観光産業の欠かせないプレイヤーのひとつ、大型観光バス。修学旅行、企業の研修旅行、観光ツアーなど、今も昔も、団体旅行を安全でスムーズに実施するために必要な存在だ。
貸切バスを安全に運行するうえで重要な業務が、旅行実施前におこなう行程表の作成と見積り業務。全国6支店で計285台のバスを保有する帝産観光バスでは2023年2月、ナビタイムジャパンが提供する行程表作成・見積り業務などの旅行業務支援サービス「行程表クラウド」の導入を決めた。帝産観光バスが導入を決めた理由とその効果を両社に聞いてきた。
大型規制を考慮したルート検索が可能に
ナビタイムジャパンの「行程表クラウド」は、旅行会社や貸切バス事業者が実施する旅行の行程表作成・見積り業務の効率化を目的としたサービス。ナビタイムジャパンの経路検索エンジンを基盤に、同社が収集している鉄道バス、飛行機、フェリーなどの公共交通データや、道路規制・制限、通行料金などの道路データ、全国約4万件の観光施設のほか、900万以上の施設データをもとに、クラウド上で行程表を作成する。
ナビタイムジャパンならではの大きな特徴は、消費者向け旅行プランニング・予約サイト「NAVITIME Travel」で提供している旅程プランニング機能と、「観光バス専用カーナビ」などモビリティ別のナビゲーションサービスで培った技術とデータをサービスに活用していること。
すでに多くのユーザーに利用されているからこそ、操作はわかりやすく、貸切バスの場合、車高や車幅、車長、大型車規制など通行可能なルートを、(1)スポット検索、(2)スポット選択、(3)ルート検索のたった3ステップで、誰もが簡単に作成できる。
従来、バス会社や旅行会社が行程表を作成するときは、既存の経路検索サービスやオンラインマップ上でルートを選定していた。しかし、既存のサービスには大型車に特化したルート選定のサービスがないため、選定したルートが本当に大型車の通行が可能であるか、確認する必要がある。その方法は、道幅を目視で確認したり、衛星地図で道幅を測ったりするなど、ひとつひとつ人の手で確認するしかなかった。「行程表クラウド」を使えば、その必要がなくなり、かなりの作業が効率化される。
このほか、貸切バスを含む車と、公共交通、徒歩、自転車を組みあわせたルート検索、高速利用料金の自動計算、大型バス駐車場や大人数を収容できる飲食店の検索など、機能は多岐にわたる。旅行会社と貸切バス事業者のデータ共有も実現。旅行会社が作成した行程表のデータを貸切バス事業者が引き継いで、料金を見積として回答できる。
ナビタイムジャパンメディア事業部兼トラベル事業部企画推進チームの酒井美帆氏は、「行程を作成するシステム自体はほかにもある。しかし、観光バスの運行ルートやナビに特化しているサービスは、ナビゲーションを本業とする当社だからこそできるもの。業務効率化の支援とともに、最終的には安全運行を目指している」と同サービスに胸を張る。
行程表作成サービスに求められる機能
一方、以前から貸切バス事業者も自社システムとして開発に取り組んできた。2016年に「安全・安心な貸切バスの運行を実現するための総合対策」が策定されて以来、貸切バス会社には安全情報の報告、運用管理の強化、下限割れ運賃防止などの規則が義務づけられた。国土交通省は旅行会社や団体の幹事などにも、貸切バスの選定ポイントとして、行程に安全への配慮や予定走行距離、制限速度、駐停車場所の確保、運賃などを確認したうえで契約するよう求めている。
帝産観光バスでも以前から、システム開発に取り組んでいたが、納得できるものはなかなか実現しなかった。当時のシステム開発は、運賃の自動計算に特化するものが多かったからだ。
帝産観光バス専務取締役の飯尾一重氏は、「旅行会社の行程表は、ツアーの出発地から解散場所までの行程が示されているが、実際にバスを運行するのは、バスの車庫/集合・解散場所に加え、観光スポット/休憩所/駐車場の間なども含まれる。それらの距離と時間、人数も含めて行程を出し、運賃を計算する必要がある。さらに、時間・キロ併用制運賃方式で算出した上限額と下限額の範囲内で運賃を決定する必要がある」と、貸切バス事業者にとっての行程表作成業務の重要性を説明する。
そのうえで、業界に先駆けて2019年に後付け衝突防止補助システム「モービルアイ」を全車両に導入し、安全運転支援に何よりも力を入れていた同社では、システム開発においても、業務改善を求めるだけでは終わらなかった。「当社のゴールは、安全運行のためのナビゲーションができること」(飯尾氏)を目指すからだ。そこで、「安全運行に寄与するシステムと見込んだのが、ナビタイムのサービスだった」と振り返る。
データと技術開発の体制と感性に信頼
なぜ、ナビタイムジャパンの「行程表クラウド」に目をとめたのか。
理由のひとつは、ナビゲーションの確実性だ。ナビタイムジャパンの「行程表クラウド」の場合、BtoCやBtoBのサービスで多くのユーザー数を誇る「トラックカーナビ」や「バスカーナビ」などのノウハウを活用しているので、常に最新の状態にアップデートされている。
こうした技術やデータの精度の秘訣は、ナビタイムジャパンの組織体制にある。サービスを提供する事業部門を横断する形で研究開発部門を設け、「バスデータ」「鉄道データ」など各チームが担当の技術開発やデータ収集に取り組んでいる。大型車規制のデータは都道府県警から情報を入手し、大型車が通行可能なルートを独自でデータ化している。警察が提供するデータ形式は地域によって異なり、それを統一した仕様に変換するのもかなりの作業量になる。飯尾氏も「これだけのデータを随時更新するのは、バス事業者でも不可能」と評価する。
もうひとつの理由は、ナビタイムジャパンの姿勢。ナビタイムジャパンの酒井氏は「実は当社も最初は業務改善・効率化の観点でアプローチしていた。しかし、話をうかがううちに、バス会社にとって行程表作成・見積り業務は安全に直結する業務であることを学んだ」という。
今では「同じ大型車でもトラックと観光バスでは走る目的が違うのでルートも変わる。観光バスはお客様の要望で、運行途中で追加の立ち寄りをするケースも少なくない。走行データが集積すれば、さらに観光バスの運行実態を反映したナビになると思う」と、機能改善にも意欲を見せる。こうしたナビタイムジャパンの反応に、飯尾氏は「システム開発は感性だと思う。同じ目線を持った開発チームがいることは、非常に大きい」と信頼の言葉を口にする。
人とITとの融合で、効率化しながら安全を守る
なぜ飯尾氏は、ここまでナビゲーションシステムにこだわるのか。それは、無事故のベテラン運転士達の「ナビはあったほうがいい」という言葉が大きい。「何人に聞いても、答えは同じ。運転士は前日までに地図と行程表に目を通し、当日の点呼でも確認して業務にあたるが、さらにナビという“武器”を持ちたい。運行中に『把握していたルートで間違いなかった』と安心できるものがあることが、安全運行につながると判断した」と説明する。
的確なナビは、運転士のヒューマンエラー対策にもなる。飯尾氏は「運転士を守ることは、乗客を守ることそのもの」と続ける。
「行程表クラウド」には、運行管理や危険予知の観点でも期待する。特に危険予知では、大型車の事故地点や、見通しの良くない道路など、事前に危険の可能性を知らせてくれる「交通事故AI予測マップ」も提供。ユーザーの走行実績や、道路や交差点のデータ、警察の事故データといった独自のデータが、AI予測をより実態に即した内容にしている。飯尾氏は、「危険予知は、ベテラン運転士も欲しているところ。そこもナビタイムの目指す方向性と合致した」と期待を話す。
飯尾氏によると、同社では行程表作成・見積り業務で、各支店に複数の専任担当者を置いていたが、「行程表クラウド」の導入によって人件費で算出すると、年間約2500万円の削減効果が見込まれるという。事務作業を削減できた分、その余力をさらなる安全運行のための業務に活かしたい考えだ。
さらに飯尾氏は、未来の安全運行も見据える。
「将来的に自動運転の時代が到来する。ヒューマンエラー予防と危険予知を含むナビゲーションは、自動運転でも使われるもの。自動運転が実現しても人の力は必ず介在するため、その時に運転士やバスガイドがそれぞれの技能をいかせる方向性を見出せるよう、今から意識してほしい」とも話す。
ナビタイムジャパンは今後、スマートフォンやタブレットでの閲覧やルート上の休憩場所の検索などの機能追加を検討している。ナビタイムジャパンの酒井氏は、「今後も事業者の声を受け止めながら、観光業界全体の課題解決に役立ちたい」と話している。
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対応サービス:行程表クラウド
問い合わせ先:ナビタイムジャパン koteihyo-business@navitime.co.jp
記事:トラベルボイス企画部