じわり広がる観光分野のNFT活用事例、離島の観光客誘致や”新しい”民泊、寺院と書家の芸術イベントまで

2024年1月、日本NFTツーリズム協会が「ツーリズム×NFTフォ-ラム2024冬季」を開催した。ツーリズム業界におけるNFT(非代替性トークン)の活用はまだ限られているが、旅行者のリピーター化や関係人口化、誘客・周遊促進、観光資源・文化のデジタル保存などにおけるNFTの活用事例が幅広く紹介された。

離島ビール工房とNFTコミュニティによる地域活性化

鹿児島県薩摩川内市の離島、甑島(こしきしま)ではデジタル証明書を活用してクラフトビール工房建設への協力を募り、観光客の誘致と雇用拡大を実現しようというプロジェクトが進んでいる。ビール製造以前のビール工房の建設から、ビール製造開始後の顧客・取り引き先の開拓などに至るまで、NFTをフル活用するのが特徴だ。

プロジェクトを立ち上げたラフティングキューブ代表の松田裕之氏は「工房を作る前から仲間を集め、そのプロセス込みでみんなが楽しみ、クラフトビールができあがったらそれを飲んでまた楽しむ、そんな支援の輪を広げたい。そのために『離島のオーナーになろう』と呼びかけている」と説明した。

投影資料より具体的には、ビール工房の建材集めから開始。建材を屋根、窓、柱、ドア、基礎など16種類に分けて、それぞれの建材の所有証明をNFT化。NFT購入者はその瞬間から応援者としてプロジェクトの一員となる。工房建設のためのNFT発売から3カ月足らずの1月時点で、すでに基礎などの建材オーナーは221名におよび、離島ビールのコミュニティができている。これらオーナーの中にはデザインやマーケティング、建築などの専門家もいることから、「今後のビール工房の完成に向けた取り組みや、ビール製造開始後の宣伝や販売促進等にコミュニティメンバーが仕事としてかかわり、コミュニティ内でお金が回りプロジェクトの経済圏を構成することも期待できる」(松田氏)。ビール工房の完成は4月を目指している。

松田氏は、「クラフトビールの工房作りの段階からかかわった仲間たちは、当事者意識を持って強固な応援コミュニティを構成してくれることが期待でき、工房の完成とビール発売以降も甑島を訪れ、観光誘致の原動力にもなってくれるはず。日本には離島を含む1万4000以上の島が存在し、それぞれが魅力を持っている。甑島の事例が個性的なツーリズムの可能性を切り拓くきかっけとなれるように取り組んでいきたい」と抱負を語った。

世界中の人々と見届ける、世界遺産の寺院でのイベント

NFTプロジェクトの企画から運営管理までを手掛けるPBADAOの代表取締役、堀井紳吾氏が紹介したのは、世界遺産の寺院と書家のコラボによる文化イベントとして、世界へ発信した「世界遺産金峯山寺と書家・紫舟(ししゅう)による祈り」のプロジェクトだ。

堀井氏によれば「宗教行為とブロックチェーンというテクノロジーを組み合わせ、経済活動と世界同時配信を実現した世界初の試み」。イベントの中心になったのは、書家の紫舟氏が煩悩を描いた長さ15メートルの大作「地獄絵図」だ。同作品はその焼失をもって完成するというコンセプトで描かれたもので、金峯山寺における護摩祈祷による焼失と作品完成を目指した。

今回のイベントは、その完成の瞬間を世界中の人々と見届けるためのもので、収益の中から戦禍に苦しむウクライナや日本の文化財保護へ寄付する目的も掲げられた。これらの目的を果たすためブロックチェーン技術を採用。金峯山寺が発行したトークンにひもづくデジタルデータと所有者を明確にすることで「リアルタイムにデジタルコンテンツを通じた体験を提供でき、世界中へのライブ配信を通したイベント体験が可能になった」(堀井氏)。

投影資料よりイベントには約2000名がオンライン参加し、イベント開催地の金峯山寺にも約300名が足を運んだ。その結果、国内対象のクラウドファンディングで約400万円、当日の現地での売り上げが6万円、グローバル対象のデジタル地獄絵図NFTの販売で約260万円、デジタル護摩木NFTで約60万円、合計約700万円を売り上げた。

イベント成功の理由について堀井氏は「ブロックチェーン、ウォレット、NFTといった言葉が並ぶと世界遺産の寺や有名な書家のプロジェクトであっても参加者が広がらず自己満足のプロジェクトになってしまう懸念があった。そこで初めて参加する人にとっても分かりやすいアイデアを凝らした」と説明。たとえば参加者にはNFT購入に必要なブロックチェーンウォレットを、ICチップを内蔵した実際の木札の形で提供し現物がある安心感を演出。木札をかざすだけでデジタルコンテンツを確認できることでイベント体験を認知できる仕掛けとしたことなどを成功要因として挙げた。

空き家資源開発 × DAO的民泊運営

ブロックチェーン技術を活用し金融以外の分野でビジネスを開拓するRECICAは、事業の一つとして、NFTによってDAO(分散型自律組織)的民泊運営および不動産利用、デジタル不動産の融合を実現するサービス「ANGO」を展開している。RECICAのCEO、クリス・ダイ氏は、現在、日本で社会問題となっている全国850万戸もの空き家の有効活用に、「トークンを用いた新しい民泊運営モデルを提案したい」としている。

ANGOのサービスは、ANGOトークンを持つ人々がコミュニティを形成し、その構成員が物件開発や物件の運営に関わりつつ、利用者としても宿泊利用できる仕組みだ。物件開発や運営を手伝えば対価としてトークンを取得でき、宿泊利用にはトークンを使う。つまり「コミュニティのメンバーは物件運営に関わる一員であり、同時のその物件を観光施設として楽しむ利用者でもある」(ダイ氏)わけだ。

投影資料より営業日が年間約180日以内という規制がある民泊は、経営が難しい。そこでANGOでは、物件の民泊利用を180日以内に抑えつつ、残りの約180日を物件運営者でもあるANGOコミュニティの構成員が利用することで、利用率を最大化できるように工夫した。

また運営者でもあり利用者でもある構成員が、ANGOの施設の情報を発信し市場開拓に貢献。さらに地元在住の構成員は現地での観光の案内役として仕事を得るなど地域での雇用増にも貢献できるメリットがある。ダイ氏は「現在、那須や九十九里、熱海などのリゾートエリアや京都や渋谷などの都市部に計9つの物件を稼働中で、今年中にANGO物件を20軒まで拡大する計画だ」としている。

NFTによって伝統工芸の新たな形を創造

伝統工芸NFT事業「Bank of Craft」は、伝統工芸が抱える課題を、新たなテクノロジーとアイデアの力で解決し、新たな収益性の確保や地域経済や観光の活性化、地域の観光財源作りにつなげるためのプロジェクト。推進するのはJTBとJCBのジョイントベンチャーであるJ&J事業創造だ。

同社で開発本部長を務める荒川淳一氏は、「Bank of Craft」の背景について「伝統工芸には日本人の美意識が反映されているが、経済やライフスタイルの変化によって伝統工芸と生活者との距離が広がり、伝統文化によって引き継がれてきた文化が失われつつある」と指摘。こうした問題を解決するため、「伝統工芸技術とクリエイティブ・アート・デジタルなどと融合して伝統工芸の価値を再構築する」のがプロジェクトクトの目的だとした。

具体的には、伝統工芸の知財やデザインデータをアーカイブするためのプラットフォームを提供し、NFTを活用した知財権管理とブランド認証によるライセンス保護をおこなう。

実際に「Bank of Craft」では知財権管理やブランド認証を始めている。伝統工芸を酒のラベルに活用するのもその一例だ。たとえば沖縄の伝統工芸「琉球びんがた」の工房と泡盛メーカーの瑞泉酒造の組み合わせを「Bank of Craft」が介在して実現。このほか博多織や桐生織の伝統工芸デザインラベルと日本酒メーカーのコラボレーションも実現している。

また伝統工芸のリ・デザイン・コラボレーションにも取り組む。リ・デザインは現代のクリエーターが伝統工芸からインスピレーションを受け、新たなデザインを考案することを意味する。ここでに「Bank of Craft」が介在して、博多織と伊藤園とクリエーターの3者コラボによる自販機デザインや、廃棄ビニール傘の再利用・商品化に際し桐生織にインスパイアされたクリエーターのアイデアを取り入れるなど、具体的な事例が登場している。

投影資料より

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