日本政府観光局がインバウンド誘致で重視するコンテンツづくりとは? 韓国・台湾で行う広告手法を聞いてきた

日本政府観光局(JNTO)は、AdAsia Holdings, popInと共同で「台湾・韓国インバウンドにおいて、利用者の心を動かすコンテンツとは?」をテーマにセミナーとトークセッションを実施した。イベントでは、JNTOのデジタルマーケティングの現状と課題を報告。また、インターネット広告でコンテンツの重要性がますます高まるなか、台湾で訪日プロモーション広告のサポートするAdAsiaと「ネイテイブアド」を展開するpopInが、訪日客の心に響く新しいコンテンツ広告手法を説明した。

日本政府観光局、韓国・台湾で独自コンテンツを配信

日本政府観光局デジタルマーケティング室シニア・アシスタントマネージャーの文野領氏は、JNTOの戦略として、データ分析に基づく科学的なマーケティングの実施、外国人視点に基づくコンテンツの最適化、各種プラットフォーム連携によるプロモーションの高度化を進めていることを説明。そのなかで、コンテンツマーケティングのひとつとして海外向けウェブマガジン「Japan Monthly Web Magazine」を紹介した。

韓国と台湾については、同ウェブマガジンのユーザー数は、ほぼ同規模。ただ、コンテンツの関心については違いがあるという。2017年4月から2018年3月の人気記事ランキングについて、韓国では、2011年の配信ながらも、「1万円でできる旅/東京」がトップ。次いで2015年配信の「鹿児島特集温泉編」、2015年配信の「屋久島」、2010年配信の「温泉を10倍楽しむ方法」となっている。このほか、JNTO韓国事務所がフェイスブックで青森県の青荷温泉を取り上げたところ、高いエンゲージメントを残したという。一方、台湾では2015年配信の「手ぶら観光」が1位となり、2014年配信の「流氷破砕船」、2014年配信の「お遍路さん」が続いた。

文野氏は、韓国も台湾もリピーターが非常に多いため、「日本人以上に日本のことを知っている。誰も知らないコンテンツに食いつく」と分析。そのうえで、ウェブマガジンのコンセプトとしては、「定番はとりあげない。ポテンシャルはあるがプレイクしきれていないコンテンツを自前でつくる」と説明した。

JNTOデジタルマーケティング室の文野氏

「刺さる受け手をどのように探すか」が課題

コンテンツづくりで重視している点については、テーマの明確化、対象にアクセスするための具体的な情報、情報の鮮度を挙げたほか、日本在住の外国人の意見を参考に外国人視点での企画を大切にし、正確で自然な翻訳表現を目指しているという。ただ、翻訳については、「外国語ができればいいというわけではないので、人材確保に課題がある」とした。このほか、ウェブマガジンの位置づけとしては「グローバル視点で何年も検索されるもの」とし、「現在流行っているものを配信する」SNSとは区別した。

各種データを一元的にDMPに蓄積し、そのデータを分析、活用しても、「コンテンツ作成の本質は変わらない」と文野氏。ターゲットが明確で、ターゲットに価値を提供し、ターゲットとの関係を維持できることが重要とし、「作成したコンテンツをどのように拡散し、刺さる受け手をどのように見つけるかが課題」とした。

popInのレコメンドウィジェットも活用

popInの高橋氏

この課題を解決するひとつの方法として、JNTOではJapan Monthly Web Magazine 上で、popInが提供する「レコメンドウィジェット」の活用を始めた。これは、記事下に「おすすめ記事」や「関連記事」を表示し、その中に広告を混ぜて表示するもの。popInマネージャーの高橋徹氏は、「自然な流れで次の情報にクリックしてもらう仕掛け。今月導入したばかりだが、JNTOと一緒にデータを取りながら効果を上げていきたい」と期待を寄せる。

popInは、台湾訪日市場でAdAsiaとも共同事業を展開している。AdAsiaはインターネット広告の活用法と持続可能なKPI設定に関するソリューションを提供しており、例えば、東武鉄道の「TOBU JAPAN TRIP」では日光への旅行意欲を高めるために、インフルエンサー投稿、ネイティブAD+記事LP(ランディングページ)、ネイティブADのみの3本柱を展開。このうち、インフルエンサー監修のネイティブAD+記事LPが、多くのページ閲覧数を獲得し、チケットページへの誘導にも貢献したという。

AdAsiaの鵜飼氏

AdAsiaマネージャーの鵜飼洵也氏は「popInのコンテンツを読み込むモチベーションの高いユーザーを獲得し、彼らに『まだ知らない日光の魅力』を届けたことで、日光への旅行意欲を喚起することができている」と自信を示した。

コンテンツの評価は、閲覧数ではなく「どれだけ理解されたか」

トークセッションでは、文野氏はJNTOのデジタルマーケティングの取り組みについて、「基盤を整備する方を優先していたため、コンテンツは置き去りになっていた」と自戒。そのうえで、現在はコンテンツづくりに注力し、ディープな日本を紹介する取り組みを進めていると説明した。最近では、台湾市場向けには日本の3大音楽フェスを取り上げたところ、「反応がよかった」という。

AdAsiaの鵜飼氏は、スマートフォンを意識したコンテンツづくりが大切と指摘したうえで、「余分なものを排除した長くないコンテンツでテンポがいい構成が好まれる」と説明。広告色の濃くない記事LPの活用については、「EC商品で効果が出ているので、旅行でも活かせると思う」と話した。

また、popInアカウントエグゼクティブで個人的に日本の情報を発信している彭義芬氏は、台湾人の趣向について紹介。「台湾人は日本の日常生活に関心が高い。日本人にはつまらないことでも台湾人にはおもしろい」とし、日本の「居酒屋のはしご、シメはラーメン」を紹介したところ、クリック率が高かったことを例として挙げた。彭氏はアマチュアとしてノーギャラで発信しているが、その利点として「書きたいことがかける」とした。

それに対し、文野氏はJNTOが実施した「海外インフルエンサーと連携した訪日旅行促進事業」で30名のブロガーを招待して、日本各地の情報を配信してもらったが、「熱量に差があるところに課題があった」と振り返り、「アマはホームランを狙うが、プロは3割打者を目指す。それぞれ役割が違う」と発言した。

SNSの運用については、オーストラリア政府観光局のデジタルマーケティングを高く評価。「一方的なプロモーションではなく、双方向のコミュニケーションからコミュニティを作り出し、そこから新しい情報をすくい上げ、新しいコンテンツをつくり出している」と話し、JNTOの目指す姿と重ね合わせた。

このほか、デジタルマーケティングで設定が難しいとされているKPIについて、AdAsiaの鵜飼氏は、「最終ゴールではなく、その手前の指標を掲げることをおすすめしている」とし、TOBU JAPAN TRIPについて言えば、「チケットの販売量ではなく、チケット販売サイトにどれだけ連れていけるかが大切ではないか」と指摘した。

popInの高橋氏は、社内で広告予算を確保するためには、指標を数値化し、それを広告費に換算することを推薦。「コンテンツがどれだけ読まれたかではなく、どれだけ理解されたかどうかが重要」と指摘し、同社が独自に開発した読了率計測ツール「READ」を紹介した。READとは、ページのスクロールや滞在時間とは異なり、文字数や画像の大きさを解析し、読むために必要な時間をかけて記事を読んだかどうかを数値で評価できる仕組みだ。

トークセッション:(左から)文野氏、鵜飼氏、高橋氏、彭氏

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