テクノロジー×旅行の国際会議「WiT Japan 2019」が、2019年7月4日に開幕した。今年はメインカンファレンスを従来の1日から1.5日に拡大し、登壇者の顔ぶれも業界の枠を超えて多彩に。オンライン予約の傾向からスーパーアプリ、ペイメントなどのトレンドワードまで、旅行・観光業界の今と未来を展望する熱い講演や議論が行なわれた。
このなかで、米国の旅行調査会社・フォーカスライト日本代表の牛場春夫氏が、日本のオンライン旅行販売の現状について講演。同社の国内各社への聞き取り調査から、2018年の主要サプライヤーのオンライン旅行比率が41%であるという結果を公表した。アジア太平洋地域(APAC)の45%、欧米の5割超と比べ、日本はオンライン比率は低いといわれているものの、一部の特殊要因を除くと、世界でも極めて高いレベルにあるという。
オンライン比率を左右する日本ならではの特殊要因
フォーカスライト日本の調べによると、日本の主要サプライヤーの総販売額の比率は、航空(25%)と宿泊施設(40%)、鉄道(32%)がほぼ3等分の3強。しかし、オンライン販売に限ると、航空(34%)と宿泊施設(43%)に2分され、鉄道の割合が21%に縮小する。鉄道を除けば、航空と宿泊施設は世界とほぼ互角であり、航空だけに絞れば世界平均を上回るという。
航空に関しては、特に日本の国内線は年間旅客数が1億人で、米国、中国、インドに次ぐ世界4位の市場。国際線も堅調なインバウンドの後押しを受け、世界10位の規模となっている。牛場氏は、この規模で航空分野のネット比率は2018年に57%、2022年には6割を超えると見込む。国内線だけで見れば、ネット比率は1年前に7割を超え、団体販売の28%を除けば、「ネット比率はほぼ100%といってもいい」と、世界でもネット化の進む分野であることを説明した。
宿泊施設に関しては、中小規模の旅館を含む5万軒のオンライン販売比率は44%で、「およそ海外並みのネット率」と牛場氏。2022年には49%にまで上がり、全体のほぼ半数になると予想する。
ただし、いわゆる「ビジネスホテル」に限ればオンライン比率は55%と半数を超えるが、1泊2食付きの多い旅館は3割弱。牛場氏は「“伝統的”がつくとネット比率がガクンと下がる」という傾向を指摘し、表示が複雑な旅館のネット比率は、ビジネスホテルの半分ほどに留まっているという調査結果も明らかにした。
鉄道に関しては、国内全体の年間旅客数が250億人という世界的な巨大マーケットであることから、対象を目的地に1泊以上する旅行者を輸送することが多い新幹線に限定。2018年のネット比率は26%で、航空や宿泊施設に大きく水が開けられている。これについて牛場氏は推測として、「どちらかというと、JRの戦略的優先度は、ICによる駅の自動化などの方が強いのではないか」との考えを示した。
ただし、新幹線でもチケットレスで利用できるアプリ提供を開始していることから、今後はネット比率が現状より上がっていくとみている。
今年も恒例のOTAセッションが開催
また、日本OTA各社が登壇するWiT Japan恒例のセッションでは、一休、JTB、楽天、リクルートライフスタイル(じゃらん)の4社が登壇。昨年の登壇後1年の成長推移から、マーケットトレンドなどについて話した。
このなかで、インバウンドについては、各社が得意分野や取り組み方針について言及。楽天のライフ&レジャーカンパニー トラベル事業長の髙野芳行氏は、差別化要因として宿泊施設との連携を上げ、「日本は特殊な宿泊の環境があるので、1泊2食付きの価値を海外の人にしっかり伝えることができれば、国内OTAでも勝てる」との考えを示した。
また、ペイメントについては、リクルートライフタイル エグゼクティブマネジャーの宮本賢一郎氏が、同社のBtoB決済サービス「Airペイ」で、旅行事業も一緒に地域ぐるみでの導入推進をした事例を発表。富士吉田市で市内にある150の事業者のうち100事業者に導入して、アクティビティ・体験サービスを一緒に作りこんだことで、「新たな需要が生まれ、消費額の底上げにつながった」と説明した。
WiT Japan2019は、引き続き7月5日も終日メインカンファレンスが行なわれ、スーパーアプリやポイントプログラム、ダイバーシティなど、あらたなテーマによるセッションも行なわれる。
記事:山田紀子