海外旅行の本格回復に期待がかかるなか、ANA Xが海外ツアー商品のオンライン販売を強化している。海外ダイナミックパッケージのリニューアルに向けて、海外ツアーの新システムに日鉄ソリューションズ(NSSOL)社が提供する旅行会社向けDX支援ソリューション「TRIPHOO」を採用。2023年8月にリリースし、対象方面を世界32都市へと大幅に拡充すると同時に、海外旅行の販売業務で大幅な省力化も実現した。
なぜANA Xは今、新システムを導入し、販売体制の刷新に踏み切ったのか? その背景と販売強化の要となる「TRIPHOO」を選んだ決め手と効果を、担当者に聞いた。
グローバルな仕入れの変化に危機感
ANAグループのイノベーションカンパニーとして新たな価値を追求し、旅行商品の販売を担うANA X。そんな同社が海外ツアー商品の販売を大幅に改革した背景について、ANA X 旅行事業推進部事業企画チーム・マネジャーの箙(えびら)大輔氏は、消費者ニーズ、仕入れ環境の2つの変化をあげる。
消費者が海外旅行に慣れ、現地の情報入手がしやすくなったことで、「パンフレット販売を前提とした、価格・旅程が固定された観光組み込み型のパッケージツアー商品の利用が少なくなった一方で、価格弾性が強く、旅程を自由に組みあわせることができるウェブ商品へのニーズが高まっていった。現地滞在中の楽しみ方も多様化し、航空券や宿泊先にとどまらず、タビナカのアクティビティを自ら手配する人も増えている」(箙氏)。
同時に、仕入れにおいては、航空券は従来の旅行会社向け航空運賃(IIT運賃)に加え、公示のプロモーション運賃であるPEX運賃が拡大。ホテルも欧米方面を中心に、料金と在庫数とも固定からダイナミック(変動型)へ移行しつつあり、サプライヤー側から「変動型に対応できなければ(素材を)提供できない」というメッセージを受け取ることもあった。
環境変化を決定的に感じたのはコロナ禍前、ANAが2020年度の国際線事業計画を策定した頃だ。欧米方面の就航地が広がるなか、ANAグループの旅行会社として商品造成の準備をするなかで、変動型の仕入れに対応できる仕組みを構築する必要性を痛感した。
「仕入れのやり方自体が変わったが、当社の既存システムでは対応しきれず、限界を感じてきていた。変化に追いつかなければ、お客様が求める商品を提供することができなくなる」(箙氏)。そんな危機感を抱きながら海外旅行システムを検討していく中で、白羽の矢を当てたのが、日鉄ソリューションズが提供する「TRIPHOO」だった。
仕入れ、造成、販売、精算を一元管理
TRIPHOOは、旅行会社向けDX支援ソリューション。旅行会社のツアー販売に必要な仕入れから造成、販売までの一連の業務を、オールインワンで管理・実行を可能にする。変動型の仕入れや、それに伴う商品造成とダイナミックプライシングでの販売はもちろん、デジタル化による業務効率化や収益性の向上を支援する、旅行会社の課題に応えるソリューションだ。
仕入れでは、主要GDSやOTAとのAPI連携機能と自社在庫の登録機能を備え、タイムリーな在庫・料金の自動連携に対応。ツアー造成機能では、登録した基本のツアーに応じて、航空とホテルを組みあわせた派生型のツアーを自動生成するほか、仕入れ価格や集客状況に応じた変動価格に、リアルタイムで更新する。また、販売機能では、航空券やホテルの単品販売からダイナミックパッケージ、観光がつかないフリープラン、観光・食事つきパッケージツアーの販売にも対応。管理機能では、仕入れや手配状況の確認、精算の管理に対応する。
こうした基本サービスに加え、導入する旅行会社の事業課題や環境に応じたカスタマイズ、利用している基幹システムなどとの連携、セキュリティポリシーに沿ったインフラ構築などにも対応したシステム導入をおこなう。
ANA Xが求める要件を満たすTRIPHOOだが、最終的な採用の決め手は何か。
一つは、30社以上が導入している安心感。「すでに利用実績が多く、稼働後に障害が起きる心配が少ない。安定稼働が見込めることは大きな要素」と、同社のシステム関連を担当する R&D推進部旅行システムチーム・マネジャーの田口修氏は話す。
納期の速さも重要なポイントだ。システム開発では「QCD」=Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の3要素が重要だが、今回は特に納期にこだわった。ANA Xの場合、2022年9月の開発着手から2023年8月の販売開始までに要した期間は、約1年。「TRIPHOOの開発期間は通常、2~3カ月と聞いていたが、当社の場合はANAグループの様々な要件と適合させなければならず、1年弱の開発期間はかなり短いと評価している。コロナ後、なるべく早期の稼働開始を希望しており、2023年中にリリースできたことは大きい」(田口氏)。
また、商品戦略の観点でも、TRIPHOOならではの利点があった。それは消費者が見る販売サイト上での商品表示の仕方だ。一般的なダイナミックパッケージの販売画面では、航空券とホテルの選択肢は安価な順で表示されることが多いが、TRIPHOOでは導入企業が出したい運賃やホテルを優先して表示していくことも可能だ。
「今後、各社が強化し、海外旅行の主戦場となるダイナミックパッケージだからこそ、当社の色を出していきたい。同様に、添乗員付きツアーの販売にも、対応していることもよかった。ANAマイレージクラブ会員の皆様を中心に、ビジネスクラス利用の高額な添乗員付きツアーをオンラインで購入していただける機会もあり、引き続き堅い需要が見込める重要な商品」と箙氏。システム担当の田口氏によると、今回検討した中でダイナミックパッケージと観光・食事付きパッケージツアーという対極的な商品に対応していたのは、TRIPHOOだけだったという。
今の海外旅行ニーズへの対応に手ごたえ、生産性向上にも期待
TRIPHOOの稼働開始から、約半年が経った。ANA Xでは、航空仕入れはGDSのインフィニ、ホテル仕入れはOTAのアゴダなどのシステムと接続し、選択肢を大幅に拡大。2都市を組みあわせた旅程でのダイナミックパッケージの受付も可能になった。箙氏は、海外旅行需要は本回復に至っていないため、単純比較はできないとしながらも「以前は、ほとんど取り扱っていなかったPEX運賃の売上が全体の4割を超えるまでに拡大しており、ニーズに沿った海外ツアー商品の展開ができているといえるのではないか」と手ごたえを感じている。
もうひとつ、システム導入効果として大きかったのが業務の効率化だ。従来のシステムでは、デジタルで支給される航空タリフの情報を、手作業で入力する必要があり、大きな負荷がかかっていた。しかし、TRIPHOOではGDSから目的地までのルートとその運賃情報を自動で取得し、予約クラスと連動した販売価格を自動生成するため、ホテルと組みあわせた旅行代金を簡単に表示できる。この航空部分の業務だけで商品造成にかかる総時間の半分を要していたが、この業務が以前と比べて4割程度削減できたと試算しているという。
TRIPHOOの導入にあたって、同社では運用費用を安く抑えることも重視した。TRIPHOOのシステムにスタッフの業務をあわせていくという考えで、準備を進めた。稼働に向け、毎朝30分の全体ミーティングを実施し、開発担当者、システム担当者、仕入れ担当者、造成担当者などさまざまな立場の関係者がフラットに話しあえる場を設定。問題点をその場で確認できるようにした。すると「これまで、各部門内にあった課題などを他部門にも共有する機会となり、全体的な業務改善につながるという思いがけない効果にもつながった」(田口氏)。
さらに、想定以上の効果を感じているのが、ツアーのオペレーションだ。ツアー情報の一部を、現地法人や受け入れを担うランドオペレーターがシステム上で閲覧できるようにしたため、予定変更やキャンセルなどが発生してもタイムラグが生じることなく、スムーズな対応が可能になった。システム上で情報共有することで、伝達漏れや内容不備などのミスが発生するリスクも除去でき、効率が上がったという。
変動型価格の仕入れに対応し、海外旅行のオンライン販売の自由度を高め、導入会社の特色も打ち出すことができる、TRIPHOO。今後、同社ではスターアライアンスをはじめ、ANAがコードシェアする航空便を利用した就航都市以遠の海外ツアー商品の造成や、価値ある旅を求める消費者にあったダイナミックパッケージの販売などにも力を入れる方針だ。箙氏は「海外旅行の潜在需要は大きいが、ビジネスモデルは大きく変わってきている。DXを推進し、外部変化に対応しつつ、自社の収益構造も変革していきたい」と先を見据えている。
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記事:トラベルボイス企画部