国内ローカル航空で行く南国の離島めぐり、小型プロペラ機で「日本一短い路線」から「1泊2日で8フライト」まで取材してきた【後編】

【秋本俊二のエアライン・レポート】

国内ローカル航空の小型プロペラ機でめぐる旅を紹介するレポートコラム。前編では、オリエンタルエアブリッジ(ORC)と天草エアライン(AMX)で長崎と天草を発着するフライトを紹介した。

鹿児島や沖縄にも、旅好きが気になる魅力的な島々が点在する。喜界島や沖永良部島、徳之島、与論島といった奄美群島や、宮古島、石垣島などの沖縄を代表するリゾートアイランドだ。後編では、日本エアコミューターや日本トランスオーシャン航空、琉球エアーコミューターを使った島旅を紹介する。

JACで鹿児島から奄美群島へ

九州と沖縄のあいだに浮かぶ奄美大島、喜界島、沖永良部島、徳之島、与論島──。これらの離島へアクセスするなら、鹿児島を拠点に島々をむすぶ日本エアコミューターを利用すると便利だ。1回の旅で複数の島を訪れることも可能である。

いくつかの島旅を一度に実現する場合、スケジュールづくりやチケットの予約が大変そうだが、JALグループではこうした旅を体験できるツアーを2013年から商品化している。ちなみに2019年8月現在で販売されているのは、1泊2日もしくは2泊3日で8~15フライトを楽しむ「跳び飛びの旅」と題するツアーである。

1泊2日で8フライトを体験するツアーでは、羽田(または伊丹)から午前中の便で鹿児島へ。そこで48人乗りのATR42-600に乗り換え、喜界島に向かう。ATR42-600は同社が2017年4月から運航を始めた高い快適性と環境性能(低燃費、低騒音)を兼ね備えた最新鋭の小型プロペラ機だ。喜界島からは奄美大島を経由して徳之島に到着。ここまでが初日のフライトである。

2017年4月からATR42-600での運航をスタート

徳之島のホテルに1泊して、翌日は徳之島から沖永良部へ。その後、那覇へ向かい、那覇からは福岡を経由して羽田(または伊丹)に戻る。これで計8フライトの完了だ。12フライト、14フライトというプランもあり、同じルートの単純往復も含めてひたすら飛行機に乗るだけなのに、ファンのあいだでこれらのツアーは大人気。販売サイトでは「観光の時間はありません」と念を押している。

鹿児島空港を離陸すると、開聞岳の噴火口が間近に

日本エアコミューターが運航する鹿児島からの離島線のなかで、飛行距離が最も短いのが種子島線だ。鹿児島/種子島もATR42-600で1日3~4往復を運航している。

種子島といえば、歴史の授業では「鉄砲伝来の島」だと習ったが、最近は「日本で宇宙にいちばん近い島」として知られるようになった。鹿児島空港を離陸後、桜島を長めながら、大隅半島を南下。海峡を越えると、あっという間に島に到着する。実際のフライト時間は30分足らずだ。国産ロケットの打上げ実験などが実施される種子島宇宙センターは島の南端にあり、空港からはクルマで50分ほど。ロケットの打上げ時には報道機関の取材場所となる竹崎展望台からの景色は、目をみはるほど素晴らしい。

JALグループの方言サービス

九州から、さらに南へ足を伸ばしてみよう。

沖縄にも宮古島や石垣島など人気のリゾートアイランドが多い。宮古島や石垣島へは、那覇からも複数の航空会社が就航し、それぞれに特徴あるフライトが楽しめる。沖縄県3位の人口を擁する宮古島へは、JALグループの日本トランスオーシャン航空(JTA)が1日8往復を、ANAが1日5往復を運航。使用機材はいずれもジェット機のボーイング737-800だ。

那覇空港に駐機するJTAのボーイング737-800

搭乗が始まり、機内に入って指定された席につく。シートベルトを締め、やがてドアがクローズされると、客室乗務員のこんなアナウンスが響いてきた。

「はいたい ぐすーよーちゅうがなびら ちゅうやJTAんかい ぬてぃきみそーちいっぺーにふぇーでーびる」

何て言ったのか? よく聞き取れない。もちろん外国に来ているわけではない。ここは沖縄の那覇空港だ。アナウンスされたなかの「JTA」という部分だけ認識できた。それを自ら通訳するように、客室乗務員は続ける。

「みなさま、こんには。本日もJTA、日本トランスオーシャン航空にご搭乗いただきましてありがとうございます」

これは「しまくとぅば」と呼ばれる言葉である。「しまくとぅば」は「島言葉」──つまり沖縄の島々で受け継がれてきた方言だ。沖縄にはいくつもの島があり、それぞれの島で独自の言葉が話されている。那覇空港に到着すると、最初に「めんそーれ」と記された垂れ幕が目にはいってくるが、これも「しまくとぅば」のひとつ。「いらっしゃい」「ようこそ!」という意味の、人々を歓迎する言葉である。

伝統芸能のセリフにもよく「しまくとぅば」は出てくるし、琉球舞踊などの基礎にもなった。しかし最近は、島の言葉が話せない、聞いても理解できないという沖縄県民が少しずつ増えているそうだ。そこで日本トランスオーシャン航空などのJALグループでは、那覇、石垣、宮古、久米島、与那国、多良間、南大東、北大東の沖縄県内全8空港で各地の「しまくとぅば」を使ったサービスを2018年2月からスタートした。その取り組みのひとつとして実施しているのが「しまくとぅば」による機内アナウンスなのである。

機内アナウンスの最後にある「ふぇーでーびる」は那覇と久米島、南大東、北大東で使われる「ありがとう」の意味で、これが宮古と多良間では「たんでぃーがーたんでぃ」に、石垣と与那国は「にーふぁいゆー」になる。

RACで那覇から沖縄の離島へ

日本トランスオーシャン航空を利用する場合はジェット機でのフライトになるが、沖縄の離島便でもプロペラ機でのんびり空旅を楽しみたいという人は琉球エアーコミューターを選ぶといい。宮古島へは、ボンバルディアDHC-8-Q400で毎日1往復を運航している。

琉球エアーコミューターのDHC-8-Q400

また琉球エアーコミューターを利用するなら、台湾までおよそ110キロという日本最西端の与那国島へ那覇から飛んでみるのもいい。現地で空が晴れわたると、水平線上に台湾の山々を望める日もある。与那国島は観光よりも生活路線としての要素が強いが、2003年から放映されたテレビドラマ『Dr・コトー診療所』の舞台になり、地元関係者は「あれから旅行者が増えました」と話している。

与那国島へは、石垣島から飛ぶこともできる。こちらは毎日3往復を運航。離島から離島へのフライトなら、島旅をより満喫できるはずだ。朝一便の出発は10時で、到着は10時30分。飛行時間はわずか15分程度だが、本土などでは決して見ることのできない、沖縄ならではの美しい海を堪能できる。琉球エアーコミューターは同じDHC-8-Q400で、石垣/宮古や宮古/多良間などの路線にも就航している(いずれも1日2往復)。

そうした離島間のフライトでもとにくユニークなのが、同社の南大東島と北大東島をむすぶ路線だ。これは“日本一距離の短い定期便”としても知られている。

那覇から350キロほど東の太平洋上に位置する、南大東島と北大東島。距離にして約12キロ離れたその離島間での運航を、琉球エアーコミューターはつづけてきた。「たったの12キロの距離なら、船を利用するほうが効率的なのでは?」と思う人もいるだろう。ちなみに羽田空港の滑走路の長さは3000メートルだ。12キロというと、羽田空港の滑走路を4本つなげてその端から飛び立つと、反対側の端に到着する前に届いてしまう距離である。

この日本一短い航空路が誕生した背景には、南大東島と北大東島がどちらも周囲を岩肌に囲まれ、船では強風が吹くと接岸を阻まれてしまうという理由がある。船便では風が強い日は、乗客をクレーンをつかって乗り降りさせなければならない。想像するだけで大変さがわかる。「移動がだいぶラクになりました」「私は船に弱いので、おかげさまでずいぶん助かってます」など、島で会った年配の人たちが口々に話していたのを思い出す。地元の人たちにとっては、大切な空の“渡し船”なのだ。

ヒコーキで新聞やマグロも運ぶ

ところで離島への路線は、本土から乗客を運ぶだけが仕事ではない。

たとえば鹿児島県・奄美群島の北東部に浮かぶ喜界島。7000人弱が暮らすこの島の小さな空港に、日本エアコミューターが運航する奄美大島からの朝の第一便が10時過ぎに到着する。スウェーデン製の小型プロペラ機サーブ340B(乗客36人乗り)から降りてくるのは旅行客だけではない。その日の新聞の朝刊などもいっしょに積まれてくる。ヒモで頑丈に縛られた新聞の束は、空港で待機していた配送業者に引きわたされ、町の販売店や新しいニュースを待ち望んでいる各家庭に届けられるのだ。

サーブ340Bは残念ながら退役の日が近づいている

日々の生活に欠かせないこうした貨物輸送も、生活インフラとしてのローカル航空の重要な役割である。島々で採れた新鮮な海の幸や農産物が本土の人たちに手にわたるのも、島と本土、島と島をつなぐ小型プロペラ機の毎日の活躍があってこそだ。急病人の搬送や災害時の救援物資の輸送など、ローカル航空はさまざまなシーンで地域の生活を支えている。

乗客とともに生活物資なども運ばれてくる喜界島空港のロビー

琉球エアーコミューターでも、貨物輸送を事業の重要な柱に位置づけてきた。2016年4月からは、新機材のボンバルディアDHC-8-Q400CCを導入。機種名にあるCCは「カーゴコンビ」の略で、キャビン全体の約3分の1を貨物室貨物室に割り当てた。貨物スペースは約2.5倍に拡大している。

DHC-8-Q400はすでに世界中で運航されているが、機種名の末尾に「CC」がつくこのタイプのモデル導入は琉球エアーコミューターが初めてだ。たとえば離島で獲れたカジキマグロは、乗客から預かった手荷物もあるため、旧機材では2~3本しか載せられなかった。それが改良型の新しい飛行機では最大7本を一度に運ぶことが可能になったという。

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)や『ボーイング787まるごと解説』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)など著書多数。

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