世界の旅行を革新するリーダーたちが考える成功の秘訣とは? ホッパーやトリバゴのリーダーの討論を取材した ―フォーカスライト欧州2022

オランダのアムステルダムで2022年6月下旬、3年ぶりにリアル開催された旅行テックの国際会議「フォーカスライト・ヨーロッパ」では、パンデミック禍の中でも急成長した旅行系フィンテックのホッパー(Hopper)、価格比較サイトの老舗トリバゴ(Trivago)、そして昨年、ブッキング・ホールディングス傘下に加わった欧州系の航空予約大手Eトラべルアイ(Etraveli)の3社が、「流通におけるイノベーション」をテーマに、それぞれの知見や今後の成長戦略について語った。

パネリスト:

  • アクセル・ヘガー(Axel Hefer)氏 トリバゴ最高経営責任者(CEO) 
  • リサ・カツラキ(Lisa Katsouraki)氏 Eトラべルアイ・グループ上級副社長(コーポレート開発担当) 
  • ダコタ・スミス(Dakota Smith)氏 ホッパー最高戦略責任者(CSO)
  • モデレーター:コニー・ドンガレ(Coney Dongre)氏 フォーカスライト リサーチマネジャー

サプライヤーと消費者の間に介在する仲介事業者、いわば流通のエキスパートとして期待されるイノベーションについて、Eトラベルアイのカツラキ氏は、「まずパートナー企業との結びつき、橋渡し役であることが重要。テクノロジーを活用し、今までにないコラボレーション手法や、コマーシャルモデルを作り出すこと」を提言。これに対し、ホッパーの場合は「利用客側の立場からアプローチしている。顧客に喜ばれたユースケースや商品価値から逆算していき、競合他社がまだやっていないことに挑戦する。フィンテック商品もそうやって生まれた」とスミス氏は話す。

トリバゴのヘガー氏は、仲介事業者ならではの視点として「新しいアイデアをもとに、プロダクト開発して売り出すというより、できる限り多くのパートナーが活用できるものになるよう、最初のアイデアに少しずつ手を加えることになる。もちろん利用客にとっても価値あるものに仕上げる必要がある」。

イノベーションに成功し、事業が一定以上まで成長した後についてはどうか? 

ライバルに対する優位性を維持するための秘訣について、スミス氏は「常に新しいプロダクトを開発できる体制が重要だ。ホッパーではソフトウェア開発者が300人ほどいて、毎週、当社アプリでは何かしらのアップデートがある」。航空会社や宿泊施設などのサプライヤーが、同じペースで流通向けのテクノロジー開発にあたるのは非現実的であり、最新のコードベースなどに詳しい専門家に任せた方が理に叶っているとの見方だ。

ヘガー氏は、「トリバゴもそうだが、スタートアップ時代と同じく、常にイノベーションの先頭にありたいとの思いはある」としつつ、現実には、巨大化と共に、より複雑になる組織の運営に時間や労力をとられると話し、イノベーションから遠ざからないために留意するべきこととして、「自社のサービスが、今現在もベストなのかと自問を続けること」、「フォーカスするべき中核ビジネスは何かを意識しながら進むこと」の2つを挙げた。

同氏は、会社の規模が大きくなり、リソースも潤沢になると、色々なことができるようになるが、これが危険な罠でもあると指摘。あちこち手を出せば出すほど、組織は複雑になり、新規開発のスピードを鈍らせるが、これを防ぐのは容易ではないという。

セッションの様子。左から、コニー・ドンガレ氏(モデレーター)、トリバゴCEOアクセル・ヘガー氏、Eトラベルアイ リサ・カツラキ氏、ホッパー ダコタ・スミス氏

では、事業の成長をスピードアップするM&Aと、インハウスですべて創り上げる自前主義、どちらがよいか?

ヘガー氏は「パワフルで有名な企業になるとM&Aは魅力的」だが、「異なるITシステム、異なる社風、バラバラなロケーションなど、経営が非効率になるリスクをはらむ」と話し、「競争力に不可欠な事業であるものの、自社内で構築するには膨大な時間がかかるなどのケースであれば、M&Aは理に叶っている」との考えを示した。

昨年11月、ブッキング・ホールディングスによる買収に合意、現在は諸手続きの完了を待っているEトラベルアイでは、「ブッキング・グループとはすでに3年以上、提携していたので、今も日々の業務に大きな変化はない。重複する部分がなるべく少ないこと、自社の強みを損なうものがないことがM&A成功のシナリオには必要」(カツラキ氏)という。

ホッパーでは、「自社が顧客に提供する価値のファンダメンタルな部分については、社内で作りあげるべき」(スミス氏)との考え。しかし「それ以外」の部分については、M&Aによって外部と手を組むことも一つの選択肢とする。鍵になるのは「ホッパーを選んでくれる顧客は、ホッパーのどこに価値を見出しているのかに、意識を集中すること。自社が世界ナンバーワンになれる領域に専念することが大事」(同氏)。

パンデミック禍からようやく抜け出した旅行マーケットだが、今度は景気後退の暗雲が広がり始めている。今後のプロダクト開発やイノベーションにはどう取り組んでいくのか。

景気がある程度、下落することは必然と見ているヘガー氏は「毎日、ガソリンの値段や、スーパーの食品価格をチェックしていれば、もちろん旅行の時も同じことをする。価格を比較して、節約しようと考え、コスト意識も高まるだろう。こうした消費者の関心事に、イノベーションパワーを注力していく」。

Eトラベルアイでも「この冬は、難しい局面になると覚悟している。供給不足のひずみもあり、フライト価格はすでに上昇している」(カツラキ氏)。とはいえ、今のところ、同社の2022年取扱い額は2019年をはるかに上回るペースで推移中、回復は順調だ。引き続き、コア事業であるフライト関連サービスには集中的に投資していく方針だ。

旅行マーケットでは目下、2019年を超える旺盛な需要があるものの、半年から1年後には不況になり、財布の紐が固くなるだろうとスミス氏は予測。「企業にとっては、成長率の重要度がやや下がり、それよりも利益率を最も重視するべき時期。幸い、ホッパーでは去年、充分な利益が出ている」が、利益度外視でマーケットシェア拡大を追うことには慎重姿勢だ。

一方、テック企業にとっては、ポジティブな面もあるという。その一つは、優秀な人材が確保しやすくなること。「特に北米市場では、テック人材の争奪戦が激しく、報酬レベルも上がっていたが、ここにきて、競争軟化の兆しがある。成長鈍化を予測している大手が雇用を縮小しているからだ」とスミス氏。不況下での消費者ニーズには、多くの点で、コロナ禍と共通する部分があるとも指摘する。

「顧客は節約を意識するようになり、価格には敏感で、透明性を望み、公平に扱ってくれる企業を信頼する。いずれも、これまでホッパーが力を入れてきた部分なので、さらなるマーケットシェア拡大は可能」と自信を示した。

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