2021年の旅行マーケティングにおいて、これからの数か月は、運命を左右する岐路になる。
旅行再開に対する消費者の考えは様々なのが現状で、とりあえず一泊だけ出かけてみる人、飛行機で遠くまで行く気満々の人、さらには海外旅行を考える人など。それぞれの許容範囲を踏まえた上で、ターゲットに向けて的確なメッセージを発信するというかじ取りが、観光事業者には不可欠だ。
個人を対象にした旅行マーケティングにおいて、より深いレベルで相手の心をつかむためには、かつてないほど、正確かつ細かいデータが必要になっている。自分のことをちゃんと見たり聞いたりして、理解しているのか。そして何よりも、守ってくれるのか。
今シーズンの旅行には、まだ心配ごとがたくさんある。だが一方で、人々はバケーションを渇望している。
世界でのロックダウンが明けた後の旅行再開には、意欲的な人から慎重姿勢の人まで、まだ温度差がある。こうした状況に即したニューノーマル時代のマーケティングにおいて、顧客の獲得、顧客の様々な体験、ロイヤルティ戦略はどう進めていくべきだろうか――。
顧客の獲得
旅行の予約までの流れは、今までのようにはいかない。古き良き時代を思い出すと、例えばハワイに行きたいと思ったら、ホテルを何軒か物色して、フライトを予約し、出発した。だが今や、「宿泊予約」をクリックしてもらうためには、相手の関心事を深いところまで探り、何が相手の気持ちを動かすのか把握する必要がある。
マーケティングを手掛けるレゾネイト社が実施した旅行者調査によると、旅行に積極的な客層(例:今夏の旅行を計画している人)の場合、お得なバーゲン価格を探したい時は、旅行サイト経由で予約するとの回答が29%を占めた。ホテルや航空会社は、直接予約での割引価格のアピール方法を、もっと考えるべきだろう。
また15%の人が、他の人たちが旅行に出かけるようになったら、自分も行くと答えている。つまり旅行マーケターの側としては、旅行者たちが、訪れたデスティネーションや自身の体験を、友人や家族にどんどん発信するような仕掛けに力を入れる必要がある。
この方法は、旅行に意欲的な層を刺激する上で、特に重要だ。彼らは平均的なユーザーに比べて、ソーシャルメディアから旅行のアイデアを得たり、情報収集する傾向が高いからだ。
積極派でも、慎重派(例:10月頃まで旅行再開は控える)でも、回答者の21%が指摘していたのが、キャンセルポリシーを以前よりもチェックするようになったこと。予約において、これは死活問題と言えるだろう。旅行の保障など、消費者が安心できる状況が確保できるよう留意するべきだ。
体験
予約の獲得は、まだ第一段階に過ぎない。ここ一年以上、ずっと自宅にいた人にとって、久しぶりの旅行は、極上の体験であってほしい。そしてバケーションのある日々が戻ってきた喜びを実感してほしい。
旅行を予約する主な理由として、積極派も慎重派も、全体の35%ほどが挙げていたのが、家族と過ごす時間作りだった。そこで観光事業者が今、展開する広告では、ファミリー需要を第一に意識するべきだ。
ただし、どちらの旅行者層も、平均的な旅行者より、寛容性を重視する価値観を持っているので、広告のクリエイティブでは、様々な形の「ファミリー」を想定するべきだろう。
また積極派、慎重派とも、回答者の36%は、最も重視する旅行の価値として「喜び」を挙げている。長く、辛い一年の後なので、人々は楽しい時間を過ごし、リラックスしたいのだということを忘れないで。
なお、積極派のうち37%は、ラグジュアリーな体験であれば、価格が高くても支払う用意があると答えている。アップグレードの提案も、準備万端に整えておこう。
ロイヤルティ
顧客が久しぶりの旅行に出かけて、心配なかった、大丈夫だった、と旅行意欲を取り戻すことができたら、さあ、次の予約へとつなげていこう。どちらの旅行者層でも、半分ほどの人は過去一年間、ホテルに泊まっておらず、同66%は飛行機を利用していない。こうした状況下では、ロイヤルティを再構築する手法として、たまったマイルやポイントがありますよ、使いませんかと勧めるだけでは不十分だ。
そこで、以前のやり方を思い出そう。どちらの旅行者層でも、4分の1ほどの人が、フライト予約で最重視するポイントとして、価格がお得かどうかを挙げている。さらに同40%以上は、ホテル宿泊についても、価格帯を最も重視すると答えている。言い換えるなら、バーゲン価格、これに尽きる。
結局、人々を再び機上へと誘うための起爆剤は、価格戦略ということになる。単純に低下価格を提案するのではなく、例えば「一泊、さらに二泊してくれたお客様には、三泊目無料」といったオファーを検討してみてはどうだろう。
最後に、観光事業者に求められることは、顧客のペースを大切にすることだ。この先の数か月間、旅行者が機内やホテルに押し寄せてくるだろう。ただし、昨年来、どのように過ごしてきたかを意識し、ようやく通常通りの生活へ戻りつつはあるものの、そのペースは人それぞれであると理解することが求められている。
そのためには、常に旅行者のインサイトをチェックし、最新状況を把握した上で、販促活動の指針とすることが肝要だ。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:The new rules for acquisition, experience and loyalty in travel
著者:エリカ・ポデスタ・マッコイ、レゾネイト社・最高マーケティング責任者(CMO)