国際航空運送協会(IATA)は、2020年の航空業界の収益見通しを発表した。それによると、航空業界の純利益は、2019年の259億米ドル(6月に280億米ドルから下方修正)を上回るおよそ293億米ドルに達する見込みだ。この予測通りになれば、11年連続で黒字化を達成することになる。
*編集部注:この見通しは、昨年末に発表されたもの。2020年の年明けに発生した米国とイランの緊張関係による影響は加味されていない。
IATAは2020年の世界経済について、GDP成長率が2019年の2.5%を上回る2.7%と予想するとともに、アメリカ大統領選挙によって貿易戦争の緊張も緩和されると見込まれることから、世界貿易の成長率も2019年の0.9%から3.3%に回復すると見込む。
燃料コストについては、石油の供給も在庫も潤沢なことから、平均石油価格も2019年の1バレルあたり65米ドルから63米ドルに下落し、ジェット燃料価格も1バレルあたり77米ドルから75.60米ドルに下がると予想。これにより、業界全体の燃料費は2019年の1880億米ドルから1,820億米ドルに減少。全体のコストに占める割合も23.7%から22.1%に下がると見ている。
労働力は、前年比1.6%増の295万人になる見込み。生産性(従業員一人あたりATK)は2.9%上昇し、ATKあたりの労働コストは、生産性向上が給与上昇と相殺されることから、前年とほぼ同じ0.12米ドルと予測した。
旅客需要(RPK)の成長率は、2019年の年率4.2%とほぼ同じ年率4.1%。しかし、航空機の引き渡しが増えることから、座席供給量(ASK)の成長率は前年の3.5%を上回る4.7%。それにともなって搭乗率は前年の82.4%から82%に若干落ち込むと見ている。
地域別で見ると、まず北米航空会社の純利益は、2019年の169億米ドルから165億米ドルに減少すると予想。売上純利益率は6.0%、旅客一人あたりの純利益は16米ドルと見込む。2020年は、経済成長の鈍化やボーイング737MAXの運航再開など航空機の引き渡しが増えることから、収益と生産性が減少すると見ている。
ヨーロッパの航空会社が生み出す純利益は、2019年の62億米ドルから79億米ドルに上昇。経済が回復し、座席供給量もそれほど大幅な増加にはならないと見込まれることから、需給バランスが改善される見込み。旅客一人あたりの純利益は6.40米ドル、売上純利益率は3.6%と予測。
アジア太平洋の航空会社の純利益は、世界貿易の回復による貨物需要の拡大で、2019年の49億米ドルから60億米ドルに増加すると予想。旅客一人あたりの純利益は3.34米ドル、売上純利益率は2.2%と見込んでいる。
中東では、航空会社は構造改革を進め、座席供給量を見直していることから、収益性は改善すると見ているが、その結果が出るまではまだ時間がかかると予測。2020年の純利益は前年の15億米ドルから10億米ドルに減少するとした。
南米各国は2019年経済状況の悪化に苦しんだが、IMFは2020年の成長率が1.8%に回復すると予測。航空会社もその恩恵を受けることで、前年の4億米ドルの損失から5億米ドルの利益に転じると見込む。
アフリカは引き続き高コストという構造的な問題に苦しむ見込み。ある程度の経済成長は見込めるものの、市場は細分化されており、非効率な航空ビジネスのため、2019年と同様に2億米ドルの損失になると予想した。
このほか、IATAでは2020の平均往復航空運賃(燃油サーチャージと税金を除く)は293米ドルと予測。世界の2都市間の路線数は2019年の22,228路線から23,162路線に増加し、世界の旅行者が航空輸送に使う金額は、前年比4.0%増の9,080億米ドル、世界GDPの1.0%に相当すると見込んでいる。また、航空旅行によってもたらされる観光関連の総額は前年比7.3%増の9680億米ドルに達し、航空会社が支払う税額は1,360億米ドルになると予測した。