HIS、新たな中期経営計画、旅行と「非旅行」事業を2030年以降に1対1に、海外旅行は今年度にコロナ前の9割に戻す計画

エイチ・アイ・エス(HIS)は、2024年から2026年の中期経営計画をまとめた。旅行事業ではグローバルマーケットを開拓し、新規事業を推進していくとともに、日常生活での生涯顧客との接点を拡大するなどして、2026年度の売上高を2019年度比117%の4300億円、営業利益は同103%の180億円を目指す。また、創業50周年を迎える2030年度以降、旅行と非旅行および旅行関連事業の利益構造を1対1にしていく方針だ。

中期経営計画では6つのアクションプランを掲げた。

まず、グローバルマーケットの拡大。M&Aなどで現地市場に特化したパートナーとの連携を強化し、人だけでなく、物やサービスもグローバルネットワークで流通させていく。また、観光客の分散化や現地雇用機会の創出を目的に、北欧、南米、アフリカなどで新しいデスティネーションの開拓を進めていく。さらに、海外に日本語学校を創設し、日本への人材派遣をビジネス化するほか、日本の食文化の発信などの新規事業を進めていく。

これにより、2026年度には、グローバルマーケットと新規事業を合わせて、日本発の海外旅行事業を上回る全体で60%の営業利益の創出を目指す。

2つ目として、日常生活での顧客接点を増やし、グループ内でのシナジー効果を最大化していく。具体的には、HIS発行のクレジットカード「スカイウォーカーカード」を進化させる戦略を検討していくほか、決済プラットフォームを構築することで、カード所有者を現在の10万人から60万人に増やす目標を掲げた。

また、オンライン接客(ビデオチャット)での販売やタレントマッチングサービスでは、顧客満足度が高く、販売単価も高い傾向にあることから、この分野も拡大していく。

3つ目のアクションプランは、デジタルを通じた業務効率化とコスト構造改革。さまざまなデータを連携させるプラットフォームを構築し、データの一元利用を可能にしていくほか、顧客データの統合とCRMの活用で、タビマエからタビアトまでの顧客体験を向上。2026年度以降は、旅行領域以外にも広げていく。

4つ目として、非旅行事業の拡大する。コロナ禍で展開してきた新たな事業は今後も継続。日常生活でのサービスやホテル事業の収益最大化を図ることで、2030年度以降には旅行と旅行関連および非旅行の利益構造を1対1にし、外部環境の変化に対する耐性を高めていく。

5つ目が持続可能な成長に向けた投資戦略。2023年度までに純投資として14億円を投じてきたが、今後もM&Aの可能性を探りながら、旅行と旅行領域では既存事業シナジーが出る補完事業への投資を進めていく。

6つ目として人財戦略を挙げ、経営スピードの加速化、多様な人材の拡大と働き方の推進、社員の働く意欲の向上などを目指していく。

中期経営計画と2023年度決算を説明する矢田社長2023年度決算、4年ぶりに黒字化、今年度に海外旅行90%回復を計画

HISは、合わせて2023年10月期の連結決算を発表した。今年5月に新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に移行して以降、訪日旅行と海外旅行で需要の回復が見られ、国内旅行も観光支援策などで堅調に推移したことから、売上高は前年度比76%増の2518億円、営業利益が13億9700万円、経常利益が14億4600万円となり、4年ぶりに黒字化を達成した。当期純損益は、グアムリーフホテルの固定資産、メリットトラベルののれんなどで、28億9500万円の減損損失を計上したため、26億1800万円の赤字となった(前年度は95億4700万円の赤字)。

同社の矢田素史社長は、決算発表会見で黒字の要因として、海外旅行事業で、夏の予約の取り込みが好調だったこと、海外の旅行事業が欧米を中心とした子会社で早期回復したこと、ホテル事業が好調であったこと、販管費を効率的に配分できたことを挙げた。

そのうえで、主力の海外旅行について「収益はコロナ前の2019年対比5割程度に回復。第4四半期では7割近くに達し、これは主要旅行事業者の平均を13ポイント上回る数字となった」と説明。海外旅行者数の回復はまだ遅いとの認識を示しつつ、「今後は、他社との差別化を進め、シェア獲得に資源を使っていく」と話し、今年度にコロナ前90%に戻していく計画を立てていることを明らかにした。

国内旅行については、ほぼ100%回復。オンライン販売を強化してきた結果、その比率は8.7%から52%へ大幅に拡大したという。

訪日旅行については、2024年下期頃から中国市場が戻ってくると予想。コロナ前は取り扱いの7割が中国市場だったことから、来年の回復に期待を寄せた。

2024年10月期については、物価上昇や円安基調、労働力不足や地政学的リスクなど不透明感はあるものの、旅行需要の回復は底堅いと想定。売上高は前年度比39%増の3500億円、営業利益は同544%増の90億円、経常利益は同398%増の72億円、当期純利益は52億円を予想している。

このほか、取締役を退く澤田秀雄最高顧問は「海外旅行は今後も伸びていく」と発言。これからののHISについては「若い人に託す。基本的な会社の精神は変えず、失敗を恐れずに新しいことにチャレンジして欲しい。そうすれば、新しいことが生まれてくる」とエールを送った。

若い人にエールを送る澤田最高顧問

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