熱海で広がる関係人口のカタチを仕掛け人に聞いてきた、「おもしろそう」から始まった「怪獣映画祭」から「スナック文化の進化」まで

東京に住んでいた映像プロデューサーの永田雅之さんは、4年ほど前、15年ぶりに熱海に遊びに来た。「シャッター商店街のイメージでしたけど、全く違いました」。当時をそう振り返る。熱海銀座には老舗の干物屋や喫茶店、スナックなど昔の熱海に加えて、新しい店舗も並び、歩いている人も若者が多い。

「なんかおもしろそうだ」。そう思った永田さんは、月一回ペースで熱海を訪れ、1年後の2017年には移住してしまった。「犬の散歩コースが多かったのも決め手となりました」と笑う永田さんは、移住後、熱海でさまざまなイベントを仕掛け、関係人口の拡大を通じて地域の活性化に貢献している。

おもしろいことを探して熱海と深い関係に

「移住するなら、何かおもしろいことをしたい」と考えた永田さんは、熱海の未来を考える公開型会議「ATAMI2030」に参加する。そのなかで、地元のいろいろな人たちと交流するうちに、「さらに熱海がおもしろくなってきた」と話す。その後、「おもしろいこと」を具体的に探すために、地元の街づくり会社machimoriが運営する創業支援プログラム「99℃」の第二期に参加。そのときに、地元の写真館が着物で街を盛り上げたいという話を聞き、「おもしろそうだ」と自ら行動を起こす。

永田さんは、「着物は好きなんだけれど、それを着て歩く街や場所がない」という話をよく耳にしていことを思い出し、参加者全員が主人公になれる「あたみ着物まち歩き」を考え出した。「着物で熱海の街を歩いてもらって、写真を撮ってもらって、SNSにアップしてもらえれば、熱海が着物の街になるんじゃないかなあ」と、この企画をプロデュースした。

新しい土地で新しいことをやりたかった永田さんは、事業化までは考えず、4回ほど開催しただけだったが、さらに熱海との関係を深めていくことになる。

永田さんは熱海で会社を立ち上げ、映像制作のコンサルティングなども行っている。

スナックの雑談から生まれた「熱海怪獣映画祭」

永田さんは熱海で次のおもしろいことを見つける。熱海駅前のスナックで著名な脚本家である伊藤和典さんとママが話していた「怪獣映画祭を熱海でやってみたい」という構想に加わることになるのだ。伊藤さんは『平成ガメラ3部作』など怪獣映画の脚本を手掛けた人だ。

実は熱海は『キングコング対ゴジラ』や『大巨獣ガッパ』などの舞台になった場所。今では映画館はなくなってしまったが、かつては市内に数カ所あり、映画がエンターテイメントとして人気の街だった。

「熱海で怪獣の映画祭ができれば、おもしろことが起こりそうだ」。

スナックの雑談から生まれた「熱海怪獣映画祭」は、2018年10月に第1回が実現する。イベント開催のノウハウも予算もなかったが、クラウドファンディングで資金を集め、『ガメラ2 レギオン襲来』を上映したほか、『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』(2021年公開予定)の樋口真嗣監督などによるトークショーなども行い、クラウドファンディングで協力してくれた300人ほどを集客した。

手作り感満載だった第1回から継続的な開催を目指して、実行委員会を社団法人化。永田さんはその代表理事に就く。静岡県の文化プログラムの助成も受けて、2019年11月には第2回を開催した。「市民参加のイベントをやりたい」と考えていたことから、第2回では、子供向けに「新怪獣お絵かきコンクール」を企画したほか、市内の飲食店に働きかけて「怪獣コラボメニュー」を提供してもらうなど、市民を巻き込んだ。約1000人を集客。大部分は熱海市外からの参加者だったという。

第2回熱海怪獣映画祭(写真提供:永田氏)第2回熱海怪獣映画祭のポスター(写真提供:永田氏)「怪獣映画祭をやってる街って、なんか、おもしろそうじゃないですか?本業はコンテンツを創ることが仕事なので、おもしろいことが起こりそうな空気をつくることが大切なんだろうと思ってます。集客や収益化ももちろん大事ですが、シティプロモーションというか、街のブランディングも重要だと思ってます」。

永田さんは、熱海を日本のハリウッドのような街にしたいと夢を語り、「熱海城の山肌に、『HOLLYWOOD』のように『ATAMI』という看板を立てたいなあ」と笑う。

第3回は2021年3月12日〜14日に国際観光専門学校熱海校など市内各所で開催される。永田さんは、今回も市内飲食店数カ所にコラボメニューの参加を働きかけた。

映像プロデューサーとして「熱海に恋する映画」も制作

永田さんは、熱海銀座の路地にある閉店した老舗のスナック「博多」を譲り受け、「あた美」として再オープンした。熱海のスナック文化は、企業の慰安旅行など団体観光客によって支えられていたが、バブル崩壊後、観光地としての熱海の価値が下がり、団体から個人へと旅行形態が変化していくなかで、その文化も斜陽の時代を迎え、多くのスナックが閉店した。

しかし、その昭和の遺産は、平成、そして令和の時代になると、スナックを知らない世代にとっては新しい文化として映る。「あた美」はスナックとしては不定期営業だが、永田さんは、今は新しいその空間をレンタルスペースとして貸し出している。「スナックをやり始めたのは、ここにいろいろなアイデアを持ったクリエーターが集まるんじゃないかと思ったからなんです」。

ものづくりをするクリエイティブな人たちが集まると、おもしろい発想が生まれ、新しいコンテンツが生まれる。関係人口は、おもしろい化学反応を起し、新しいマーケットを創り出す。

永田さんは、本業の映像プロデューサーとしても熱海に関わり始めた。今年、熱海を舞台としたショートムービーを制作した。若い女性が熱海に何度も足を運ぶなかで、変化する心模様を映像化したものだ。

「簡単に言うと、熱海に恋する映画です」。

関係人口は、その街に恋することから始まる。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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