東京の観光事業者に対し、経営相談や各種支援メニューの紹介などをおこなう「東京観光産業ワンストップ支援センター」。コロナ禍からの回復やインバウンド急増、人手不足といった急速な環境変化に対応する事業者を支援するため、2022年夏に東京観光財団内に開設された相談窓口だ。
「さまざまな支援メニューがありすぎてわかりづらい、情報にたどりつきにくい」という構造的な課題を打破しようと、各種補助金をはじめとした支援メニューを紹介する説明会や個別相談会を年20回以上開催。多摩地域や島しょ地域に出向いたり、宿泊・飲食など業種ごとのプログラムを組んだりと、事業者に寄り添いながら支援につなげている。中でも力を入れているのが、日頃から各事業者に伴走している金融機関との連携だ。
「事業者にとって一番の相談相手である金融機関との連携は、支援を必要としているものの十分に情報が行き届いていない事業者にアプローチするきっかけとなります」(東京観光産業ワンストップ支援センター 松岡孝治氏)。金融機関との連携で、実際に支援につながった事例を紹介する。
丁寧なヒアリングと伴走で、セレクトショップ開店へ結実
2024年1月28日、JR拝島駅前に多摩地域の特産品を集めたセレクトショップ「たまてばこ」がオープンした。130平米ほどの店には、食品や酒など約500種の商品が並ぶ。店を手掛けたのは、福生市の老舗酒造会社・石川酒造だ。
同社を長年伴走支援している多摩信用金庫を通じて、東京観光産業ワンストップ支援センターへ問い合わせがあったのは2023年1月。「セレクトショップを開業したいが、コンセプトや品揃えなどを決めかねている。アドバイザーを派遣してもらえないか」という内容だった。「東京観光産業アドバイザー派遣」はセンターが手掛ける事業の一つで、観光の専門家を1事業者につき最大5回まで無料で派遣する制度だ。効果を最大化するため、派遣前にセンターが相談内容をヒアリングし、課題を明確にしたうえで専門家のマッチングをおこなう。連絡を受けた松岡氏は早速、同金庫の担当者と共に石川酒造へ出向いた。
「観光客の目的地にもなり、地元の人にも愛される、道の駅のような場所にしたいと思っています。また、地元・福生市周辺の特産品以外に、どのような商品が必要だろうかと迷っていて…」(石川酒造営業部長 小池貴宏氏)。「では土産物以外に、普段使いできる商品の品揃えも重要ですね。多摩地域の特産品だと、たとえば青梅のタオルや、東京狭山茶を取り扱ってみるのはどうでしょう?」(松岡氏)
センター開設以前から多摩地域の観光振興に携わってきた松岡氏のアドバイスに、石川酒造の小池氏は熱心にメモを取りながら耳を傾けた。その後、2023年7月から、センターが3回にわたり専門家を派遣。小池氏は、専門家から独自商品を開発する際の法律上の注意点や、他地域の事例といった助言を受けながら、セレクトショップのコンセプトを固めていった。多摩信用金庫も独自のネットワークを活かし、特産品を扱う事業者などへ呼び掛けて取扱商品の拡充をサポートした。
小池氏は「経験豊富なアドバイザーからは時流に即した事業展開について、センターからは支援メニューの具体的な助言をもらい、身近な存在の多摩信用金庫は様々な事業者を紹介し、引き合わせてくれた。3者ともに前向きに寄り添ってくれて心強かった。またセンターはアドバイザー派遣が終わった後も、困ったことはないかと折に触れて連絡をくれる。開店後も広報や運営などの課題が出てくると思うので、相談しやすい状況を作ってもらえてありがたい」と話す。
観光は“地域活性の起爆剤” 地域資源の掘り起こしへセミナーも共同開催
石川酒造とセンターとを結びつけ、支援につなげた多摩信用金庫。センターとの連携を強める背景にあるのは、観光が「地域活性の起爆剤」になり得るという期待感だ。
コロナ禍を契機に多摩地域でもマイクロツーリズムに注目が集まり、地元の魅力を再発掘する動きが盛んになっている。同金庫価値創造事業部地域支援グループの鈴木琢真氏は、観光による経済効果や地域活性化に期待を寄せる一方、観光は商品開発やインバウンド対応など、事業者の課題が多岐に渡る点が難しさだと話す。「丁寧なヒアリングで課題をクリアにし、最適なアドバイザーや支援へとつなげてくれるセンターは非常に心強い存在。共に観光振興に取り組むパートナー」と信頼を置く。
センターと同金庫は、観光資源の掘り起こしにも連携して取り組んでいる。
2024年2月20日には、立川市の同金庫本店で観光ビジネスセミナーを共同開催。登壇したブルガリア出身の観光コンテンツプロデューサーであるアレクサンダー・スタンコフ氏は、多摩地域における体験コンテンツ造成について「訪日外国人の中でも、特定ジャンルの趣味嗜好を持つ層や、異文化体験を重視している層をターゲットにすべき」と、満員の会場へ語り掛けた。
その後、センター職員の本間悠子氏らが具体的な支援メニューについて紹介し、積極的な利用を呼び掛けた。個別相談会では、時間ぎりぎりまで相談する事業者の姿が目立った。「支援メニューはその時々の課題に合わせて内容を変えているので、“今の悩み”に対してセンターがお手伝いできることが、きっとある。金融機関と連携し、事業者の悩みを一つ一つ拾って支援していきたい」と本間氏は意気込む。
こうした説明会は金融機関のほか、自治体や観光振興団体でも開催できる。なお、都内旅行者向けにサービスを提供する事業者からの経営相談や補助金などの支援メニューの問い合わせは、電話や公式サイトで受け付ける。
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