サステナブル(持続可能な)観光地域づくりの3事例を取材した、ごみ拾いしたくなる仕掛けなど、ストーリー(物語)化と地元啓蒙がカギ

東京都と東京観光財団は、先ごろ「ポスト・パンデミック期の新しいストーリー~サステナブル・リカバリーの実現へ~」をテーマに「観光活性化フォーラムTOKYO 2022」を開催した。同イベントでは、具体的な地域の事例として、石川県志賀町、神奈川県横須賀市、東京都八王子がそれぞれ課題解決に向けた取り組みを紹介した。

石川県志賀町: ゴミ拾いをしたくなる仕掛けでSDGs

志賀町観光協会では、さくら貝が打ち寄せることで有名な増穂浦海岸で、環境保全の課題解決に向けてた「フォトジュニック・ビーチ・クリーン in 志賀」の取り組みを進めている。これは、SDGsの取り組みにつながるゴミ拾いと集客力を高める参加型のプログラム。B&G財団の補助事業を活用し、若者の参加を促すために、海岸での「スタイリッシュなゴミ拾い」を目指した。

ゴミ袋は、集めたゴミを詰め込むと丸みを帯びた可愛いキャラクターに見えるように制作。ゴミ箱には、中古コンテナを購入し、そこに県内の美大生や高校生が「映える」フォトスポットになるような絵を描いた。同協会事務局長の岡本明希氏は、この企画の背景について「SNSを利用し、可愛い、映える、伝えたいというメッセージを拡散させることで、ゴミ拾いをしたくなる仕組みを考えた」と説明した。

学生や行政などいろいろなパートナーと展開することで相乗効果は高まったという。インスタグラムでゴミ拾いの様子のフォトコンテントを実施したところ、131枚の応募があり、広告費や宣伝費のことを考えると、「初期効果としてはいいのではないか」(岡本氏)と手応えを示した。

志賀町のある能登の里山里海は、新潟県佐渡市の「トキと共生する佐渡の里山」ともに、世界農業遺産に認定されているところ。この取り組みを始めるにあたっては、「環境保全がその価値を高める」という強い思いがあったという。

「今は地元と訪問者が共同で環境を守る時代」と岡本氏。同協会プロモーション委員会委員長の小林克嘉氏も「観光プロモーションでは地域と共同で取り組める体制づくりに気を配っている」と話し、課題解決に向けては地域の理解の重要性を指摘した。今後は、企業、各種団体、学校などとの連携を強化し、このプログラムをさらに拡充していきたい考えだ。

志賀町観光協会の小林氏(左)と岡本氏神奈川県横須賀市: 無人島をキーワードに夜間早朝の集客強化

横須賀市でローカルガイドツアーを提供するトライアングル社は、ベイエリアでの夜間早朝活用事例を紹介した。課題は滞在時間の短さ。同社営業企画部広報の水上比弥氏は、「都心に近いため日帰りが多く、横須賀にもさまざまなローカルグルメはあるが、周辺には観光地が多いため、そちらに流れしまう」と説明する。

同社では、横須賀市の沖に浮かぶ東京湾最大の自然島「猿島」へのツアーも催行しているが、課題解決に向けて、「無人島」をキーワードに猿島に滞在する貸切と宿泊の観光コンテンツを開発。「猿島が眠っている時間を活用した」(水上氏)。

また、「無人島レストラン」も企画。同じく無人島貸切とし、一組限定とすることで特別感を出した。食材は三浦半島の地のものを使い、BBQあるいはシェフによる料理などカスタマイズを可能にした。対岸には横須賀の夜景も見ることができることから、「都心から1時間ほどで『非日常』が味わる」(水上氏)のがセールスポイントだ。

さらに、ランタンを持って夜の猿島を巡る「猿島ナイトツアー」も試みた。島内の史跡は最小限のライトアップで照、異空間を演出。ツアー後の「焚き火カフェ」では、スープなどを提供する。

ただ、無人島のためトイレ、発電などのハードの設備を整える必要があり、また屋外のため天候に左右されやすいことから、代替案を用意する必要があるなど、レギュラー化するためにはクリアすべき課題もあるという。

一方、早朝の取り組みでは、少人数貸切の「無人島サンライズツアー」を企画。ヨガなどさまざまなアクティビティを用意し、無人島に新たな付加価値をつける工夫も試みた。

水上氏は、新たなツアーを売り出すためには、「そのコンセプトと価値を伝えるストーリーが必要」と強調。また、積極的に地域とコミュニケーションをとる重要性にも触れ、「地元の人たちに地元の価値を理解してもらい、セールスマンになってもらうことが大事ではないか」と提言した。同社では、2014年に市民割という制度を始め、地元では当たり前の猿島や軍港の価値を見直してもらう取り組みを進めているという。

トライアングルの水上氏

東京都八王子市: 日本遺産のストーリーを観光でも

八王子市は、日本遺産認定のストーリーを紹介した。日本遺産は地域の歴史的魅力や特色を通じて日本の文化・伝統を語るストーリーとして文化庁が認定するもの。同市は2020年6月に「霊気満山 高尾山~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」というストーリーで認定を受けた。

八王子市都市戦略部都市戦略課兼生涯学習スポーツ部文化財課日本遺産推進担当主査の草間亜樹氏は、認定に向けては「テーマの選択と他との差別化で苦労した」と明かす。そこで、同氏では霊山として外国人旅行者にも人気の高尾山と、古くから「桑都(そうと)」として八王子の発展を支えてきた養蚕や機織り文化を組み合わせて、地域をストーリー化した。

認定は受けたものの、コロナ禍で、日本遺産をフックとした観光誘致はできず、まずは市民の周知を高めていくことから始めたという。大規模なイベントも難しかったため、横断幕や広報誌を活用したほか、地元アーティストによる関連作品の制作、学校での啓蒙活動を実施。昨年6月には、八王子駅前に「桑都日本遺産センター 八王子博物館」もオープンした。

昨年の段階で市民の6割ほどが認知していることがわかったが、草間氏は「まだ中身まで詳しいことを知っている人は少ない。それが課題」と話す。また、今後については、日本全国104ヶ所の日本遺産認定地域との横のつながりも模索していきたい考えも示した。

観光客誘致における日本遺産の活用について、八王子観光コンベンション協会事務局長の齋藤和仁氏は、「まずは高尾山の魅力を伝えて、市内の日本遺産を構成している場所へ周遊するツアーを考えていきた」と話す。「日本遺産そのものが経済効果に寄与する段階ではない」としながらも、「地域の観光素材を見直すいいきっかけになる」との考えだ。

八王子と高尾山の課題は、やはり都心から近いことから滞在時間の短さにあることから、日帰りから宿泊への仕掛けを作り、持続可能な町づくりを目指していく考えを示す。また、紅葉の季節の高尾山は混雑が激しいことから、周辺の構成文化財への回遊を促すことで、観光の分散化と閑散期の魅力向上を進めていきたい考えだ。

「日本遺産認定によって、一気に観光によって経済を活性化させるのは難しいが、ホップステップと着実に進めていきたい」と将来を見据える。

八王子市の草間氏(左)と八王子観光コンベンション協会の齋藤氏

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