観光立国推進協議会は、2023年1月17日、第9回協議会を実施した。協議会には観光産業のメインプレイヤーとなる企業・組織の会員・代理人74名が参加。2023年に取り組むべき課題や提言を共有した。
観光立国推進協議会とは、観光関係企業・団体が集い、民間セクターとしての方針の策定などおこなう組織。交通、鉄道、宿泊、旅行のほか幅広い産業が連携し、約100団体・企業が参画している。日本観光振興協会が2014年に立ち上げた。
観光の民間セクターの総意
会合では、旅行、宿泊、交通の各企業・組織のトップが、現状や課題、今後の提言について述べた。その後、各社の発言を協議会委員長の山西健一郎氏(日本観光振興協会会長/三菱電機)が観光産業の総意として取りまとめた。
現状については、観光産業が昨秋の水際対策の大幅緩和や全国旅行支援によって回復基調にあるものの、本格的回復には至っていないという認識で一致。国に対しては、全国旅行支援をはじめとした支援の継続、水際制限の完全撤廃、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけをインフルエンザ相当の5類へ見直すよう要望を続ける。
観光産業における共通の課題は、人手不足。背景として、雇用における待遇と労働環境、進んでいない生産性向上、DX、需要平準化があり、産業として課題解決を継続しておこなっていくことが重要とした。
今後は、長期的な視点に立ち、成長実現に向けて産官学が連携。観光の成長戦略を進め、特に2025年の大阪万博の成功に向けて総力をあげる。山西委員長は「日本観光振興協会としても、幅広い連携を構築していくことが必要」と力を込めた。
会合での企業・組織トップの発言は以下のとおり。
日本旅行業協会 髙橋広行会長
髙橋会長は、全国旅行支援で国内旅行が8割程度まで回復しているものの、それは「明らかに全国旅行支援の効果である。回復軌道に入ったとは思っていない。」との現状認識を示した。そのうえで、本格的な回復にけては相当な時間と労力がかかるとして、それまでの間は支援策が不可欠であり、全国旅行支援などの支援策について「4月以降についてもできる限り長く継続して実施してほしい」と要望した。
水際制限については、日本入国時のワクチン接種3回または陰性証明が必要で規制は残っており、グローバルスタンダードにあわせて完全撤廃を求めた。特に、ワクチン接種についてはインバウンド回復の足かせになるだけでなく、日本発の企業の出張、接種率が低い若年層が参加する海外修学旅行が実施できない状況が日本全国で発生している点を説明。さらに地方空港の検疫体制の整備が追い付かず、国際線再開の足かせになっているとした。
「コロナかから脱却して新たなステージに行けるかの正念場。一体で観光の復活、再生元年にしていきたい。」と意気込みを示した。
日本旅館協会 大西雅之会長
大西会長は、宿泊業界における課題を説明した。
大きな課題は蓄積された経済的なダメージ。全国旅行支援が開始した2022年10月以降、足元では旅行需要が活発化して賑わいを取り戻しているが、会員向けの緊急アンケートの結果では、今期の決算で赤字を見込む会員が63%、債務超過は38%。コロナの間、ゼロゼロ融資を受けその返済が始まるが、返済の長期化や運転資金の調達にも苦心している施設が数多くあるという。この状況について「経営努力が及ばない災害となっている」として息の長い再生スキーム、金融支援、インバウンド回復期までは全国旅行支援の継続を要望した。
また、人手不足によって旅行需要が回復するなか、稼働を抑えざる負えない施設が多いことや高い離職率で「状況は厳しさを増すばかり」。外国人採用へ実態把握や法規制の整備を要望した。さらに、高付加価値化やサステナブルツーリズムへの積極的な推進の必要性を指摘した。
東日本旅客鉄道(JR東日本)富田哲郎 取締役会長
富田会長は、国内旅行全体では8割の回復と言われるなか、「内容的にはコロナ前と大きな変化がある」と指摘した。
まず、同社においては定期券の販売がコロナ前の75~80%への回復で高止まりしており、「在宅勤務が定着した今、コロナ以前には戻らない前提で対応を考えていかなければならない」と話した。現在、在来線の近距離は85~90%、中長距離は80%程度まで回復。一方で、「地方から東京への流れが弱い、特に東北で顕著」という。コロナの分類が感染症法上の2類相当であることから消費者の「心理的な移動抑制が起きている」とみており、早急な5類への移行を求めた。
「我々が受けたダメージは想像以上、単年度では回復しきれない、中期的な支援をアピールしていく必要がある」と語り、自社での努力を後押しする政府・自治体の支援を求めた。
今後は、自治体と連携しながら新たな観光スポットの発見や情報発信などきめ細かくおこなうことで需要開拓していきたい考え。また、「インバウンドの回復が中長距離客の回復の柱になる」との考えのもと、訪日外国人の訪問がまだ少ない東北や上信越への送客に注力し、スノーリゾート、アドベンチャーツーリズムなど情報発信をしていく。また、運輸、観光全体のDX、生産性向上への取り組みが重要で地域観光のプラットフォーム化やキャッシュレス化、観光需要の平準化などを促進するべきとの考えを示した。
富田氏は、観光産業の再生にあたって「全体が一つになって進めていく気持ちを持つことが重要」として連携を呼びかけた。
日本航空(JAL)植木義晴 取締役会長
植木氏は、同社の航空需要(旅客数)が12月実績で国内線90%、国際線は55%まで回復している一方で、1月の予測値は伸び悩みを見せていると説明。訪日客数は伸びているものの、中国線が壊滅状態である点を課題としてあげた。
航空需要は、コロナ禍で働き方改革があった中で「同じ数字まで戻ってくると思っていない」と話し、特に戻らないのが国際線の日本発(日本人の海外旅行)であると指摘。この点で「ツアー価格が、とてつもなく上昇している。海外旅行が高値の華になりつつある」と危惧した。海外旅行再開の機運のなか、「せっかくの海外旅行熱を冷ましてはいけない」と呼びかけた。
はとバス 塩見清仁 代表取締役社長
塩見社長は、コロナ禍の3年の貸し切りバス業界の厳しい状態を説明し、「資産売却、減資、出向、雇用調整助成金でなんとかやってきた。全国旅行支援などでようやく明るい兆しがみえている。支援策は傷口が深かっただけに長く続けてもらいたい。」と国の支援の継続を求めた。バスを利用した団体旅行について教育旅行は再開したが、一般団体が戻らない状況という。
観光の課題として、コロナ禍の間、旅行に対して「不要不急」という言葉が使われ続けたことを指摘し、旅行需要の回復に向けては「国民全体のマインドが必要」と指摘。コロナ後のパラダイムシフトは重要であるものの、マインドをコロナ前のごく普通の感覚に戻していくことが「観光復活のカギ」と語った。
ぐるなび 滝久雄 取締役会長
滝会長は、外食産業においても回復の兆しを見えているとし、今後の一層の回復に向けて観光と飲食業がより連携をしていくことを呼びかけた。
具体的には、地域一体となったガストロノミーツーリズム推進やタビアトの外国人旅行者に対する越境ECをあげた。
関西エアポート 山谷佳之 代表取締役社長CEO
山谷社長は、「2025年大阪・関西万博は関西の観光を大きく回復・成長させる大きな要素」として、JR大阪駅周辺の再開発がサステナブルを大きなテーマとして進めていることを説明。「世界に最先端のものを発信することができると考えている」と自信をみせた。
そして、「コロナ禍で低迷した関西の観光市場を、万博前のこの2年間で復活させたい」と意欲をみせた。観光産業にとって、関西発で日本各地に旅行をしてもらうことも重要で、観光関係者と連携した活動を重視していく考えだ。