国際的な市場調査会社ユーロモニターインターナショナル社は、よりサステナブルな未来実現のために、パンデミックからの回復途上にある旅行業に求められていることに関するレポートをまとめた。このほど発表した「Understanding the Traveller Journey, Critical for a Sustainable Recovery」では、同社が2021年1~4月に実施した消費者アンケートなどを参考にしつつ、「サステナブルな回復実現のカギ」となる8つのポイントを提起している。
同レポートでは、世界のツーリズム消費額がパンデミック以前のレベルに完全復活するには、少なくとも5年を要する見通しであるうえ、消費者の価値観や優先順位など、あらゆる動向が大きく変化したと指摘。ポスト・パンデミック期の新トレンドを理解するためには、旅のインスピレーションからプラン作り、予約、現地での体験、そして終了後まで、カスタマージャーニー全体に目を向ける必要があるとしている。
8つのポイントの概要は以下の通り。
1. 海外旅行の規制で人気沸騰するステイケーション
国連世界観光機関(UNWTO)統計をもとに、ユーロモニターが算出した旅行予測モデルによると、2020年のツーリズム消費額は75%減に落ち込み、2021年もパンデミック以前に比べ、大幅なマイナスが続く。
国境をまたぐ移動が制限されるなか、消費者も事業者も、国内でのステイケーションに目を向けている。年齢別で、もっとも深刻な影響を受けているのは、雇用環境が不安定なZ世代。逆に、所得に余裕があり、国内旅行に最も積極的なのはミレニアル世代。特に中近東・アフリカやアジア太平洋のミレニアルズの間で、国内旅行は活発だ。
2. 近場を再発見する日帰りの旅
日帰り旅行に出かける頻度には、所得との相関関係が見られる。15~29歳で、所得が15万米ドル以上の層では、少なくとも週に一回、日帰りで、自宅から近いエリアを楽しんでいる。多くの国で、ソーシャルディスタンス奨励や渡航制限が続いており、‘超’地域密着型(ハイパーローカル)な旅がしばらく主流になる。
対照的に、60歳以上の世代の日帰り旅行は、2~3カ月に一度ほど。理由は所得よりも感染への懸念だが、ワクチン接種が進んだことで、高齢者層も外出や旅行への自信を取り戻しつつある。
なお、新興国マーケットでは、「2021年の旅行消費額は増える」と答えた人がZ世代およびミレニアル世代の71%を占めたのに対し、先進国では同63%にとどまった。
3. 富裕層の家族旅行におけるニーズを理解しよう
ポスト・パンデミック期のキーワード、「Build Back Better(以前の状態に戻るのではなく、人にも地球にも、よりやさしい“ニューノーマル”を目指す)」に欠かせないマーケットが富裕層だ。
年収10万ドル以上の旅行者を対象に「誰と一緒に旅行したいか」を聞いた調査では、「配偶者/パートナー」、次いで「自分の子供」が圧倒的で、「友人」「一人旅」は少数だった。旅行事業者やDMOが、カスタマージャーニーの各ステージにおいて、地域や自社サービスをアピールする際には、「富裕層ファミリー」を意識するべきだと同レポートは提言している。
4. 需要の平準化はデスティネーション運営のカギ
受け入れデスティネーションの悩みの一つが、シーズナリティ(季節による集客の波)だ。需要が集中する時期は、新興国では旧正月やイースター休暇、先進国では北半球の国々の夏季休暇など。ヨーロッパでは人気観光地でオーバーツーリズム問題が起きている。
サステナブルなツーリズム実現には、混雑緩和策や、年間の需要を平準化する戦略が欠かせない。
5. 多様性とインクルージョン
パンデミック禍は、社会の不公平をより鮮明にあぶりだし、ブラック・ライブズ・マター運動などが拡大。ツーリズムの商品やサービス、マーケティング活動においても、多様性とインクルージョンへの対応は、事業者やデスティネーションにとって死活問題だ。
求める旅行のタイプには、人種別の特徴もある。2019~2021年の調査結果では、総じて「リラクゼーション」が高いものの、ヒスパニック/ラテン系では「ローカル文化体験」、黒人/アフリカ系では「オールインクルーシブ」、白人/コーカサス系では「自然・アウトドア」への関心がそれぞれ高かった。
6. 購買に至る全ステージを把握
パンデミックにより加速したのがデジタル化だ。旅行の予約・購買チャネルでは、モバイルが多数を占める国と、タブレットやPCが多い国とに分かれている。
モバイル派の筆頭は中国で、2021年1月の調査では、中国人回答者の56%が、旅行の予約はスマートフォン経由と回答。次いでベトナム、サウジアラビアでも、モバイルが過半数を占めた。対照的に、ドイツ、ベルギー、英国では、モバイル比率は20%以下。旅行予約はPCやタブレット派が圧倒的だった。
7. ロックダウン後はアウトドア体験が人気
ポスト・パンデミック期の旅行に求める要素についての質問では、「リラクゼーション」「安全なデスティネーション」がトップに続き、次いで「自然・アウトドア・アクティビティ」が3位。実際、ロックダウン解除後は、大自然の中でのアウトドア体験やビーチに人々が押し寄せ、エコツーリズムへの関心も高い。
ただし、「2021年はサステナブルな旅行を選ぶ」と答えた人は48%にとどまり、「世界的な気候変動を懸念している」(65%)を下回った。言うは易し、行うは難し。このギャップを埋める方策が必要だ。
8. 旅行者と事業者、優先事項にはギャップも
2021年4月に実施したカスタマージャーニーに関する調査では、重視しているポイントが、消費者と事業者では異なる部分も浮かび上がった。
まず、消費者が最も重視していることは「分かりやすさ」(45%)、次いで「モバイル・アプリ」(41%)となり、その全ステージを通じて、一貫性があり、シームレスなサービス体験があることが期待されている。
一方、消費者の優先順位は低いものの、事業者からの注目度が高かったのが「パーソナライゼーション」。逆に、事業者の優先順位は低いが、消費者からの注目が高かったのは「フレキシブルな決済」や「ロイヤルティプログラム」だった。
ユーロモニターが年に一回、実施している消費者調査「ボイス・オブ・ザ・コンシューマー」は、オンライン形式で日本を含む世界40カ国・地域で各1000人ずつ、計4万人からの回答を集計。回答者の年齢は15~65歳。
Understanding the Traveller Journey, Critical for a Sustainable Recovery