快適なバスに乗り、手軽に効率よく観光地を巡ることができるバスツアーは、旅行会社が提供する国内旅行の人気商品だ。まさに旅行会社ならではの企画力と仕入れ力で実現できる旅行形態でもある。そんなバスツアーを長年数多く催行してきたクラブツーリズムが、安全管理強化の一環として、ナビタイムジャパンの「行程表クラウド」を導入した。なぜ、同ツールの導入がツアー催行の安全管理につながると判断したのか?
「行程表クラウド」とは、旅行会社のパッケージツアーや団体旅行の行程表作成を中心に旅行業務をサポートするサービス。クラブツーリズムが導入を望んだ理由と期待する効果を聞いてきた。
大型バスに対応した行程表作成機能とナビを提供
ナビタイムジャパンの「行程表クラウド」は、旅行会社や貸切バス会社向けに、大型バスが通行可能なルートでのツアー行程表を、たった3つのステップで誰もが簡単に作成できるようにしたクラウドサービス。行程表作成や見積りにかかる業務効率化はもちろんのこと、「あくまでも、貸切バスの安全運行を実現するための、正確なルート作成を支援するサービス」と位置づけ、サービス開発・提供をしている。
特徴は、バスツアーで使われる大型バスの運行に対応したルート作成とナビゲーションを提供していること。大型バスのルート選定には、道路幅や高さ制限、右折制限といった法令上の規制内容はもちろん、曲がり角などの道幅や形状が通行可能なものであるかの確認や、ツアー中の目的地や立ち寄り箇所における駐車のキャパシティ、観光施設への横づけの可否などの情報も必要になる。「行程表クラウド」では、こうした大型バスの運行に必要な要件・情報を考慮した最適なルートを自動的に選定する。
一方、一般的な地図の経路検索サービスやカーナビの情報は普通自動車を前提に作られている。それらのツールでは、大型車が通行できない道路を含んだルートが表示される場合もあり、そのまま活用すると実際の所要時間よりも短い行程が完成してしまう。そうなると、運転士が走行中に急な迂回をする必要が生じ、到着時間も遅れる。運転士の労務管理や運賃の下限規制などに正しく対応するには、最適なルート選定に基づいた正確な移動距離や所要時間の把握が不可欠で、これはツアーの安全性の担保に関わる。
ナビタイムジャパン メディア事業部兼トラベル事業部企画推進チームの酒井美帆氏は「サービスの開発を進めるなかで、行程作成が安全に深く関わる重要なことに気づいた。そこからはバスツアーの安全を支援する『行程表クラウド』の役割を、より意識するようになった」と振り返る。
安全管理体制を強化する強い思い
「行程表クラウド」を導入したクラブツーリズムには、バスツアーの安全管理体制の強化にかける強い思いがあった。きっかけは、2022年に起きた同社バスツアーの事故。現場対応をしたクラブツーリズム執行役員旅行営業本部国内旅行部長兼国内仕入戦略部長の池谷中氏は「事故の原因や責任の所在に関わらず、楽しいはずの旅行でお客様に二度とこういう思いをさせてはならない」との決意をしたと話す。
「運行管理の直接的責任はバス会社にあっても、行程を決定するのは旅行会社。ドライバーが安心して運行できるルート選択があってこそ、魅力的なツアーを提供できる。そのためにも、旅行会社として自信が持てる適正な行程案を持ちたい」と感じたという。そこで、池谷氏がより安全な行程作成に向けた体制づくりの1つの手として選んだのが、ナビタイムジャパンの「行程表クラウド」だった。
2022年11月には、親会社のKNT-CT ホールディングス内に、事故再発防止に向けたグループ全体の安全管理を統括する独立部門として「安全管理部」が新設。グループ共通メッセージである「安全の誓い」を実行に移すため、旅行実施に係る社内の安全基準をより厳しく見直したほか、事故が発生した10月13日を「旅行安全の日」と定め、毎月13日に「旅行安全ニュース」を配信するなど、社員の安全意識の向上と啓発を図る取り組みを続けている。
こうした取り組みを進めるなか、池谷氏は旅行会社として大型バスが確実に運行できるルートで時間的にも適正な行程を作成することが、バス会社の安全運行に協力できることと考えた。
そして、KNT-CTホールディングスでも、「行程表クラウド」の導入がクラブツーリズムや近畿日本ツーリストを含めたグループ全体の安全対策の一手になると認識したという。
ナビタイムジャパン×クラブツーリズムが促す進化
クラブツーリズムは2023年10月に「行程表クラウド」を試験導入し、2024年1月からは全支店に広げ、利用を開始した。まだ導入して間もないが、すでに安全管理体制の強化につながる多くの効果を確認している。その一例が、渋滞への対応とゆとりを持った運行実現の効果だ。
従来も、ゴールデンウィークやお盆などの超混雑期には、道路状況を加味した行程作成はなされていたものの、平日と週末の違いや、大型イベント開催による影響などは反映できていないこともあった。渋滞によって行程が遅延すれば、必要な運転士の人数確保の観点で法令違反にもなりかねない。企画担当者の経験や過去の日報に頼るほかに、有効な対策は見いだせていなかった。
募集型ツアーを企画するクラブツーリズムのこうした課題感を受けて、ナビタイムジャパンは、1つの行程を作成すれば、同一行程の各出発日に応じた渋滞予測を反映し、各区間の所要時間や帰着時間の差分を一目で把握できる機能を開発。「所要時間比較機能」として「行程表クラウド」に付け加えた。
「課題認識を相談してから1カ月程度で新機能が開発された。機能の使い勝手はもちろん、迅速さとその姿勢には驚かされた」(池谷氏)。
「所要時間比較機能」を短期間で開発できた背景には、ナビタイムジャパンの経路検索・ナビゲーションの技術と、個人向けだけで約30ものサービスを運営する中で蓄積された、様々な移動手段に対応した道路状況に関する情報がある。「提示された課題の内容や想定している活用方法が具体的で明確だった。当社は過去のデータを含む渋滞情報やリアルタイムの道路規制情報などを日々更新・蓄積しているので、開発が迅速に進んだ」(酒井氏)という。
クラブツーリズム側からは「行程表クラウド」に関する意見や要望がこれまでに83件寄せられ、ナビタイムジャパン側は1~2カ月間でほぼすべての案件に対応。そのスピード感と機能開発の柔軟性は特筆すべきものだ。
さらに、近畿日本ツーリストからも、修学旅行をはじめとする受注型の大型団体旅行に対応できる機能改修の要望を受け、「複数コース管理出力機能」を追加した。
このほかナビタイムジャパンは法令遵守のための機能強化にも注力。営業区域外のバス会社の車庫を登録した際や、見積り時と行程(出発地)が変わってしまった際にはアラートを表示する「営業区域外チェック機能」を搭載しているほか、「下限割れ運賃チェック機能」も提供する予定だ。
安全管理情報の業界共有化や動態管理への期待も
池谷氏は安全で魅力あるツアーづくりをするために、行程を作成する企画担当者はもちろん、仕入れや後方支援部門を含む全社員に「行程表クラウド」を触ってもらい、理解を深めていきたい考えだ。「旅行会社の社員は、お客様に楽しい旅行をして喜んでもらいたいと思い入社してきている。その前提に安全な行程があることをもう一度理解し、そうしたツアーがどのように作られているのか、『行程表クラウド』を通じて実感してほしい」と力を込める。
そして池谷氏は、「旅行会社とバス会社の双方で『行程表クラウド』の同じ画面で、安全運行や行程管理に関する情報を共有できれば、旅行会社が企画から実施までのフロー全体を通じて状況を把握し、適切なサポートが可能になる」と考える。KNT-CTホールディングスとしても、将来的にはバス会社にも「行程表クラウド」の導入を促したい考えだ。
ナビタイムジャパンも動いた。バス会社が運行管理業務で使用しているバス運行管理システムと連携し、「行程表クラウド」で計算したルートや運賃情報の取り込みを可能にしたのだ。「複数ツールを二重管理する負担を減らし、使い慣れた既存システムを活用しながら『行程表クラウド』を利用できるようにした」(酒井氏)。バス会社から「行程表クラウド」で作成した行程表をバス運行管理システムで利用したいという声も増えており、これに対応した。まずは「楽々道中」から連携を開始しており、順次対象のシステムを広げたい考えだ。
池谷氏は「最終的にはドライバーと『行程表クラウド』の情報を共有し、安全管理体制のさらなる強化につなげたいという期待もある」と話す。注目するのは、ナビタイムジャパンが日本初の観光バス専用カーナビアプリとして2019年に提供開始した「バスカーナビ」だ。「行程表クラウド」で作成した運行ルートをアプリ上に再現し、当日の運行をサポートする。池谷氏は「『バスカーナビ』を活用すれば運行中の動態管理につなげられるのでは。事故やトラブルの発生をリアルタイムで把握できれば安全管理の向上にも役立つ」との可能性にも期待する。
そしてKNT-CTホールディングスでは「行程表クラウド」を導入した旅行会社として、安全な旅行サービスを提供する管理体制の強化に向け、業界を挙げた連携を望んでいるという。「行程表クラウド」では、過去の大型バスの事故発生データを基に、類似リスクを算出して地図上で注意喚起する機能「交通事故AI予測マップ」を2023年1月に提供している。「ここに各旅行会社のデータも共有できる仕組みができれば、より安全なバスツアーを旅行業界・バス業界全体として実現できると考える。会社の枠を超えて連携・協力して強化していく関係性を作り上げていきたい」(池谷氏)と展望する。
ナビタイムジャパンも同じ方向を向く。「旅行会社は軽い接触事故の情報や、事故には至らなかったヒヤリハットの事例も蓄積されている。現在は公開されている事故場所のデータを基に注意喚起しているが、各旅行会社が日報等で取りまとめている情報を「行程表クラウド」上で管理し、適切にシェアできれば、安全性の向上により貢献できるはず」(酒井氏)。
安全向上に全力を注ぐクラブツーリズムと、「行程表クラウド」の機能強化を進めるナビタイムジャパンのコラボレーションは、バスツアー革新の原動力となる可能性を秘めている。
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対応サービス:行程表クラウド
問い合わせ先:ナビタイムジャパン koteihyo-business@navitime.co.jp
記事:トラベルボイス企画部