移動は「物語」でエンタメ化できるか? ナビタイムらがアニメ観光で実証実験、課題と可能性を探った

ナビタイムジャパンは、JTBやサンライズ、東京臨海副都心まちづくり協議会などと実施した「東京臨海副都心エリアへの誘客および周遊促進のためのアニメツーリズム実証実験」の報告会を開催した。

実証実験は観光庁の「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」の採択事業として、2022年1月22日と23日に実施。お台場が舞台のアニメ「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(ニジガク)」の特別ラッピングや声優による車内アナウンス、キャラクターを用いた案内マップなどを用意したオリジナル巡回バスを運行した。MaaSに「物語」の要素を付加し、周遊手段の提供だけではなく、行くきっかけと移動自体を楽しめる仕掛けを作ることで、エリアへの誘客とエリアのファン作りに繋げるのが目的だ。

これについて、ナビタイムジャパンMaaS事業部長の森雄大氏は、「これまで多くのMaaSの実証実験で『モビリティ×地域×デジタル』の掛けあわせを試してきたが、地域に人を呼び込むには何かが足りないと感じていた。そこで、この3つの要素に『物語』を加えて移動をエンタメ化し、動員を作ることを目指した」と説明した。

また、オリジナルバスを運行した日の丸自動車興業の都市観光部企画課主任・難波優介氏は、コロナ禍で来訪客数が減少しているお台場の現状として、「2020年に始まったニジガクのアニメファンが根強く足を運び、エリアを支えていた」と説明。「こうした人気のあるコンテンツの活用で地域活性化に寄与できると思った」と、実証実験に参加した理由を話した。

左から)ナビタイムの森氏、日の丸自動車工業の難波氏

アニメの誘客力の強さ、想定外の来訪需要も

今回の実証実験では、バスの乗車券全720枚がツイッターの告知のみで予約開始12分で完売。当日は約8割の予約者が乗車した。

参加者に対するアンケートでは、訪問理由は「バスによるモデル地の巡回」(37.3%)、「ラッピングバス」(25.8%)、「車内音声アナウンス」(27.0%)が多く、「今後どのようなサービスがあれば、またお台場に行きたいと思うか」の問いでも「コラボイベント」(70.5%)に続いて「巡回バス」(15.9%)が多かった。

この結果に森氏は、「MaaSに物語を絡める有効性を確認できた。いろんな実験をしてきたが、ここまで人が来て喜んでもらえたのは、これまでで一番。大きな手ごたえを得た」と評した。当日は、乗車券を入手できなかった多くのニジガクファンがバスを見たさにお台場に訪れる、想定外の誘客効果もあったという。

また、「ニジガクバスにまた乗りたい」との回答は97.2%に上った。乗車料金は実証実験で無料であったが、今回のようなコラボ企画であれば支払ってもいい金額は「1000円」(37.5%)、「2000円」(23.1%)が上位に。森氏は、「路線バスの1日乗車券(500円前後)の2~4倍の付加価値を生み出せた」と自信を示した。

ただし、森氏は2つの課題も見出した。1つは、エリアへの消費支援。今回は商業施設に一定の送客をしたが消費の大きな支援には繋がらず、支援策や運行ルートの策定、各スポットでの降車時間などの検討に「課題が残る」と話した。

もう1つは、収益化。本格運行する場合の原資をどう確保し、持続可能にしていくか。難波氏は「コンテンツを使うだけではなく、利用者がお金を支払う仕組みを作りこむ必要がある」との考えを述べた。森氏は、乗車券収入のほか、送客エリアにスポンサーを募ったり、関連グッズの販売などで運行費用を用立てる可能性も示した。

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