1日の販売数が固定され、客室在庫の繰り越しのできないホテルにとって、限りある客室をいかに効率よく、良い値段で販売し、収益の最大化を図るか。これはホテルビジネスの基本であり、どのタイプのどんなエリアにあるホテルでも抱える最重要の課題だ。
インバウンドの波に乗り、高稼働が続く都市部のホテルでも、もちろん同じ課題に向き合っている。加えて、来訪客数を上回るペースで次々と誕生する新規ホテルとの競争が続くなか、収益管理・販売戦略にも変化が求められている。
東京都心の赤坂で、ほぼ100%の高稼働が続く「ザ・センチュリオン クラシック赤坂」支配人の三浦哲史氏に、現状の課題と対応策を聞いてきた。同ホテルでは、クラウドベースのホテル市場分析「ホテル番付」を導入し、その課題に向き合っている。
都内ホテルが直面する競争環境
ザ・センチュリオン クラシック赤坂を運営するセンチュリオン・インターナショナルは、プレミアムリゾートからシティホテル、進化系キャビンといった多様な形態のホテルを、国内で全21軒展開するホテルグループ。施設ごとに意匠が異なるデザイナーズホテルであるのが特徴で、このうち12軒を東京都内の赤坂と上野を中心に展開。宿泊主体型シティホテルである同ホテルは、赤坂で5軒目の施設だ。
東京都心のなかでも、赤坂はホテル激戦区の1つ。御三家といわれるラグジュアリーホテルから低価格のカプセルホテルまで、さまざまなタイプのホテルがひしめき合い、国内外の多様な宿泊客が集まる。このなかで同ホテルは、全23室のうち7~8割を8名収容可能とする客室タイプと和の風合いを効かせた個性的なデザインで、旺盛なインバウンド需要の取り込みに成功。毎月ほぼ100%の高稼働で推移している。
しかし、支配人の三浦氏は「今後もインバウンドのお客様は増えていくと思いますが、今のうちにそれ以外のことにも目を向ける必要があります。マーケットバランスの面では国内の主要客である出張者や観光客の比率を上げる必要があり、日本でのブランド力向上が必要です。そのためにもしっかりと、現状の収益の最大化を図ることが重要だと思っています」と、同ホテルが抱える課題を説明する。
三浦氏によると、センチュリオングループのホテルが多い赤坂、そして上野は、都内でも新規開業が集中し、それがホテル間の競争を激化させている。赤坂では溜池山王などの周辺を含めて昨年から1000室増加。上野は浅草を含めて年内には1200室が増える。「海外からのお客様が増えていますが、それ以上に新規開業による客室増が上回っています。加えて、取り込み強化を図っている日本のお客様は、新規ホテルを好む傾向が強いのです」(三浦氏)。
さらに最近は、メタサーチの台頭や収益管理ツールなどが普及し、競合ホテルの販売戦略にも変化が見られるようになった。需要動向に応じてこまめに価格を変動させ、頻繁にレートコントロールを行なうホテルが増えたのだ。この動向に対し、「弊社の従来の販売手法では直近の国内のお客様の取り込みが間に合わず、対応が急務でした」(三浦氏)。そこで同ホテルでは、株式会社空が提供するクラウドベースのホテル市場分析エージェント「ホテル番付」の導入を決めた。
オンライン上の実勢価格と客室在庫を瞬時に把握
「ホテル番付」は、ホテル経営をサポートする市場調査・分析の支援システム。AIを活用し、競合となる周辺施設の客室単価や客室在庫数などの情報を、収益管理や販売戦略の担当者が利用しやすい形で提供する。オンライン上で公開されている宿泊予約サイト上の予約カレンダーなどから毎日自動で収集するので、日々の実勢の価格や客室在庫に対応したデータであるのが特徴だ。
例えば、「予約ペースを見る」機能は、比較対象として選べる競合ホテル15軒の客室在庫数について、1週間の残室量の変化をグラフ化して一目で見られるようにしたもの。「いままで使っていたシステムにはない機能で、非常に有効だと思いました」と三浦氏。この機能が、導入の大きな決め手になったという。
また、「日ごとの調子を見る」機能では、稼働状況と客室単価の指標をもとに、現状の販売価格が高い日、低い日を一目で把握できる。このほか、宿泊需要に大きく影響する周辺のイベント情報も、オンライン上で流通するチケット情報等を収集して通知する。
こうした結果を踏まえ、同ホテルでは予約が伸びている場合は価格を上げたり、逆の動きでは値下げをするなど、適切なレートコントロールを迅速に対応できるようになった。予約が鈍くても、周辺ホテルが動いている場合には現状の価格で粘り、少しでも高い予約を取り込むなど、需要に応じた強気の販売が可能になったという。
実は同ホテルではこれまで、価格設定は昨年の実績を基準とし、その後、自力で各予約サイト上の価格や客室在庫状況をひとつひとつ、チェックして調整をしていた。そのため、ホテル番付の導入で、業務時間は「肌感覚だが10分の1くらい」と大幅に減少。同ホテルのみならず、都内で展開するセンチュリオングループのシティホテル6軒に導入したことで、本部で全体を見ることができるようになったことも、大幅な業務削減につながったと話す。
さらに「そもそも、基準としていた昨年の価格がレートコントロールに成功していたものかも不明。しかし、ホテル番付では実勢価格が日々、同じクオリティで収集・分析がされます」と、収益管理の根拠となるデータの精度向上も重視する。
ホテル全体の課題解決や戦略立てへの活用も
同ホテルがホテル番付を導入したのは7月の下旬。まだ1か月強(取材時)の使用にもかかわらず、スムーズに活用ができているのは、ホテル番付が人に代わって自動実行する“エージェント型サービス”であることも大きい。一般的なツール型は分析結果のグラフを出すだけで、そこからの読み取りや判断は担当者の経験や知識で変わってくる。しかし、「ホテル番付」では、例えば「競合ホテルが5000円値上げをした日」、「予約ペースが大きく伸びている日」などチェックすべき内容や日にちを事前に調べてユーザーへ知らせたり、グラフの中でわかりやすいように表示したりしている。
さらに、「(空からは)よく電話を頂いて、使用感や欲しい機能などを聞いてくださる。グラフの見方などのアドバイスから、各機能を活用する提案もしてくださるので助かります」と三浦氏。画面上にQ&A用のチャットボックスを用意したり、月に1~2回は利用状況の履歴を踏まえて直接、担当者に電話をするサポート体制に、助けられる部分も多いようだ。
そのため、同ホテルでは当初の目的以上の効果を感じる場面が増えている。1つは、人材不足への対応。実はセンチュリオングループでは2020年までに50軒とする拡大計画を掲げており、今年度中にも大阪や箱根、来年には出雲や沖縄へと、特に地方への新規開業を進める。日本全国で人材不足が叫ばれるなか、地方で有望な人材を採用するにはホテル業の未経験者にも門戸を広げる必要がある。その際、市場分析・収益管理業務に関してはホテル番付を通じ、地方のスタッフとの業務遂行がしやすくなると見込む。
さらに、「新規開業計画自体にも活用できるのです」と三浦氏。ホテル番付で比較対象のホテルは変更ができるため、日本全国のホテルを選ぶことができる。「ホテル番付」は収益管理を目的とするシステムであるが、そのための市場調査・分析機能を新規開業の調査に活用するホテルも少なくないという。
同ホテルではホテル番付の活用で削減できたリソースを、本来の目的である「収益の拡大化」に活用する方針。稼働率は上限、客室単価も国内最高水準である都内で、収益拡大を図る方法として出した答えとは何か。
「やはり、ホテルの魅力付けだと思います。評価を頂いているホスピタリティや内装のデザインなどを磨き上げ、ホテルの競争力を強化していきます」と三浦氏。お客様の支持を得たうえで客室単価を上げていく。そして「弊社は日本全国に展開するので、どこに行っても『センチュリオンに泊まれば安心』と思っていただけるようにブランドを高めていきたい」。
さて、ホテル番付の導入により、実際の収益拡大は図れたのか。実は、センチュリオングループでは戦略変更や市場の需要の強さ等もあり、導入以前から売上高が前年を上回る推移になっており、直接的な効果を測るのは難しいという。しかし、同ホテルが感じている手ごたえは、三浦氏のこれまでの発言に表れているといえるだろう。
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記事:トラベルボイス企画部