今年、沖縄で開催された「ツーリズムEXPOジャパン(TEJ)2020」(10月29日~11月1日)。初日の「インターナショナル・ツーリズム・フォーラム」では、「コロナ感染を乗り越え、強靭で持続可能な観光成長をめざす」をテーマに観光交流の回復を図るための知恵を内外から持ち寄り、観光産業の未来を切り拓く道筋を探る機会となった。観光産業がGoToキャンペーンの全国停止で厳しい年末を迎えた今、改めてこのフォーラムを振り返りたい。
編集部注:このイベントは2020年10月29日におこなわれたものです。登壇者の見解は、取材当時の感染状況下で発言された内容となります。
当日は、タイ、スペイン、エジプトの3カ国の駐日大使と、観光庁、日本政府観光局(JNTO)、JTBから参加した代表者が登壇。また海外からはビデオメッセージの形で国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏、太平洋アジア観光協会(PATA)CEOのマリオ・ハーディ氏、国連世界観光機関(UNWTO)上級部長のジュウ・シャンジョン氏が参加した。
国連事務総長から強いメッセージ:「ツーリズムを再建する必要がある」
基調メッセージとしてグテーレス国連事務総長は、まず今回のコロナ禍による世界への影響について触れ、「3200億ドルの損失と1億2000万人の失業危機をもたらし、先進国に大きな打撃を与える一方、特に小さい島嶼国や発展途上国、アフリカ諸国にも緊急事態を招く状況となっている」とその深刻さを訴えた。またツーリズム産業の社会的な役割について「被雇用者の多くが女性や若者であり、女性、先住民族、歴史的に疎外されてきた人々にとっての重要な収入源である。自然遺産や文化遺産を保護する手段でもある」とその重要性を強調した。そのうえで、「安全、平等、気候変動への影響を考慮しながらも、ツーリズムを再建する必要がある」と観光復活への思いを述べた。
次いで太平洋アジア観光協会(PATA)のハーディCEOがツーリズム産業側の視点から、「社会と経済を発展させる世界的な成長エンジンであるツーリズムの重要性が再認識されたことで、ツーリズム再開への機運は信じられないほど高まっている」と寄せられる期待の大きさについて語った。
続けてPATAの方針に触れ「アジア・太平洋地域におけるツーリズムの発展に向けて、官民のパートナーと協力しつつ、責任ある役割を果たしていきたいと考えている。また地域コミュニティに貢献することを重視しつつ、レスポンシブルツーリズム、サステナブルツーリズムを構築していくため、旅行者と地域コミュニティの健康と安全に配慮した取り組みを進めていく」と説明した。
各国の観光回復と持続可能な成長へのフレームワーク
会場でモデレーターを務めたコネクトワールドワイド・ジャパン代表取締役のマージョリー・デューイ氏は、「本日のフォーラムでは、ツーリズム産業の関係者や駐日大使の話を通じて、ツーリズムのレジリエンスと持続可能な成長のためのフレームワークを提供したい」として、まずは各国におけるコロナ関連対策の報告を促した。
これに対し3カ国の駐日大使が発言。タイ王国大使館のシントン・ラーピセートパン特命全権大使は、タイの国内観光活性化のために宿泊費や食費の一部を補助する旅行キャンペーンを実施していることや、感染リスクの低い国からの旅客に対するビザの発行、50歳以上の富裕層に対するロングステイビザの発行など、観光活性化への取り組みについて紹介した。また「入国前のPCR検査要請や入国後の14日間の隔離など感染対策を強化。ホテル、観光地、交通機関などの安全性を証明するSHA認証制度(アメージング・タイランド健康安全基準)も開始した」ことを説明した。
スペイン王国大使館のホルヘ・トレド特命全権大使は、スペインが19年に8300万人以上の外国人旅行者を受け入れており、観光がGDPの10%を占める重要産業であることを紹介したうえで「危機はチャンスと捉え、インフラ改善やデジタル化を進め、旅行業界で働く人々への教育を施すなど、各種対策を講じる期間に充てている」と前向きな姿勢を強調した。
エジプト・アラブ共和国大使館のアイマン・カーメル特命全権大使は、「国内感染者減少を受け、5月には国内観光をWHOの勧告に沿った形で再開。7月には外国人観光客受け入れも再開し、10月までに15カ国から25万人以上が訪れた」といち早く観光再開に動いていることを報告した。また個々の旅行者や事業者に対して旅行のニューノーマルの普及を促すため、「国際旅客のビザ料金の免除やチャーター便の燃料価格の引き下げといったインセンティブを設ける」などの工夫を行っていると述べた。
3カ国の現状報告に対して、観光庁の金子知裕国際観光部長が日本の現状を伝えた。日本政府はタイと同様に国内観光活性化のためのキャンペーンを「GoToトラベル」として実施。感染拡大の防止策を取りながら観光需要喚起に取り組んでいるとした。また東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え国際交流再開に積極的に取り組む姿勢を示し、「外国人旅行者の受入環境整備と新たな観光コンテンツの創出を推進するとともに、来年は東京での観光大臣会合の開催を予定している」ことを明らかにした。
観光復活だけでなく、コロナ後を見据えて
観光需要回復への道筋を探りつつ、単なる復旧に留まらずアフターコロナを見据えた新たな発想が必要性だと指摘したのはJTBの山北栄二郎代表取締役社長。「今のこの時期は観光を再考するよい機会と捉えている。宿泊や交通などの観光事業者だけでなく、たとえば三密防止に役立つデジタル技術を有する企業なども含めた観光に係る多くのステークホルダーと協調していく。それによって旅行のプランニングから旅行終了後まで、すべての段階において顧客体験を向上させたエコシステムを構築することが、持続可能な観光の実現につながる」というのがその主張だ。
日本政府観光局(JNTO)の吉田晶子理事長代理も、オーバーツーリズムの課題を挙げ、単に以前のような活況を取り戻すだけに留まらない考え方を提示。JNTOとしては、オーバーツーリズムの解決に向けて旅行先の多様化を進めるため「地域コミュニティをはじめとするさまざまなステークホルダーとの協調を重要視している。また観光を、地域と文化遺産の活性化にとって必要なツールと捉え、旅行者の受入体制の整備、観光コンテンツの拡充、旅行者との関係構築、情報力の強化などに関する支援を続ける」とした。
フォーラムの総括をビデオメッセージに託したUNWTOのシャンジョン上級部長は「国際的協力を実現させる地球規模のプラットホームとして、UNWTOを力強く機能させていきたい。またツーリズムを持続可能な形で再始動させるため、ツーリズムの関係者がさまざまなアイデアやソリューションを見出すための努力を続けていってほしい」と会場に呼びかけた。