星野代表に聞いてきた、新GoToの「全国一律」を望む理由、「生き残り計画」の次の打ち手、北米進出も

2020年に突如始まったコロナ禍。いち早く危機の長期化を予測し、コロナ禍を生き抜く「18カ月間サバイバル計画」を社内外に公表して実践してきた星野リゾートが、今、次のステージへと歩みを進めている。

「1年半も対応すると、コロナ禍が平時に近い状況になった」と話す代表の星野佳路氏に、同社の最新動向から新GoToへの提言、北米での新規開業への挑戦を聞いた。 

※取材は2021年12月3日

新規予約の動き弱く、GoTo待ちか? 変異株への警戒か?

コロナ発生後、初めての緊急事態宣言が発出された2020年春に18カ月のサバイバル計画を立案した星野氏。それ以降、社員に社内の各種インフラを通して対応策から経営状況まで、事細かな情報発信を継続してきた。その結果、同社のコロナ禍における対応に「スタッフもずいぶん慣れてきた」(星野氏)。

コロナ期は感染拡大と収束の波を繰り返し、その揺れ幅が徐々に小さくなって終息に向かうという予想のもとに作られたサバイバル計画。星野リゾートの各宿泊施設は、この計画軸に感染の波の動きをあわせて行動してきた。すると、「スタッフは『緩和の時期になったので、これをしよう』など、今が“波”のどの時期なのかさえ分かれば、細かい議論をしなくても対応できるようになった」という。

2021年10月には、全国的に緊急事態宣言が解除となり、感染者数も落ち着きをみせ、いよいよ観光再開が期待された。実際、星野リゾートの業績は、一部の地域を除いて各施設の利益合計では10月と11月は好調だった。しかし、新規予約の入りは地域によって差が大きく、これは12月に入っても同様だ。

新規予約の地域差の理由が、GoToトラベルキャンペーンの再開待ちによる買い控えか、新たに出現したコロナ変異株の警戒感なのか、明確にはわからない。しかし、星野氏は「(国内の感染者数は増加している状況ではないが)市場環境は第4波や第5波の時に似ている。感染の実態以上に警戒感が強く、旅行市場に与えている影響も感染拡大期に近いネガティブな印象」を抱いている。

新GoToにGW後も「全国一律」を要望

再開が待たれる新GoToに関しては、これまでもコロナ禍で不安定な経済状況のなかで、旅行需要を下支えする仕組みとして運用できる設計を訴えてきた。そのために星野氏が主張する枠組みは、前回のように事業が中断されることなく、継続力のある制度にすること。そして、旅行者にもわかりやすく、事業者が運用しやすいシンプルな制度であることだ。

観光庁が先ごろ発表した新GoToの基本設計は、「ワクチン検査パッケージ」の活用が前提となっている。前回は、GoToが感染拡大の原因であるという疑いから中止を余儀なくされた。星野氏は「今後も、いろいろなことが起きるとは思う。しかし、(ワクチン検査パッケージの枠組みでおこなうことは)制度そのものの継続力を増すことにつながる」と期待する。

一方で、新GoToの方針で懸念を示したのは、ゴールデンウィーク後の対応だ。

先ごろ発表された方針のひとつに、期間を分けた運用方法がある。GW前までは国の施策として全国一律の事業として実施、GW後には都道府県による事業に転換される。地域の実情にあわせて割引率を設定できるように配慮したものだが、星野氏は異議を唱える。

「都道府県ごとに割引率が変われば、宿泊施設やOTAなど事業者にとっては事務処理が煩雑になる。販売管理システムの対応を、都道府県ごとに変えることは現実的でない。一律にすることへの批判もあると思うが、都道府県ごとに制度が異なると、消費者にとっては、全国一律で旅行先を比較できず、分かりにくい。販売チャネルの選択肢も減るだろう」と再考が望ましいと訴える。

日本のホテル会社が世界に出るには「日本旅館」のみ

コロナ禍への対応はまだ当面続くものの、星野氏の視線はコロナ後を見据えている。今秋、かねてから明言している北米進出に向け、米国に候補地の視察に出かけた。

今年秋に開催した定例プレス発表会で、北米進出の担当チームが現地視察をしたことを明かした。候補地は20カ所程度あったが、今回、星野氏は、そのなかから絞った3つの候補地を視察。いずれも、温泉旅館で生まれ育った星野氏が「どの候補地もよかった。日本と変わらない泉質で、地熱も高く、湯量もある」と太鼓判を押す温泉の湧出地だ。

星野氏が目指す北米進出は、日本の「温泉旅館」での開業。ターゲットは、日本人を含むアジア人だけではなく、現地在住のすべての人々。北米では「温泉旅館」の需要があるのだろうか?

この質問に星野氏は「実は、わからない」と笑う。しかし、「日本のホテル会社が北米で成功するためには、『日本旅館』での展開しかありえない。『日本旅館』を最大限アピールできるのが『温泉旅館』だ」と説明する。

星野氏にとっての北米進出は、30年越しの長い挑戦だ。星野氏が米国でホテル経営を学んでいた1980年代当時、日本企業が米国に進出し、ホテル買収と運営に積極投資をしていた。しかし、日本のバブル崩壊を機に撤退が続いた。その様子を現地で目の当たりにしていた星野氏は、撤退の要因はバブル崩壊だけではなく、「日本のホテル会社が本場の米国で西洋式ホテルを運営することに、現地側がしっくりきていなかった」と感じていた。

「もし、日本の料理人が米国で飲食店を出店するなら、米国人は寿司や日本料理を期待する。日本のホテル会社が出店するなら、(日本文化である)旅館を期待するはず」と、企業の出身国の文化的背景が重要であることを強調する。

星野氏は北米での成功が、すでに進出しているアジアでの成功にも影響すると見ている。フォーシーズンズやマリオット、ヒルトン、ハイアットなど、世界のメガホテル会社の本拠地は全て北米。「ホテル業界の中心地で通用しなければ、アジアでの本当の成功もついてこない」と力を込める。

視察した3候補地のなかから1号店を出すのか、ほかの場所を探すのか、まだ決めていない。「温泉の質は良く、日本より広い敷地も確保できる。あとは気候も考慮したい。それぞれ一長一短がある」と悩んでいるところ。開業時期も決めていない。「一軒目はとても大切なので、最も納得できる場所での開業を優先したい」と話す。

描いているのは「少ない客室数で、最高級のカテゴリー(いわゆる5つ星)で入っていく」こと。「やってみないことにはわからないので、覚悟を決めて必ず最初の1軒を作る」。

コロナ禍が完全に収束するまでは、まだ時間がかかりそうだ。星野氏はインバウンドが元に戻るのは2025年と予想しており、その時まで観光市場が変則的という前提で経営の舵をとる。今後も国内で続々と新規開業を控える一方、既存ホテルではマイクロツーリズムの恩恵が少なかった沖縄や北海道、そして都市部のホテルで対策の一手が必要だ。星野リゾートは、目前の課題に対峙しながら、新しい一歩を進めている。

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