ヤフーは、1年前の2021年9月、ヤフートラベル(Yahoo!トラベル)のサイトをリニューアルした。2016年に高級宿予約「一休」を子会社化してからは、効率性を理由にOTA事業は一休が担い、ヤフートラベルは他社OTAのプランを比較掲載するメタサーチを中心とするサイトとして棲み分けてきた。 現在では独自商品を販売するOTAサイトおよび比較サイトとして運営しているが、 OTAとしての比率が高まっているという。
ヤフートラベル事業の責任者であり、一休の執行役員である平玄太氏(ヤフートラベル統括本部トラベルユニットマネージャー、一休の執行役員第一宿泊事業本部事業本部長兼営業部部長)に最新の状況を聞いてきた。
Yahoo!トラベルと一休のシナジー
平氏は、ヤフートラベルと一休の棲み分けついて、「一休がZホールディングスグループの傘下に入ってから時間が経ち、改めて両サービスを比較すると、一休のほうが成約率やリピート率が良く、ユーザーの支持が高いことが分かった。同じグループ内に2つの旅行サービスがあるが、良い部分は双方で展開すべきと判断した。一休とヤフートラベルでは、客層が異なるので大きく被ることはない」と説明。そして、「独自商品の販売を同一サイト内で完結することをOTAとするなら、ヤフートラベルはOTA」との認識を示した。
では、リニューアルでヤフートラベルはどのように変わったのか。
現在、ヤフートラベルで提供しているのは次の3つのサービス。(1)宿泊予約(ヤフープラン)、(2)宿泊予約(各社比較)、(3)宿泊+航空券(ヤフーパック)。このうち、(1)宿泊予約(ヤフープラン)がOTAと称する独自商品の販売サービスだ。一休の客室在庫と連携して提供するもので、ユーザーが旅行契約を結ぶのは一休だが、予約購入は一部を除き、ヤフートラベル内で完結する。そして、ヤフープランの販売サイトには一休のシステム、プログラムを取り入れ、UI/UXも、ほぼ一休の仕様で作り直した。
平氏は、一休の仕組みを踏襲するものの、あくまでもユーザーファーストでサイトを構築し、その結果として差別化されていることを強調。「UIはかなり一休に寄せているが、見た目は違う。ヤフートラベルと一休のユーザーは目的が異なるので、その思想にあわせて作った」と話す。
例えば、一休のユーザーは、宿そのものが滞在する目的であることを踏まえ、宿の写真は大きく、雰囲気が伝わるものを使用している。一方、ヤフートラベルは出張や地方でのイベント参加など、本来の目的を果たすために宿を利用するユーザーも多いため、館内や客室の機能など宿の細部がわかるよう、宿のトップページに写真を複数表示するといった具合だ。
好調が続く一休の“いいとこどり”をして、ヤフートラベルの客層にあわせたUIを提供する。そうすることで、ヤフートラベルにも成果が表れたという。
新規客が倍増、“日常”への還元が好評
一休は、GoTo停止後も現在に至るまで前年を上回る好調な推移が続いている。ヤフートラベルでも2021年夏ごろから、コロナ以前(2019年)の予約金額を超える時が増えてきた。その時々の感染状況に応じて上昇下降を繰り返しながらも、2022年に入ってからはコロナ前を超える水準で推移している。
この状況について平氏は、コロナ禍のオンラインへのシフトや海外旅行の受け皿としての国内旅行需要の増加という要因があるとしながらも、「プライベートの旅行を促進するような施策を起こしていた」と自信を示した。
その代表例が、ポイント施策。ヤフートラベルの以前の主要施策といえば、「5のつく日」「旅!旅!サンデー」「ゾロ目の日」だったが、2021年5月に終了。その後、順次、「10%還元キャンペーン」等を実施した。施策の対象を、ヤフーの優良顧客(プレミアム会員)に限定せず、誰もが特典を受けられるようにした。その結果、予約金額や予約数、単価が上昇。平氏は、「付与の上限を設けなかったのもよかった」と、振り返る。
2022年4月には、Tポイントの利用および付与を終了し、 PayPayポイントの付与に一本化。今年の夏のキャンペーン効果を踏まえ、9月には宿泊予約で「いつでも誰でも最大10%お得」とした。
この結果、予約の流入でYahoo! JAPANを含め、検索サイトから直接入ってくる新規客が増加。ヤフートラベルを初めて予約するユーザーの数が倍増したという。平氏は「PayPayポイント付与の反響は大きい」と、旅行予約による特典を日常の多くの場所で享受できるようにした施策に手ごたえを感じている。
OTAとして新たな歩みを始めたヤフートラベル。今後はどのような展開を目指しているか。
平氏は、「様々な宿をお客様のニーズに簡単にマッチさせる。宿を予約したくなるよう、魅力的に見えるサイト作りやユーザーとのコミュニケーションを強化していく」と、今後もユーザーファーストの視点でサービスの磨き上げに注力していく方針だ。
その手段の1つとして、Zホールディングスグループの各サービスとの連携も視野に入る。
例えば、2021年3月に経営統合したLINEの活用だ。一休では、指定した日時に客室在庫がない場合に空室待ちができる。「これは一休のユーザーに好評を得ているので、ヤフートラベルでも取り入れていきたい」(平氏)という。再販の通知をする際に、LINEで通知するアイデアもある。
キャッシュレス決済PayPayや地図サービスを提供するヤフーマップなど、ユーザー体験が良くなると考えられるサービスとは、連携をしていく考えだ。
また、ユーザーごとに異なるニーズに対応する情報提供の最適化(パーソナライズ)についても精度を高める。そのためにも、予約動向やサイト内のユーザー行動を「貴重なシグナル」として重視していく考え。