あなたがこの記事を読んでいる間にも、人々は飛行機や列車、タクシーに乗り込み、目的地を目指しているだろう。なぜ人は旅するのか? どうやって旅行を計画するのか? どんな体験が待っているのか? 旅先でのアドベンチャーの追体験は? 旅行が終わったら、どんなお土産話をするのだろう。楽しかったこと、それとも困ったこと? 誰に話す――?
こうした疑問の数々で構成されているのが「カスタマージャーニー」だ。その最初から最後まで、すべてのステージにおいて、地域のDMO(デスティネーション・マーケティング組織)が果たすべき役割がある。
例えば、人々が理想の旅を思い描いたり、プラン作りするのを手伝い、楽しい経験をしてもらうこと。その際、デスティネーションの魅力を代弁してくれるファン作りを意識することだ。オンラインでもオフラインでも、斬新な旅行体験はポジティブなストーリーになる。これに触発された人が、次の旅行計画を立て、飛行機に乗り込む、というサイクルが回り出す。
このサイクルをうまく管理すれば、好循環が生まれていく。観光体験とクチコミによる相乗効果でビジネスが動き、最終的にはデスティネーションにおける生活の質向上へとつながっていく。
DMOがこの流れの各段階で、旅行者をサポートするとどうなるのだろうか。今回はその一例として、カナダのキャンベルリバー(ブリティッシュコロンビア州)で、デスティネーションシンク(Destination Think)社のチームがオンラインで実践している手法を、各ステージごとのアドバイスや事例と共に紹介する。
キャンベルリバー観光局のSNSにおけるカスタマージャーニー事例
キャンベルリバーは大自然に包まれたところだ。カナダのバンクーバー島にある小さな町で、サーモン釣りの人気スポットとして有名だが、デスティネーションとしての魅力は、さらに奥が深い。
キャンベルリバー観光局(DCR)では、カスタマージャーニーのあらゆる場面において、旅行者のお手伝いができるように準備を整えている。デスティネーションシンクでは2017年から、同市のデスティネーション・マネジメントを全面的にサポートしており、デスティネーション・マーケティングの専門家、カーリー・ペレブーム氏と、ビジター対策コーディーネーターのタマシン・ケネディ氏が初期段階からDCRのチームに参加。
この2人のマーケティングのベテランが、訪問客がそれぞれにとってベストの体験を探し出す手伝いをしている。さらにソーシャルメディア上での認知度アップや、旅行者向けサービスも担当。時には教育的な示唆や、ユーモアを交えつつ、地域のプライドを育むこと、そして旅行者のストーリーをシェアし、新たな需要喚起へとつなげることに情熱を注いでいる。
カーリーとタマシンが、ソーシャルメディアにおけるカスタマージャーニーの各段階において、どのような価値作りをしているのか追ってみよう。
ステージ1:認知
デスティネーションに関するストーリーを発信している情報源は、今や何千、何百万とあり、DMOはその一つに過ぎない。そこで、時にはスポットライトの当たる場を、他に譲ってみることも一つの方法だ。
「この2つの画像は好例で、インフルエンサーによるものだが、ずっと威力を発揮し続けてくれている」とカーリー。「我々のデスティネーションを推してくれて、認知度を高めてくれるような投稿は、DMO直営のチャネル以外にも投稿されている。私たちは、こうした情報にも必ず反応し、対話が生まれるようにしている」。
この投稿者(@vancitywild)のアカウントが、1年ほど経ってから、また同じような写真に位置情報をタグ付けして載せたところ、最初の投稿を上回る反響があった。
アドバイス:効果が見込める場合は、DMOのソーシャルメディア・チャネル名で、メディアや旅行事業者、同じデスティネーションの関係者など、他のチャネルに寄せられた投稿にもコメントや反応を示そう。
ステージ2:検討
デスティネーションに対する認知度が高くなってくると、新しいオーディエンスとやりとりする機会が増える。この段階では、現地で楽しめる様々なことを、あれこれ検討できるようなインスピレーションを相手に与えたい。
以下の投稿は、ダイビングを愛する人たちに刺さった一例だ。これを見た人が、お互いにタグ付けしてコメントしたり、ダイビング体験の素晴らしさを語るコメントがたくさん寄せられたりした。
また、次の投稿は、大きな反響があった体験者の声の一例だ。こうした投稿をきっかけに、カーリーやDCRチームの面々は、あまり知られていない現地体験について、活発なやりとりを展開してみせる。「一年中、どの季節にも色々なアクティビティが楽しめると分かり、時期にとらわれることなく、旅行先として検討してもらえるようになる」と話す。
アドバイス:投稿内容を考えるときは、シェアする体験の具体的な情報になっているかに留意し、読んだ人が思わずコメントしたくなるかを意識しよう。訪問客の滞在がより良いものになるのに役に立つ仕事ができているだろうか?
ステージ3:意図
DMOがその威力を発揮するのがこのステージで、旅行者の教育が中心になる。ソーシャルメディアで旅のプラン作りを手伝うということは、すなわち、日程や宿泊地、現地の見どころ、行き方など、最高の滞在を実現するために必要なことなら何でも情報提供するということだ。
キャンベルリバーにやってくる人々の多くは車を利用するので、DCRでは、ロードトリップの計画に役立ち、途中の見どころを紹介したストーリー「Getting Here(ここに着くまで)」を作成、インスタグラムに掲載している。
その他の投稿では、主要な場所からのドライブ所要時間など、ファクト情報を取り上げている。
またDCRのチームは、モデルコースや旅行情報のブログを作成し、シェアしている。ここで紹介しているのは、短い旅程ながらも満足度の高いコース。「コメント欄は、これを自分の保存リストに加えたり、タグ付けして友人とシェアする人でいっぱいになる」とカーリー。「これは(同局のブランド戦略から生まれた)#MeetTheNeighboursメッセージングにも入っており、有名でないエリアへの興味関心を高めることで、地域のパートナーや労働者のサポートにも役立つところが最大の利点。混雑する時期に、訪問先を地域の各地へ分散することにもつながる」。
アドバイス:ブログをソーシャルメディアでシェアしたり、ブログ内にSNS投稿を組み込んだりすることで、より多くの人をデスティネーションのネットワークに惹きつけることができる。
ステージ4:購買
DMOの最大の使命は、予約の獲得ではなく、需要の創出である。とはいえ、デスティネーションに関わる観光事業者のコーディネーター役として、ステークホルダーの営業リードが可能な場合もあるだろう。
以下の投稿では、キャンベルリバーのチームが、新しいヘリコプター・ツアーを開始したパートナー企業の新商品PRに一役買った。「息をのむ絶景に多くの人が魅了され、なかにはツアー催行会社に直接、問い合わせた人や購入した人もいた」とタマシン氏は話した。
アドバイス:ストーリーをシェアしたり、地元の事業者をタグ付けした投稿をすることで、地域の観光事業をオンラインでサポートしよう。
ステージ5:訪問
いよいよ訪問客が到着する。現地での体験をできる限りベストなものにするために、どうしたらよいか?
キャンベルリバーでは「オンラインでのアシストと、一対一でのレコメンドを一緒に行うことで、それぞれの訪問客にとって至福の体験を届けられるようにしている」とカーリーは説明する。「現地に来てもらった後は、我々の腕の見せどころだ。地域をずっと推してくれるファンにできるかどうかだ」。
人々はデスティネーションについてオンラインで意見を交わしており、中にはソーシャルメディア経由で直接、連絡を取り合う人もいる。もっと多くの人の手助けをするためには、より能動的な姿勢で相手の話を聞く “アクティブ・リスニング”が求められている。キャンベルリバーでは、ビジター対応サービス担当とソーシャルメディア担当が、お互いに意見交換しながら、訪問客のニーズに対応できているか確かめている。
「当局では、応対サービスの現場から旅のインサイトを得ており、ソーシャルメディアのコンテンツにも反映させている。例えば、季節のメッセージを切り替えるタイミング、ハイシーズンに向けたプランニングや予約について発信する時期などで参考にしている」とタマシンは話す。「事前の計画作りは、旅行者が熊、クジラ、鷲や様々な野生の生態系を楽しんだり、快適な宿泊施設を確保するためには欠かせない」。
アドバイス:オンライン経由で旅行者の話を聞いたり、質問に答えたりすることが、一生、地域を支えてくれるファン作りの始まりだ。普段よりも少し丁寧に対応したことが、末永いサポートにつながることもある。
ステージ6:追体験
最高のバケーションも、やがて終わるが、そこで生まれたストーリーは色あせることがない。
思い出に残るすばらしい体験の後は、友人や家族にお土産話をしながら、その出来事を追体験する人が多いだろう。楽しかった旅の話をもっとしたい、という衝動は、人々をつなぐだけでなく、デスティネーションを支えてくれる強力なアドボカシー(支持)を生み出す。旅行先の選定において、クチコミが持つ威力は絶大だ。この流れをさらに加速するために、DCRでは、訪問客から寄せられたストーリーの中でも、特によかったものは拡散している。訪問客が、キャンベルリバーのマーケターとしても大活躍してくれる訳だ。
DCRがシェアした冬のハイキングについての訪問者からの体験談を見てみよう。
タマシン氏によると「もともとは、私たちに宛ててディーナがメールをくれて、現地での体験がどんなに楽しかったか、知らせてくれました。その内容があまりによかったので、これを投稿に使うことに決めた」。
こうした体験談は、現地での楽しみ方を他の人に知ってもらうのにも役立つ。さらに実際に旅行に訪れ、新しい思い出を作ったり、それぞれのストーリーを生み出すことにつながっていく。
アドバイス:デスティネーションにやってきた訪問客と、そこに暮らしている居住者が、最高のマーケターであることを忘れないで。こうした人々のストーリーを拡散し、クチコミを使ったプロモーションを強化しよう。
――こうして、カスタマージャーニーのサイクルを一周し、ふたたび最初の「認知」へと戻っていく。
訪問客のニーズにフォーカスする戦略は地元発
訪問客のニーズにフォーカスする方針は、偶然、生まれたものではない。DCRの観光戦略で根幹を成すのが、キャンベルリバーらしさとは何か。これは、地域の人々そのものだ。
デスティネーションシンクでは、独自に考案した「Place DNA」プロセスに沿って、市の居住者や観光事業者の協力を得て、この地域の特徴を正確に分かりやすく洗い出す作業を実施。その結果をもとに、キャンベルリバーの地域ブランドからデスティネーション・マーケティング計画、さらにソーシャルメディア戦略と具体的な作戦を作り上げた。
「ソーシャルメディア戦略で重視しているのは、活気にあふれた我々の地域コミュニティらしさを打ち出すこと。それからフレンドリーであること、人々がシェアしたり、お互いに交流する場を作ること、そして我々の地域事業者を知ること。いつでも訪問客を歓迎しており、旅行プランに関することなら何でも答え、お手伝いもする」とカーリー。「質問があると、ウェブサイト画面に出てきて答えてくれるボットみたいな存在だが、我々の方がずっと役に立つ」
これはかなり謙遜したコメントだ。ボットでは、DCRチームが旅行者に対し、日々、行っているように、相手の心をつかむことはできないし、共感したり、ユーモアやきらりと光る人間的な魅力、あるいは相手を助けたいという気持ちまでは発揮できない。
旅行者への共感があるマネジメントのスタイルは、デスティネーションの未来を切り開き、DMOの視線を、新しいチャンスへと向けてくれる。ツーリズムにおいて“推し”てくれるファンを獲得するためには、結局、関係性作りと、ストーリーを語ることが必要になる。
いずれも、極めて人間的な行動だ。従来型の広告は、カスタマージャーニーの早い段階に注目する傾向にあるが、このやり方は、推してくれるファンを増やし、クチコミ効果を狙うのであれば、必ずしも効率的ではない。広く一般大衆からの関心や認知を求めて資金を費やすよりも、カスタマージャーニーの初めから終わりまでに対応したデスティネーション・マネジメントとそのストーリー管理を行う方が、DMOにとっては得策だ。
参考記事:キャンベルリバーのケーススタディー
※編集部注:この記事は、デスティネーションマーケティング組織(DMO)向けに特化した最新ニュース提供、戦略・ブランディング提案などをおこなう「デスティネーション・シンク(Destination Think)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:PERPETUAL ADVOCACY: SEE HOW CAMPBELL RIVER GUIDES VISITORS THROUGH 6 STAGES OF THE CUSTOMER JOURNEY
著者:デビット・アーチャー