チャットGPTが旅行販売に与える影響は? 自然言語によるデータは「宝の山」、世界の旅行テック識者の見立て【外電】

米オンライン旅行会社「トラベロシティ(Travelocity)」や旅行比較サイト「カヤック(KAYAK)」の創設者として知られるテリー・ジョーンズ氏が、米観光産業メディア「フォーカスワイヤ」で、今、注目の「チャットGPT(ChatGPT)」が旅行販売に与える影響について語った。同氏は、旅行テック業界での長年の経験、自身が立ち上げた過去のAI事業での課題をふまえて、未来の可能性を示唆した。

自然言語によるデータは「宝の山」

私たちが1996年にトラベロシティを創設した時、エクスペディアのように最先端のデザインを採用し、旅行分野で最大のeコマースを立ち上げた。悲しことに、旅行系サイトのインターフェイスは、今でも当時からほとんど進歩していない。

私は、私自身の経験と確固たる証拠から、ChatGPTが正しく実装されれば、売上高と顧客満足度は劇的に進歩すると見ている。

2013年、私は当時IBMのCEOだったジニ・ロメッティのオフィスから電話を受けた。私は彼女から「IBMに来て、IBMワトソンに旅行に関することを学習させてくれないか」と頼まれた。それが、私がAIについて学ぶきっかけとなり、IBMのためにAIを広めていく事につながった。

それから、IBMワトソンの責任者と親しくなった。彼は、IBMを去る時、AI企業数社を立ち上げることを決意。私は、そのうちの1社を旅行分野で共同で設立することになった。それがきっかけで設立されたのが、AIで旅行体験を変えることを使命としたウェイブレイザー(Wayblazer)だった。

当時、利用可能なツールを検討した結果、自然言語検索、画像分析、テキスト分析を使って、旅行のユーザーインターフェイスに革命を起こそうと考えた。

限られた資金、コンピューティング能力、トレーニング能力を考えると、世界規模のB2Cアプリではなく、1つのホテルチェーンあるいは1つのコンベンションビューローのデータを処理する限定的なBtoB製品を構築しようとした。

私ちが構築したインターフェイスは、ユーザーが、例えば、「1月に家族でカリブに行きたい」「素晴らしいゴルフとスパを備えたデラックスホテルに泊まりたい」といった自然言語でリクエストできるものだった。

自然言語検索を使用する利点は、ユーザーの意向を即座に捉えること。 その意向データはまさに宝だ。

ほとんどの旅行サイトは、通常の疑問以外の旅行者の意向については分かっていない。 しかし、私たちのAIは、「カリブ海」という場所、「家族旅行」という形態、「ゴルフとスパを備えたデラックス」なホテルという意向を掴んでいた。

その意向を汲み取ることで、「素晴らしいゴルフとスパを備えた家族向けのデラックスホテル」のリストを即座に提案することができたのだ。

ユーザー意向の的確な把握で、成約率が大幅に向上

それ以上に重要だったのが。画像分析をを活用して、最初にユーザーに示したのは、ホテル正面の写真ではなく、スパの写真だったこと。さらに、テキスト分析を用いて、ゴルフコースに関する好意的なレビューを集めることができたことだ。それによって、提案はより販売につながった。

そして、もちろん、チャットを使えば、予算額や旅行時期に関する質問ごとに顧客を仕分けすることが可能になり、私が50年前に旅行会社の第一線で働いていた時と同じような精度で、その回答にも磨きをかけることができる。

現在の典型的な旅行検索では、ユーザーはまず都市と日付を選択する必要がある (最適な都市が分からない場合もあるが)。その結果を受け取った時、運が良ければ、スパのフィルターが出てくるだろう。ユーザーは、それをクリックして、リンクや画像から、そのスパが好みの体験を提供してる施設なのか、マッサージテーブルだけの施設なのかを判断する必要がある。そして、ゴルフコースを選ぶ際には、無限とも言えるレビューを読まなければならない。

しかし、ウェイブレイザーでAIを実装したことで、自然言語によるユーザーへの提案がコンバーションを大幅に改善。ユーザーからのフィードバックも好評だった。

今あるUIの破壊がカギ

ユーザーが航空会社のサイトで、マイルを使って行けるビーチを探しているとする。

航空会社は、「3月にエコノミークラスでマイルを使ってビーチでバケーション」というリクエストに対して、AIを使えば、利用可能なフライトを提供することができるだろう 。それだけでなく、最適なホテルを提案できれば、無料フライトでさえ、収益をあげることも可能だ。

当時は、AIインターフェイスの構築は非常に困難だった。まるで石器を使って作業していようなものだった。しかし、ChatGPTは違う。GPTのPTは「pre-trained」、つまり「事前に学習している」という意味だ。学習する必要は全くないという意味ではないが、仕事をとても楽にしてくれる。新しいGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット) チップとクラウドサポートを追加すれば、全く新しい世界が現れる。

ウェイブレイザーは、クライアント企業がUIを変更せず、ユーザー獲得に疑問を抱いたため、会社として失敗した。多くのホテルはウェブデザインを外部委託し、デザイナーは昔のやり方に固執していたのだ。

また、ウェイブレイザーの失敗は、その技術をクライアントのIT部門に売り込もうとしたところにもある。IT部門では他にもやるべきことが多すぎた。コンバージョンの成果を、もっとCEOやCFOに直接説明するべきだったと思う。

現在、エクスペディアとカヤックは、ChatGPTのブラグインを発表したところだ。1億人のユーザーが利用できるようになる。私は、導入に向けた障害はすぐにでも取り除くべきだと考えている。

主要なOTAはすでにGPTインターフェイスを立ち上げ、ユーザーの意向に合わせランディングページを作成しようとしている。こうした実装が進み、成熟していくと、ユーザーによるGPTの利用はますます増えるだろう。

一方で、AIは「学習」システムであることを忘れてはならない。AIは、人間との相互関係を通じてますます成長していく。AIベースのインターフェイスをすでに持っている会社とそうでない会社とでは、博士号取得者と幼稚園児くらいの差がある。

ChatGPTは、既存の旅行ユーザーインターフェイスを破壊していくだろう。私は、1996年に私が構築したインターフェイスの破壊を望んでいるのだ!

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:CHATGPT MEANS RADICALLY IMPROVED TRAVEL SALES CONVERSION

著者:Terry Jones氏

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