JTB、社員の添乗業務で働き方改革、実労働時間管理へ移行、その目的から修学旅行中の工夫まで聞いてきた

全国各地で修学旅行生たちによるにぎわいが復活している。そんな修学旅行の円滑かつ安全な旅程管理に不可欠なのが添乗員だ。ただ、その実務は高度な専門性が求められるとともに、たとえば早朝の朝食会場のスタンバイから生徒消灯後の深夜に及ぶ教員との打ち合わせまで、丸一日がかりになることが大半。憧れの職業とされてきた一方で、過酷な業務の正常化を求める声も少なくなかった。

そんな業界の慣習に、業界最大手のJTBが正面からメスを入れた。2022年4月から社員の添乗日における実労働時間管理についてフレックスタイム制を導入。さらに10月からは、みなし労働制も廃止し、通常勤務日と同様に実労働時間で管理する体制に改めた。

JTB常務執行役員人事担当(CHRO)働き方改革担当の渡辺健治氏は、制度改正の目的について、「社員の労働時間を意識し、安全衛生管理を強化することは、生産性向上だけでなく、最終的に旅行者の満足度を高めるうえでも重要だと判断した」と語る。JTBが先ごろおこなった記者会見を通じ、添乗員の労働管理に関わる制度改訂の目的から現場での添乗中の労働時間を減らすための工夫、社員の意識変化までを聞いてきた。

フレックス導入、みなし労働時間制も廃止

労働時間の算定が困難な場合に一定時間働いたとみなす「みなし労働制」。旅行業界のなかでも、議論が繰り返されてきたのが旅行者に同行する添乗員の働き方だ。添乗は、社員が行う場合と、派遣会社に所属する添乗専業スタッフが行う2種類のケースがある。2014年、某社の派遣添乗員が未払い残業などの支払いを求めた訴訟で、最高裁がみなし労働を認めなかった判例は、旅行業界にとって大きな転機となった。

一方で、社員添乗については業界でもなかなか俎上に上がらなかったが、JTBは2019年4月から順次施行された「働き方改革関連法」を契機に、社員による添乗員業務の時間管理に移行に向けて検討を開始した。まず、2022年4月からフレックスタイム制を導入。自分でタイムマネジメントが可能で、労働時間に関するルールを遵守できると認められた社員を対象に、コアタイムを設けない制度だ。また、変形労働時間制における1日の所定労働時間の幅を従来の「4~10時間」から「3~12時間」へ拡充。オリエンテーションや修学旅行の実施は春・秋に集中する。繁閑に応じて労働時間の調整をより柔軟にすることで、労務環境の改善を図るねらいだった。

さらに、2022年10月からは、添乗日のみなし労働時間制を廃止。日々の営業や内勤といった通常勤務日と同様に、実労働時間で管理する体制へと大きく舵を切った。同じく出張日についてもみなし労働時間制を廃止し、すべての労働日で実労働時間管理へと移行した。

実際、どう変わったのか。JTBの1日あたりの所定労働時間は7時間30分だが、2022年10月~2023年2月の5カ月間、延べ添乗日数2万4000日の社員添乗員の平均労働時間は約13時間だった。たとえば、修学旅行ピーク期で月3~5本、添乗に行く時期は所定労働時間を10時間、閑散期は5時間とそれぞれ社員、営業所がマネジメントすることで、それを超えた労働時間を残業代として充てるようにした。渡辺氏は「当然コストプッシュになるが、数年かけて試算したうえで、それでも対応すべきと考えて改訂に踏み切った」と語る。

社員の労務意識管理が変化

もっとも、実労働時間管理への移行だけでは、繁忙期の過酷な添乗業務の状況は大きく改善されない。JTBは制度改正とともに、現場と課題を共有しながら添乗中の労働時間を減らすための取り組みにも着手した。

これまでの修学旅行の添乗は、担当営業マンが朝食前の部活のアテンドから朝食会場スタンバイ、生徒の班別行動中に翌日の下見、他校の到着アテンド、夕食会場スタンバイ、ツアーデスク設置、生徒消灯後の教員打ち合わせまで、1人で一手に引き受けるケースが多かった。こうした長時間労働を改善するため、朝練アテンドや翌日下見はサブ添乗員が担当するなど業務を明確化。さらに、営業担当の添乗を希望する学校に対しても、チームで対応する理解を求めることで、ピーク期でも月の法定外労働時間を100時間以内に収まるように意識して取り組んでいる。

ただ、これまでの慣習を打ち破るのは容易ではない。JTBが法人営業86個所に実施したアンケートによると、「まだまだ、旅行会社側の事情を理解してもらえる土壌が少ないため、学校側に添乗回数、稼働時間削減へのアクションをおこなうことが難しい」、「他社は従来の対応をしているため、考え方を一気に崩すことができない」という声が上がる一方、「労務管理意識が変わったか?」の問いには86%が「はい」と回答。「生産性向上、費用対効果への意識が向上した」、「自分のスケジュールを見定め、生活上のニーズと仕事を両立させながら、労働時間を柔軟に調節するようになった」と前向きな意見が大半を占めている。

多くの学生たちが年間行事の中で最も楽しみにし、観光教育を含めた探求学習の機会としても注目が高まる修学旅行。渡辺氏は「JTBグループを含むツーリズム産業が持続可能な労務管理を徹底することで、今いる社員はもちろん、観光産業を担う人材を確保して幸せな生活を担保できる体制を整え、より良いサービスを提供していきたい」と力を込める。

添乗日の働き方改革について語る渡辺氏

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