2023年1月16日からスイスで開催された世界経済フォーラム「ダボス会議」では、旅行分野に関する議論もおこなわれた。今年のイベントのテーマは「断片化された世界での協力」。旅行分野でも、このテーマを中心にパネリストが意見を交換した。
データプラットフォームJourneraのジェフ・カッツCEOは、「旅行の仕組みにはまだ多くの欠点がある。 ダボスのテーマは『断片化された世界での協力』だが、旅行業界ほど断片化されたものない。 まだ、そこに変化は起こっていない」と発言。「旅行体験をさらに良くしていくためには、もっと進化していく必要がある」と付け加えた。
カッツ氏は、それは難しい問題であるが、「実現可能」との考えを示した。一方で、「旅行業界のリーダーが協力をさらに優先していくのはいつになるのか。それは、分断を乗り越えるために本当に必要なことだ」と話した。
人と機械
パネリストの多くが、パンデミックによって、それまで以上に協力関係が築かれていることに同意した。
ロンドン・ヒースロー空港のジョン・ホーランド-ケイCEOは、空港運営者と航空会社との関係は、利害が対立し、非常に困難なものだったが、パンデミックをきっかけに、旅行再開に向けて共同作業を進めていく重要性に気づいたという。「私たちは共に、システム全体をよりシンプルにして、より多くのデータを共有し、乗客の旅をよりスムーズにしていく必要がある」。
その例として、eゲートの導入を挙げ、現在ではヒースロー空港の全乗客の半数が到着時にeゲートを使用できるようになっていると明かし、「こうした動きが多くの国で見られている。人は入国管理など重要な仕事に集中し、単純な作業は機械に任せるべきだ」と付け加えた。
また、ルワンダ開発委員会のクレア・アカマンジ事務局長兼CEOは、ルワンダでの到着時ビザ発行について言及。政府と民間が、観光の重要性の認識を共有したことで実現したが、「協力は必ずしも容易ではない。しかし、不可欠なこと」と強調した。
このほか、議論は旅行のデジタル技術による自動化についても広がった。ヒースロー空港のホーランド-ケイ氏は「私たちは、より多くの旅を自動化する必要がある。アプリ間を移動することなく、シームレスな旅ができれば、私たち全員が恩恵を受けることになる」と発言した。
一方で、航空業界のレジリエンス(回復力)を高めていく必要があるとも話す。「ここ数年、多くの航空会社や空港はコスト削減に大きな焦点を当ててきた。しかし、 コストを下げると回復力が失われることになる。コスト削減のために人がおこなっていたことを機械がおこなうようになり、自動化のおかげでスムーズに旅行することができるようになったが、機械に不具合が発生した場合にバックアップを支える人員が企業には足りていない」と続けた。
オーバーツーリズムと環境
パネリストは、オーバーツーリズムについても議論。パンデミック前に起こったオーバーツーリズムの懸念が再度高まっていると指摘した。
モデレーターを務めたCNNインターナショナル・アンカーのリチャード・クエスト氏は、ルワンダやタイなどさまざまな国が、人気の都市やアトラクション以外への旅行者の分散化を進めているが、一部のデスティネーションでは「昔の悪い方法」に戻っていると問題提起した。
カッツ氏は「結局は体験によるのだろう。体験がよくなければ、そこには行かない。人は好きなところに行きたい。旅行者が行きたい場所をコントロールする戦略はないと思う」と発言した。
議論の最後はやはり環境問題。ホーランド-ケイ氏は持続可能な航空燃料(SAF)について言及。発展途上国がSAFの生産国になれるように先進国が投資をおこなうべきだと指摘。「企業として、割高でもSAFを購入する必要がある。そうでなければ価格は下がっていかない。先進国として、発展途上国を支援するために、航空業界のエネルギー・トランジションに資金を提供する必要があるのではないか」と発言した。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:TRAVEL’S RESILIENCE AND SUSTAINABILITY IN SPOTLIGHT AT DAVOS