ブッキングドットコムの事業モデルに変化の兆し? 宿泊予約時の「前払い方式」が加速、決算の数値を読み解いた【外電コラム】

ブッキングドットコムを中核に据えるブッキング・ホールディングスの業績発表は、まるで時計の針が逆に動いたようだった。同社のでは、これまでホテル宿泊料金の「前払い方式」には、基本的に消極的だったが、ここにきて事前支払い方式での取扱いが加速している。前払いのメリットは、キャッシュフローの改善だ。予約が確定した段階で入金がある上、コミッション率も高くなる――。

※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との公式提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

2年ほど前、グレン・フォーゲル氏がブッキング・ホールディングスの最高経営責任者(CEO)に就任したとき、アナリストの誰が今の状況を予想していただろうか。ブランドマーケティングを強化し、マーチャント・モデル(「前払い方式」=利用者は、予約確定した時点でOTAに宿泊費を支払う)を拡大するとは思ってもみなかっただろう。

なにしろ、主力ブランドであるブッキングドットコムでは、グーグルなどを通じて課金型マーケティング(paid marketing)を展開し、代理店としてホテル予約を取り扱うエージェンシー・モデル(「現地払い方式」=ホテル宿泊時にホテルに支払う)の事業スタイルを長く貫いてきた。

しかし大きな転機を迎えつつある。先ごろ発表された2018年第3四半期決算で、ブッキング・ホールディングス全体でのマーチャント方式でのホテル売上は前年同期比53.4%増となり、約10億5000万ドル(約1155億円)。これに対し、エージェンシー方式での売上は、伸び率は1%以下で35億4000万ドル(約3890億円)。予約取扱泊数では、マーチャント方式が同65.7%増となる一方、エージェンシー方式はわずか2.3%増だった。

大幅増の背景にある要因の一つはアジア市場だ。ブッキング・ホールディングス傘下では、アゴダが強いマーケットであり、アゴダでは当初からマーチャント方式を主軸にしている。これに対し、規模では圧倒的に大きいブッキングドットコムが採用してきたのがエージェンシー方式だった。

ブッキング・ホールディングスのホテル予約で、マーチャント方式の伸びが目立つようになり、その結果、コミッション収入が増え、キャシュフローが改善するようになった時期を追ってみると、2017年第4四半期、新しいグローバル決済プラットフォームの導入に重なる。この新しい決済テクノロジーによって、利用者もホテル側も決済手段の選択肢が広がり、クレジットカードに加え、例えばアリペイ(AliPay)やグラブ・ペイ(GrabPay)なども利用できるようになった。

主なメリットは?

ブッキング・ホールディングスは、明らかにマーチャント方式へ軸足を移しつつあり、第3四半期実績では、売上48億5000万ドル(約5335億円)のうち21.6%を占めるまでに増えている。こうした方針転換が何を示唆しているのか、スキフト・リサーチのシニア・リサーチ・アナリスト、セス・ボルコ氏の見解を聞いた。

「キャッシュフローの観点では、マーチャント方式を増やすことで、ブッキング・ホールディングスは予約確定の時点から現金が入るようになるうえ、ホテル側への支払いは、実際の宿泊が発生した後。この間、おそらく数か月ほど、ブッキング側にキャッシュが滞留することになり、ほとんどの場合、利子なども不要。ブッキング側は、新しいプロジェクト資金などに活用できる。さらに、マーチャント方式の方がコミッション率が高い場合が多いので、ブッキング社の売上も増える」と同氏は指摘する。

ボルコ氏によると、今年9月期の四半期決算では、ブッキングがホテルのマーチャント取引で採用しているホテル予約コミッション率は20%前後。一方、エージェンシー方式では同18.6%。どちらの方式でも、コミッション率に大差ないじゃないか、と思うかもしれないが、それは間違いだ。

「パーセント数のわずかな違いも、総取扱高が何十、何百億ドルになるブッキング・ホールディングスの場合、桁違いだ。例えば1パーセントの違いで、売上には9億ドルの差が出る」とボルコ氏。

マーケティング戦略にも変化

ここ1年ほど、ブッキング・ホールディングスで目立つもう一つの大きな変化は、ブランドマーケティングへの傾倒だ。デジタル動画であったり、テレビだったり、形は様々だが、要は旅行者が自社サイトに直行し、そこで予約するよう促すことが狙いだ。

主要ホテルチェーンでは、ユーザーを自社サイトに誘導し、直接予約するよう働きかけるキャンペーンを何年も展開しているが、ある意味、こうした動きにも似ている。ただしブッキングドットコムでは、直接予約なら宿泊レートを下げるという訳ではない。

ブッキング・ホールディングスの第3四半期ブランドマーケティング費用は、前年同期比27%増の1億6010万ドル(約176億円)。一方、検索エンジンでのパフォーマンス・マーケティング費用は同7%増の13億ドル(約1430億円)。金額で比べると、ブランドマーケティングへの投資額は依然として少ないが、軌跡が描くカーブを見ると、ブランドマーケティングの伸びは注目に値する。今期、同社のブランドマーケティング費用が売上に占めるパーセントは、同50ベーシスポイント(bp)増の3.3%だったのに対し、検索エンジンでのマーケティング費用は同70bp減の27.1%だった。

今後もブッキング・ホールディングスがブランドマーケティングに力を入れていくことが予想されるが、フォーゲルCEOは、市場環境やビジネスチャンス次第で、柔軟に対応すると話している。

「ご承知の通り、費用を拡大しており、今後も増やす考えだ。長期的に考えた場合、なるべく多くのトラフィックが、当社ブランドのサイトに直行してくれることが望ましく、そのためにはブランド認知度の強化が必要だ」とフォーゲルCEOは決算報告会でアナリストや投資家に説明している。

「ホテル以外」の宿泊ビジネス

ブランドマーケティングへの投資を拡大し、自社サイトに直行してくれるユーザーを増やすことは、ブッキングドットコムが展開する「もう一つの宿泊施設」ビジネス、つまり民泊事業の活性化にも効果的だ。現在登録されている物件は、前年同期比21%増の570万軒。フォーゲルCEOによると、ブッキングドットコムに初めてアクセスしてきたユーザーには、ホテル客室ではなく、民泊物件を探すのが目的という人が少なくない。

「こうした利用者層をもっと増やしたいと考えている。ブッキング・ホームのプロダクトが、広く知られるようになってほしい」(フォーゲルCEO)。

今期、ブッキングドットコムが取り扱った宿泊施設の予約総数は同13.4%増。創業以来、初めて四半期での取扱泊数が2億泊を突破した。続く第4四半期は、宿泊数が同12%増えると同社では予測している。

見方によっては、ブッキング・ホールディングスは今、投資モードにあると言える。同社関係者は、プラットフォームに投資することでさらなる成長が促せるなら、2019年の業績で利益率が少しぐらい下がることも厭わないと話す。今年第3四半期の純利益は同3%増の18億ドル(約1980億円)。売上は同9.3%増の48億5000万ドル(約5335億円)だった。

エクスペディア vs ブッキングHD

ライバル企業のエクスペディア・グループでは、ずっとマーチャント方式でホテル予約事業を展開してきたが、エージェンシー方式で勢力を拡大するブッキング・ホールディングスに押されてきた。最近では、エクスペディアでも、ブッキングドットコムと同じようなやり方を取り入れるようになり、ホテル予約の決済では、宿泊時の支払いを選択することもできる。

一方のブッキング・ホールディングスも、傘下のプライスラインやアゴダでは、常にマーチャント方式でホテル予約を取扱ってきた。最近では、事前に支払う形が主流になりつつある。

それでもエクスペディアとブッキングのビジネス手法には、まだ多くの相違点がある、とスキフト・リサーチのボルコ氏は指摘する。「エクスペディアでは、総予約高の50%ほどがマーチャント方式によるもの。ブッキング・ホールディングスでは、(増えたと言われる)今期実績でも22%足らず」。

この差はさらに縮んでいくのかどうか、今後に要注目だ。

※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Booking Holdings Makes Major Pivot Toward Prepaid Hotel Bookings

著者:デニス・シャール(Dennis Schaal)氏

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