豪ケアンズの「観光客誘致」と「環境保全」の両立戦略を聞いてきた、観光トップらが来日、SNS情報で旅行者意識の向上へ

オーストラリア・ケアンズの日本人渡航者数が堅調だ。ケアンズといえば、世界遺産グレートバリアリーフに代表される豊かな自然が観光資源。最近は世界各地で、観光客の急増によって自然環境にネガティブな影響が出る、いわゆる「オーバーツーリズム」が問題になっているが、ケアンズでは観光客誘致と環境保全の両立をどう図っているのか。

先ごろ、オーストラリア・クイーンズランド州政府観光局がケアンズ観光局のCEOピップ・クロース氏の来日に伴う記者発表会を開催。グレートバリアリーフ保全に関する取り組みや最新の観光プロモーションを説明した。

ケアンズへの日本人渡航者は堅調に推移、ハイバリューな旅行者も増加

ケアンズ観光局CEOピップ・クロース氏

ケアンズおよびクイーンズランド州全体を訪れる日本人渡航者数は、2015年以降堅調に推移。2017年ケアンズへの日本人渡航者数は11万1000人にのぼり、クイーンズランド州全体の渡航者数20万5000人の約半分を占めた。

「世界各地でオーバーツーリズムの問題が起きていることは認識しているが、ケアンズでは幸いその問題は起きていない。まだかなりの人数を受け入れる余裕がある」とクロース氏。2018年からの2年間で3軒のホテルが市内中心部に誕生し、新たに800室以上が増える予定だ。

ただし、単純に旅行者の数だけを増やすことを目標にはしておらず、「よりハイバリューな旅行者を進んで受け入れていくことで環境が守られると考えている」と話す。ハイバリューとは具体的には、“消費額が大きい”、“滞在日数が長い”、“環境への意識が高い”といった旅行者だ。

実際、クイーンズランド州全体では2015~2017年の3年間で、渡航者数9.3%増に対し、旅行消費額は13%増を記録。FIT(個人旅行)の滞在日数増加が後押ししたものだが、当局が求めるハイバリューな旅行者が増えているともいえそうだ。

グレートバリアリーフ保全に関する地域の取り組み

グレートバリアリーフは約560億豪ドルの資産価値があるとされ、6万4000人の雇用を創出しており、現地では保全のためのさまざま取り組みがなされている。

オーストラリア政府は今年4月、グレートバリアリーフの保全活動に、単体の支出としては過去最大となる5億豪ドルを投入することを発表。気候変動に伴う海水温の上昇によるサンゴの再生やサンゴを食べるオニヒトデの被害対策、水質改善などに充てられる。

グレートバリアリーフは海洋公園局により非常に厳しく管理されており、旅行者の増加に伴うゴミ問題などは出ていない。クルーズ船のほとんどには海洋学者が同乗しており、船のゴミの投棄についても厳しく規制。むしろゴミの多くは近隣諸国からのものだという。

2017年2月には、地元の海洋学者の呼びかけで「ラストストロー オン グレートバリアリーフ」という取り組みも始まった。グレートバリアリーフのゴミの95%がプラスチックであることから、ストローの使用をやめようというもの。50以上のクルーズ船やレストランなどグレートバリアリーフの観光業者が賛同し、これまでに約100万本のストローの不使用を達成している。

このほか、今年4月にはJTBがケアンズ沖のフィッツロイ島にあるサンゴ再生施設支援のために、グレートバリアリーフサンゴ礁保護基金に2万ドルを寄付したと発表。また、フィッツロイ島ではウミガメの保護や治療も行われるなど、自然環境の保護が積極的に進められている。

ケアンズ観光局日本語ホームページより

ウェブサイトやSNSで情報発信、旅行者の環境保全への意識を高める

持続可能な観光のためには上記のような取り組みを知ってもらい、個々の旅行者の意識を高めることも大切であるとの考えから、ケアンズ観光局では今後ウェブサイトやSNSを活用した施策に力を入れていくという。

昨年開設した日本語フェイスブック(Facebook)に加え、今年5月にはケアンズ観光局の日本語ウェブサイトを開設したほか、9月から日本語インスタグラム(Instagram)も本格運用。7月からは「ケアンズ&グレートバリアリーフ『101の物語』」と題し、ケアンズを旅したインフルエンサーなどの体験記を紹介予定。ほかに、2年間でケアンズファン101名を任命するアンバサダー制度「フレンズ・オブ・ケアンズ『ケアンズっ子』」も準備中だ。

「旅行者にはぜひ旅の途中でも帰国後でもいいので、ケアンズの自然のすばらしさをインスタグラムやフェイスブックに投稿してほしい。グレートバリアリーフの破壊が深刻だというニュースもあるが、多くの新しいサンゴが再生されているとの報告もある。実際に美しいサンゴを見て、それを伝えてほしい」とクロース氏。一般旅行者からの情報発信によって、多くの人に旅先のリアルな魅力を知ってもらうのと同時に、美しい自然を大切に思い、それを守っていこうという気持ちも持ってほしいという思いがある。

「気候変動は世界的な問題であり、環境保全のために何ができるか、私たち一人一人が考える必要がある」とクロース氏。旅行者に環境保全への前向きな意識を持たせることは、将来のオーバーツーリズム問題を防ぐ大きな一助となりそうだ。

記者発表会にて。ケアンズ観光局CEOのピップ・クロース氏(中央)やクイーンズランド州政府観光局のポール・サマーズ氏(左)が、ケアンズの最新の観光動向を説明

取材・記事 古屋江美子


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