貸出数は各10台)で展開する場合は、従来と同じ1台1か月あたり980円、300台で1か月30万円程度を想定。
今井氏は「通信、プロモーション、データが取れる。1台で一石三鳥のこのツールは使わない手はない」との考え。稼ぐ仕組み作りの点でも、「神奈川県では広域のDMOを作ろうとしているところ。こうしたDMOや地域DMOがhandyで地域事業者と連携して自走できるようになる」と、期待を寄せる。実証実験でのオペレーションの結果を確認後、県内の他の地域にも広げていきたい考えだ。
気になるのは、導入台数。今回は5か所で300台、1か所あたり60台の運用になるが、これで分析に足るデータが取得できるかどうか。これに対して勝瀬氏は、「ビッグデータの重要性はあるが、きちんと統計処理をすればビッグである必要はない。小さくてもそれに近しいデータが取れる」とし、「1か所で1日約10台貸出すると、3か月でおおよそ1000弱の有効なデータが取れる」と自信を見せる。
サービス開始から約半年で、日本のホテル全客室の4分の1に相当する約23万室の契約をするなど、急成長してきたhandy Japan。勝瀬氏は、「handyは誰もがどこでも使える無料の通信デバイスで、優位性は何にも対応できるフレキシブルな点。いま注力しているのはホテル、地域の領域だが、この先はレンタカーやクルーズなど、観光客が訪れるいたるところにhandyがある未来を描いている」。
テクノロジーの進化で、今後大きく変わることが予想される日本の観光シーン。その一角を担うhandyの進化に期待したい。
なお、handy Japanは2018年2月21日~23日まで開催されるインバウンドと地方創生市場の専門展示会「インバウンドマーケットEXPO2018」に出展。2月22日にはhandyを活用した地方創生の取り組みについてセミナーを行なう。
広告:handy Japan(https://www.handy.travel/ja)
記事:トラベルボイス企画部