JR東日本のMaaS戦略とは? 鉄道のオンライン化は正念場、チケット販売の未来から新たな観光需要の創出まで担当者に聞いてきた

テクノロジーの革新が進むいま、日本の旅行販売のオンライン化において最大の鍵を握るのが鉄道分野だ。また、国内旅行、訪日旅行ともに、今後の成長を左右するのは需要の地方分散であり、利便性を高めて誘客を鉄道とバスなどの二次交通をシームレスにつなぐことは、観光客の新たな周遊を促進するうえでも不可欠になっている。

今年の「WiT JAPAN & NORTH ASIA 2019(以下WiT Japan)」には、東日本旅客鉄道(JR東日本)でMaaS事業も担当する鉄道事業本部営業部観光流動推進グループリーダーの鴇澤良次氏がミニセッションに登壇。トラベルボイスは個別インタビューも実施し、今後のJR東日本のオンライン販売から駅や店舗のあり方、MaaS戦略まで聞いてきた。

2022年までに自社の新幹線チケットレス比率を半分に引き上げ

「鉄道のオンライン化は旅行商品も含めていまがまさに正念場。加速するタイミングだ」と語る鴇澤氏。JR東日本は予約サイト「えきねっと」を強化する方針を明らかにしており、2022年3月の旅行業システムの更新に合わせ、旅行商品は交通と宿泊を選んで組み合わせる価格変動型のダイナミックレールパックに特化する。また、2022年までに自社新幹線のチケットレスの割合を半分程度に引き上げる計画もある。

「従来、鉄道の旅行商品は、バックヤードで人が操作して切符を発券して届けるオフラインの世界で動いていたが、パッケージツアーの販売減少、少子高齢化による担い手不足が課題となるなか、改革は不可避。それがテクノロジーの進展で、ようやく本格的なオンライン化に踏み込めるようになった」(鴇澤氏)。

もっとも、日本のオンライン旅行販売の中で、鉄道分野の遅れが目立っているのも現状だ。WiT Japan で講演したフォーカスライト日本代表の牛場春夫氏が「鉄道の2018年のネット比率は26%(新幹線に限定)。57%の航空や44%の宿泊施設に大きく水を開けられている」と指摘したことに対しては、「2001年にICカード・Suicaを導入し、現在ではスマートフォンで予約・決済もできるようになってきたが、航空などに比べ全般的に遅れているのは事実。鉄道は発着駅、経路、設備のバリエーションが多く、単純にオンライン化できないのが障害になっていたが、時代に合わせて、新しい技術も取り入れながら変わっていかなければならない」と語る。基幹の旅行業システムの改良はもとより、スタートアップ企業などと協業し、チャットボット、スマートスピーカーなどさまざまな技術の導入も視野に入れる。

オンラインへの移行は、これまで駅で販売の主力を担ってきた店舗と表裏一体にある。JRはえきねっとでのダイナミックレールパックを強化する一方で、2022年3月末までに駅で個人型パッケージツアーを販売する「びゅうプラザ」を営業終了することも決定している。

MaaSで新たな観光需要を創出する

全国に駅という拠点があるのは、鉄道業界の大きな強みでもある。では、これからの駅はどう変わり、そこにテクノロジーはどう関わっていくのか。

「駅が地域に根差した存在であるのは変わらない。これまでの駅は販売の拠点だったが、これからはお客様をお迎えする場として位置づけていく」と話す鴇澤氏。訪日客や地方顧客への地域に根差した情報発信の場であるとともに、今後、ポイントとなるのがMaaS(2次交通統合型移動サービス)をサポートする場としての体制づくりだ。

「OTAと我々の大きな違いは、ITとリアルな場との両輪で展開できること。テクノロジーを取り入れてオンライン化を進める一方、駅は販売だけでなく、これまでの定例業務だけでなく、地域の人たちと一緒に観光流動を進める仕事なども担っていくことを目指す」(鴇澤氏)。

WiT登壇時の発表スライドの一部

JR東日本は観光型MaaSを推進していく一環として、2019年4月から東京急行電鉄(東急電鉄)と共同で、伊豆エリアで実証実験を実施している。鉄道、バス、AIオンデマンド乗合交通、レンタサイクルなどの交通手段をスマートフォンで検索・予約・決済し、目的地までシームレスに移動できることを目指して第一歩を踏み出した。前半4~6月のPhase1期間中、専用MaaSアプリケーションのダウンロード数は、当初6カ月間の目標だった2万ダウンロードを達成し好調なスタートを切ったが、鴇澤氏は「まだまだスタートしたばかり。知見をためて改善していかなければならないことが山積している」との現状認識だ。

課題は、地域を結ぶさまざまな企業との連携。「シームレスにつなぐには互いの基幹システムの違いもあり、簡単ではない。そのため予約、決済までできることを目指しつつ、まずはリンクを張るところからスタートしている。スタートアップ会社の参画も含め、いろんな企業が協力し合って顧客の利便性を高めよう、観光はもちろん、日常生活の多様なサービスを一気通貫で予約・決済できる環境を作ろうという共通の思いがある。決済手段も自社のSuicaを核にしつつ、お客さま視点に立って多様な手段を探っていきたい」(鴇澤氏)。

観光型MaaSが実現し、シームレス化によって総移動時間が短縮できれば、それだけ観光周遊の可能性も高まる。「当社にとって、主戦場はやはり東北エリア。東北でも実証実験を進めながら新たな観光需要を創造していきたい」と語る鴇澤氏。巨大な鉄道ネットワークを持ち、1日の乗降客数が1750万人に上るJR東日本が描く「デジタル×観光」から目が離せない。

WiT登壇時の鴇澤氏

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫


記事:野間麻衣子

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