人気俳優レオナルド・ディカプリオの映画で世界的に知られるようになったタイのビーチで、押し寄せる観光客による生態系への悪影響が問題視されている。このほどAP通信が報じた。
タイ国立公園・野生動物局は2018年4月4日、アンダマン海ピーピーレイ島にあるマヤ湾(Maya Bay)で、6月から4カ月間にわたって観光客の入域を禁止する決定を下した。サンゴ礁や生態系の回復を促すためで、毎年、定期的に入域禁止期間を設けていく方針。
タイでは、海洋国立公園の多くが5月中旬から10月中旬にかけて閉鎖となる。しかし1999年、マヤ湾はアレックス・ガーランドの小説をもとにした映画「ザ・ビーチ」のロケ地となり、人気が沸騰。以来、通年で旅行者を受け入れ続けた。その結果、訪問者数は、一日平均でボート200台・4000人までに拡大。最近、海洋生物学者が実施した調査では、同地域のサンゴ礁は大部分が消え、かつて見られた海の生態系も失われてしまった。その観光地が受け入れられる許容限度を超えて観光客が訪問している過剰混雑の状態の、いわゆる「オーバーツーリズム」が招いた結果といえる。
タイの環境開発国家戦略委員会のメンバーで、著名な海洋学者でもあるソン・タムロンナワサワット氏は、「何十年もずっと休みなしで働き続けてきた人のようなもので、ビーチが過労状態。かつての美しい面影はなく、休息が必要だ」と指摘する。
フィリピンのボラカイ島も一時閉鎖が決定
東南アジアでは、同じような危機に直面しているビーチリゾートが他にもある。フィリピンでは、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領がこのほど、同国中部にある小さな島、ボラカイ島を閉鎖する方針を明らかにした。美しい白砂のビーチやにぎやかなナイトライフで人気のリゾート地だが、今や「汚水溜め」になってしまったと憤る。
同大統領は先週、「汚水がきちんと処理されず、そのまま海に垂れ流されて、海洋汚染が深刻化している。海岸の砂が真っ白なので、きれいに見えているだけ」と話した。
フィリピン政府の環境担当高官は、4月末からボラカイ島を一時閉鎖すると同時に、支援地域に指定。汚染の影響を受けている現地住民や関係者への対策を講じるための緊急予算を組む考えを示した。開始時期の詳細については、30日前に告知を出す予定。
閉鎖期間は6か月以内を検討しており、この間、大規模なクリーンアップ作戦を実施。法令を遵守していないリゾート施設や業者に対し、汚水や廃棄物処理システムの導入を義務付け、これ以上の汚染拡大を食い止める。
昨年、ボラカイ島には、アジア、米国、欧州などから観光客100万人以上が訪れた。何年もの間、環境保全に関する法令違反を放置し、島の対応能力を超えた観光客を無作為に受け入れ続けたボラカイ島自治体当局の責任を問う声もある。
入域禁止の効果は「絶大」と期待、観光客の数を増やすより「持続可能なツーリズム」を
タイのソン氏は、ビーチの一時閉鎖が、生態系の回復を大きく前進させると期待している。同国の国立公園・野生動物局のタンヤ・ネティタンマクム局長は、「手遅れかといえば、答はノー。だが今すぐ対策を始めないと、手遅れになる」
マヤ湾では、閉鎖期間を終了した後は、1日当たりの受け入れ観光客数を最大2000人に制限するほか、ボートが湾内に錨を下して停泊することを禁止。島の反対側にある浮き桟橋に停泊するよう義務付ける。
ソン氏は、従来の受け入れ観光客数は、島にとってサステナブルではなく、一時閉鎖することで、何もしないよりは状況が改善できると考えている。
「地元住民も、我々も同じ思い。観光地をきちんとマネジメントする必要があり、今回、よい形でスタートできたと思う。最初の一年間の経験を踏まえつつ、より良い手法を模索していきたい。資源を上手に管理することが重要。観光客の数を増やすより、持続可能なツーリズムを目指す方が、地元への恩恵も大きいのです」。
昨年、タイを訪れた観光客数は3500万人超。これに対し、「ザ・ビーチ」が公開された2000年は、まだ1000万人ほどだった。タイ当局は、過去にも観光客が増えすぎてダメージを受けた島を閉鎖している。ピピ諸島にあるヨーン島(Koh Yoong)と、国立公園に指定されているシミラン諸島のタチャイ島(Koh Tachai)は、2016年半ば以降、観光客の立ち入りが禁止されている。
最近、2つの島を視察したソン氏によると、入域禁止の効果は絶大だ。一時は荒れ果ててしまった海洋生態系とサンゴが再び勢いを取り戻し、色鮮やかな海が戻ってきたと言う。こうした成果から、マヤ湾の状況も、毎年、一定期間をクローズすることで改善できると確認している。
「マヤ湾を、昔のように生命溢れる海にしたいとずっと願っていました。私は30年以上、マヤ湾で仕事し、楽園のような場所だった時代から、何もなくなってしまった今の姿まで、見つめてきました。海洋学者なら誰でも、あのパラダイスを再びタイに取り戻すことは夢であり、そのための努力は惜しまないでしょう」(ソン氏)。