世界の観光トップ、入国時の「健康ルール」の統一を呼びかけ、現状は国ごとにバラバラ、解決はデジタル活用で ー世界旅行ツーリズム協議会レポート

世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の年次総会「グローバルサミット」が2022年4月20日から22日、フィリピンのマニラで開催された。昨年のメキシコ・カンクンでの開催に続き、今回もマニラのリアル会場とオンラインでのリモート参加によるハイブリッド開催。会場では、コロナ禍からの需要回復とサステナブルな未来に向けて、さまざまな視点からの議論が交わされた。

今年で21回目となったグローバルサミットのテーマは「Rediscovering Travel(旅の再発見)」。オープニングセレモニーの冒頭、WTTCのアーノルド・ドナルド会長は「ようやくリカバリーが始まったが、アジア太平洋地区は需要回復に欠かせない。旅行産業の未来を再定義し、よりサステナブルかつインクルーシブな産業へと成長しよう」と呼びかけた。

WTTCでは人々のワンダーラスト(旅への渇望)を呼び覚まし、旅を再発見してもらおうと、新キャンペーンを展開。「旅行・観光産業は世界のGDPの10.4%(2019年)を占めていたが、コロナ禍で6200万の雇用が失われた。これを取り戻し、さらに新たな雇用も生み出していく」と力を込めた。

WTTCのアーノルド・ドナルド会長

続いて檀上に立った今回のホスト国、フィリピンのベルナデット・ロムロ・プヤット観光大臣は「厳しい2年を乗り越え、再び国境をオープンし、みなさまを迎えられたことは喜ばしい。このサミットはフィリピン観光産業にとって、新たな時代の幕開けを象徴するイベントになる」と挨拶。パンデミックを機に、フィリピンの自然環境が以前よりも美しくよみがえったことにも触れ、昨年COP26で採択されたグラスゴー宣言にのっとり、気候変動問題に向き合いながら、「安全でシームレス、レスポンシブル、そして楽しい旅行・観光デスティネーション」を目指すと話した。

フィリピンのベルナデット・ロムロ・プヤット観光大臣

WTTCのジュリア・シンプソンCEO(最高経営責任者)兼プレジデントは、「回復がはっきり見えてきた。ただし、アジア太平洋では、中国のように、国境をオープンしていない国もある。すべての国に、サイエンスに基づき、国境を再開し、経済を動かし、すべての旅行・観光事業者の仕事が完全に復活するよう求めたい」と呼びかけた。

同CEOによると、最新のWTTCの予測では、世界の旅行・観光産業の成長率は2032年までの10年間、年平均5.8%増となり、再びGDP成長率を上回るほか、雇用も同10年間で1億2600万人増としている。また世界の旅行・観光産業の経済規模は、2019年の9兆6000億ドルから激減したものの、2021年は5兆8000億ドル、さらに今年末には8兆3500億ドルまで回復するとしている。

またシンプソンCEOは、パンデミックを機にデジタル対応が急速に発展したものの、「コロナ対応のデジタル・ソリューションはひどくバラバラなのが現状だ」と指摘。国ごとに異なるルールの乱立を統一し、旅行者の健康状態を把握できるデジタルの仕組み(いわゆるワクチンパスポートなど)を、世界で完全に統合するべきだと訴えた。

WTTCのジュリア・シンプソンCEO(最高経営責任者)兼プレジデント

コロナの教訓と変わる旅行トレンド

続いて行われた最初のパネル「Redefining Travel in a Changing World」では、コロナ禍を経て生まれ、定着していくであろう変化やトレンド、学んだ教訓について取り上げた。マリオット・インターナショナルのグループ・プレジデント、クレイグ・スミス氏はまず「ホテルのチェックインから各種手続きまで、効率的なテクノロジー利用が広く利用者の間で浸透したこと」を挙げた。

フィリピンのプヤット観光大臣は「かつてはビーチや食への関心が高かった訪フィリピン旅行者だが、今は安全が何より最優先。クリーンな自然環境への関心も高くなった」と指摘。知名度がまだ低く、混雑していないデスティネーションをPRする好機到来でもあると話した。

グローバルレスキュー・カンパニーズのダン・リチャーズCEOは「3月末に実施した調査では、旅行者が最も不安を感じていることは、コロナに感染したり、体調を崩すことよりも、隔離されたり、どこかで足止めされる事態に陥ること。各種規制や杓子定規な手続きへの懸念が最も大きいことが分かった」と指摘した。

これに対し、プヤット大臣は「フィリピンでは過去2年間、同じ政府内でも厚生当局と観光当局は、常に意見が分かれてきた。だが毎日、長時間のミーティングを繰り返したことで、むしろツーリズムの重要性について、以前より理解が深まった。同様に、フィリピン観光に携わる官民の距離も、コロナ対策の一つ一つを巡る話し合いを通じて以前より近くなった」と明かした。

パンデミックから得た今後の教訓として、ドバイ国際空港CEO、ポール・グリフィス氏は「世界の旅行・観光産業の経済インパクトは充分にあるので、関係者がもっと一つのまとまった声となり、各国政府に共同で働きかけることが重要だ。(ヘルスパスポートや空港手続きのデジタル化などで)世界共通のグローバルスタンダードへの統一化を早急に実現することを求めていくべき。少なくとも技術的には難しいことではない」と訴えた。

バーチャル会場には日産も

事前登録した参加者がオンラインから参加バーチャル会場には、グローバルサミットの各セッションが視聴できる「講堂」や、関連企業・観光局などが出展する「展示場」、録画したセッションを視聴できる「ビデオ・オンデマンド」の3エリアを用意。展示場の出展ブースでは、展示資料を自分の「eブリーフケース」にダウンロードする機能などが用意された。

バーチャル会場の様子出展企業の一つ、日産自動車のeブースでは、サステナブルかつ安全な移動手段として電気自動車リーフを旅行関係者向けにアピール。同社がフィリピンのボラカイ島で、現地リゾートホテルや自治体などと取り組む「ゼロ・エミッション」の滞在実現や、EV技術を活用した災害対策を紹介した。

バーチャル会場の様子

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