日本政府観光局(JNTO)は、第25回JNTOインバウンド旅行振興フォーラムを開催し、「アドベンチャー・トラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)」アジアディレクターのハンナ・ピアソン氏が「世界のアドベンチャートラベルのトレンドと日本における可能性」について講演を行った。JNTOは、インバウンド市場の復活に向けて、アドベンチャーツーリズムをサステナブルツーリズム、高付加価値旅行とともに重点テーマとして位置付けているほか、2023年9月には北海道で「アドベンチャー・トラベル・ワールド・サミット(ATW2023)」が開催されるなど、日本でもその注目度は高まっている。
アドベンチャーツーリズム(アドベンチャートラベル)とは、身体的アクティビティ、自然とのつながり、異文化体験の3つの要素のうち2つ以上を含むものと定義され、環境への負荷軽減や地域コミュニティの維持・発展などサステナブルツーリズムにも深く関わってくる旅行形態だ。
ピアソン氏は「観光は地球上で最も多くの雇用を生み出す産業。それゆえに自然資源とは切っても切れないもので、地球の健全性にも大きな影響を与える。そのなかで、アドベンチャートラベルとは、自己変革、精神的・肉体的挑戦、ウェルネスを、受け身ではなく、能動的に楽しみながら行い、自然を保護していくこと」と説明する。
ATTAの調査によると、地域に1万ドルの経済的価値を生み出すために必要な旅行者数は、パッケージツアーで9人、クルーズでは96人だが、アドベンチャートラベルでは4人と圧倒的に少ない。また、地域への直接的な経済効果も大きく、2021年の実績では1人あたり平均2900ドル(約41万円)の旅行費用(航空券は除く)のうち70%に当たる2030ドル(約29万円)が地域での消費に費やされ、地域産品の購入費も平均238ドル(約3万4000円)にのぼった。さらに、マスツーリズムが地域に生み出す雇用効果は1.6人であるの対して、アドベンチャートラベルは2.6人にもなるという。ピアソン氏は「数の大きさに頼らず地域社会に貢献できる価値がある」と強調する。
アドベンチャートラベルの最新トレンドとは
コロナ禍を経て、世界的に旅行はよりサステナブルなスタイルに変化していると言われている。
しかし、「アドベンチャートラベルはコロナ前からそうだった」とピアソン氏。ATTAが調査会社のユーロモニターと行った調査によると、アドベンチャートラベルはすでにコロナ禍で求められている旅行スタイルを備えていることから、その回復は通常の旅行よりも3~4年早くなるとの予測が出ているという。
そのなかでも、アドベンチャートラベルに求めるものにもさまざまな変化が出てきている。ATTAが2022年6月に実施した調査からは、旅行者が求める10のトレンドが明らかになった。
ピアソン氏がまず挙げたのが「カスタマイズされた旅程」。より自由度の高い旅行が好まれると同時に、デジタルソリューションの発達によって、より便利で簡単な旅行手続きのプロセスが求められているという。
また、より環境にやさしい旅行への関心もこれまで以上に高まっていると明かす。調査によると、アドベンチャートラベルを楽しむ米国の旅行者の80%以上が「自分たちの行動によって環境への負荷が変わる」と認識していることから、ピアソン氏は「ツアーの設計の段階から、その意識を取り込むことが大切になる」との考えを示した。
このほか、スロートラベル、地域を知る、スペシャリストによるガイド、人里離れた場所、ウエルネス、文化的多様性、Eバイク、多世代をキーワードとして挙げた。
ピアソン氏は「驚くべきことではないが、動機にも変化が出てきた」と指摘。例えば、従来から求められてきた「新しい体験や本物の体験」に加えて、「デジタルデトックス」や「暮らすような旅」もモチベーションを高める要素として注目されているという。
さらに、アドベンチャートラベルのニーズは地域によっても違いがあり、欧米では自然系が人気を集めているのに対して、アジアでは文化体験がトップになっていることから、ピアソン氏は「アジアらしいアピールをしていくことが必要ではないか」と提言した。
そのうえで、「日本には多様な自然や文化遺産がある。アドベンチャートラベルの動機のすべてが備わっている。すべての条件が揃っている国は世界でも少ない。大きな可能性がある」と評価。来年のATW2023の開催を「日本のアドベンチャートラベルのユニークさを伝えるいい機会になるはず」と位置付けた。
※ドル円換算は1ドル143円でトラベルボイス編集部が算出
トラベルジャーナリスト 山田友樹