サービス・ツーリズム産業労働組合連合(サービス連合)は、2023年の春季生活闘争(春闘)で、賃金を一律に引き上げるベースアップ(ベア)の要求水準を「1%以上」と発表した。
ベア「1%以上」の要求は4年連続だが、過去2年間はコロナの影響で企業や加盟組合の状況が異なることに配慮し、「実質的な賃金改善が可能な加盟組合」での取り組みとしていた。現在は旅行需要の回復傾向や社会的にも賃上げ機運が高まっていることから、3年ぶりに「すべての加盟組合」で取り組むことを方針に明記。従来から掲げている、中期的な賃金目標「35歳年収550万円」の実現を目指していく。
記者会見で、サービス連合副会長の櫻田あすか氏は、「春闘に対する世間の注目も高い。産業を支え、未来を創っていく人材への投資の重要性を労使で確認し、賃上げのみならず、労働環境の整備に協議を尽くしていきたい」と話した。
ただし、サービス連合のベア「1%以上」は、連合の掲げるベア「3%程度」(定昇分2%程度をあわせて賃上げ5%相当)とは開きがある。これについて、中央執行委員(労働条件局長)の吉田裕矢氏は、好業績の企業もあれば、厳しい事業が続く事業者もあることを説明し、「数字ではなく、1%“以上”に強い意味を込めた。これ以上の賃金改善が可能な組合は、積極的に取り組むことを確認している」と強調した。
春闘ではこのほか、契約社員やパートタイマー等の待遇改善、総実労働時間の短縮、両立支援・男女平等社会の実現に向けた「子の看護休暇および介護休暇の有給化」「改正育児・介護休業法への対応」など労働条件の改善の交渉も進める。
こうした賃金改善や労働条件の改善は、人材確保や宿泊料金などの値上げ(価格転嫁)などサービス・ツーリズム産業が抱える課題にも関わってくる。この考え方として、吉田氏は「人への投資は、これ以上の人材流出を防止し、他産業からの人材流入を促すためにも必要」との考えを述べた。
価格転嫁に関しては、具体的な要求や交渉の予定は把握していないが、「たとえば、宿泊業では電気代、光熱費がかかる。適正に価格に転嫁したつもりでも、全国旅行支援のタイミングで便乗値上げとして報道されることもあり、価格の引き上げには慎重にならざるを得ない企業もあると思う」と、サービス・ツーリズム産業の企業が実施する難しさを指摘。そのうえで「今後は必要なことだと思う。労使でその認識を持つことが大切」との考えを示した。
一方で、世間で春闘や賃上げが注目される要因に物価高があるが、吉田氏はサービス連合の方針として、「物価高が落ち着いた時には賃金改善の率が低くてもよいという議論になりかねない。物価だけに引っ張られない方針にした」と説明した。
なお、2023年春闘は、2月末までに要求書を提出。3月13日からの1週間を集中交渉期間とし、3月末日までの合意決着を目指す。
2022年冬ボーナスは増加、平均1.29カ月に
サービス連合によると、2022年秋闘で12月16日までに合意・妥結した71組合の冬期一時金支給月数は、単純平均で1.29カ月(2021年:0.73カ月)となり、前年から大幅に増加した。業種別では、ホテル・レジャー(45組合)の平均は0.98カ月(前年:0.60カ月)、ツーリズム・航空貨物(26組合)の平均は1.85カ月(前年:0.89カ月)だった。
全体の冬期一時金(2022年春闘で合意、または業績連動制度などで12月16日までに水準を確定した加盟組合を加えた、計95組合)の平均月数は、1.36カ月(前年:0.73カ月)、ホテル・レジャー(52組合)が0.93カ月(前年:0.59カ月)、ツーリズム・航空貨物(43組合)が1.88カ月(前年:0.86カ月)だった。
夏冬の年間一時金も、94組合の単純平均で2.26カ月(前年:1.23カ月)と大きく増加。ホテル・レジャー(52組合)の平均は1.60カ月(前年:1.01カ月)、ツーリズム・航空貨物(42組合)の平均は3.13カ月(前年1.39カ月)だった。
吉田氏は、コロナ禍の水準を大きく上回った理由として、「コロナ禍の2020年、2021年は協議ベースでの交渉が多かったが、2022年は具体的な要求水準を掲げて協議した組合が多かった」と説明。ただし、「コロナ前の2019年や2018年の水準に比べると、まだ追いついていないのは見てとれる」と話し、コロナの影響が残っていることも示唆した。