観光分野でのNFT活用、ふるさと納税から関係人口の拡大まで、国内外の事例とその課題とは?

2022年に発足した一般社団法人日本NFTツーリズム協会は2023年8月、NFTを活用した観光関連プロジェクトの先進事例を中心に、NFTの可能性を伝える第1回「ツーリズム×NFTフォ-ラム」をオンライン開催した。

NFTとは「Non-Fungible Token」の略で、日本語では「非代替性トークン」と呼ばれている。ブロックチェーン技術を利用して唯一性を証明する手段として、特にアートシーンなどで注目されている。今回のフォーラムでは、ツーリズム産業関連のNFT活用モデルについて、先進事例やその課題などを紹介した。

2025年大阪・関西万博がターニングポイント

日本NFTツーリズム協会を設立した岩下拓代表はフォーラム開催にあたり、「2025年開催の大阪・関西万博は全面キャッシュレス決済を導入予定で、NFTを利用した電子チケットを発行することが発表されており、これを機に国内でのNFT利用に弾みがつくと期待される。一方でツーリズム産業が抱える収益率向上、収入源の多様化、外部人材の活用、旅行者の関係人口化、地域の文化財保護と収益化の両立、自主財源の確保などの課題はNFTの活用が解決に役立つとも考えられる。当協会では日本発の『ツーリズム×NFT』がツーリズム産業における各種課題解決の方向性を世界に示せると信じており、この成長分野の市場創出へ向けてエコシステムの構築に取り組んでいきたい」と趣旨を説明。今後も定期的にオンラインフォーラムを開催していくとした。

 日本NFTツーリズム協会の岩下拓代表

北海道・ひらふスキー場「ニセコパウダートークン」

最初に紹介されたのが、リアルな体験価値とNFTを結び付けたCX向上策としてニセコスキー場が取り組んだNFTプロジェクト。ニセコエリアには4つのスキー場があるが、このうちニセコひらふスキー場を運営する東急不動産が、北海道・倶知安町との包括連携協定に基づき取り組んだのがNFTを使った「ニセコパウダートークン」だ。

スキー場の主な収益源であるリフト券は、かつては回数券や1日券の形でスキー場ごとに販売されていたが、現在はエリア共通券の販売が増えるなど市場環境は様変わりしつつある。ところが、スキー場のビジネスモデルは旧態依然のままなのが実態だ。

そこで東急不動産は、「オールシーズン型リゾートへの取り組みとスマートリゾートに向けた取り組みという包括連携協定の内容に沿い、スキー場という昔ながらのビジネスにNFTを絡ませることで新しいキャッシュポイント創出につなげられるのか。それを実証実験で確かめることを検討し、ニセコパウダートークンのプロジェクトを立ち上げた」(東急不動産ウェルネス事業ユニット ホテル・リゾート開発企画本部・白倉弘規氏)。

ニセコパウダートークンは2022年12月24日から2023年2月28日までの67日間使用できるNFTとして、804枚(1日当たり12人限定)をNFTマーケットプレイスの「PLT Place」を通じて単価400PLTで販売。特典として15分の先行入場・滑走とレストラン10%割引の特典を付けた。

仮想通貨を使った販売プロセスに難あり

白倉氏は4つの検証項目に沿って実証実験の結果を報告した。それによると「NFTが新規顧客開拓に寄与するか」については、新規性を生かした認知拡大効果が見られた点を評価。「NFTが新たな収益ポイントとなるか」に関しても、これまで価値が付いていなかった無形商材での収益獲得が実現できた点を評価した。また「NFT活用はオンラインでのユーザー接点増強に寄与するか」についても、ツイッターの再活用とフォロワー獲得などユーザー接点の多様化のポテンシャルが高いとしている。

一方で、「NFTによりダイナミックプライシングが起こるか。既存ユーザーに受け入れられるか」の検証項目については「取引成立件数がごくわずかであり、二次流通購入者である旅行者・スキーヤーにとって販売プロセスに難があることが分かった。まずウォレットを作成し、PLTを各取引所で購入、ウォレットに送金し、といった仮想通貨購入フローで購入までたどり着くのはかなり難しい」(白倉氏)とし、販売プロセスの周知ないしは改善を進める必要性を課題に挙げた。

「NFT×観光」の海外事例

また、フォーラムで「海外4カ国での観光組織による誘客NFT活用事例」として紹介されたのはタイ、スロベニア、中国、ジョージアの4つの事例である。

タイ国政府観光庁(TAT)は、スタンプラリー的な活用により旅行者の周遊需要喚起に取り組んだ。TATは旅行者が専用アプリをダウンロードし、バンコク周辺の5つの観光地に設置したキオスクのQRコードを読み込むと、ランダムにデジタルアートのNFTを入手できるシステムを構築。加えてNFTにはそれぞれ異なる特典を用意したり、NFTを3つ以上集めると航空券やホテル、飲食代の割引を受けられたりする特典も設定した。

スロベニア政府観光局はドバイ万博のスロベニアパビリオンで、スロベニアの観光や文化、遺産等の画像をNFT化して配布し、誘客プロモーションを展開した。配布枚数は1万5000枚。「これによってSNSフォロワーやウェブページ訪問者数が増加する成果があった。しかし告知が十分でなかったことや多くの人々がウォレットを持っていなかったことが理由で配布が難しいなどの課題が見つかった。同観光局ではこの反省を生かし潜在的な旅行者たちと継続的なコミュニケーションを図るため、現在は会員組織を作り独自のマーケットプレイスを設置してNFTを配布している」(岩下代表)。

中国敦煌研究院は、世界遺産「莫高窟」の文化財保護活動の資金集めのためNFTを活用。莫高窟の壁画をNFT化して販売したところ、1万枚を完売する成果を上げた。岩下代表は「1年間で3500万人が閲覧し、購入者の7割を20~30代が占めるなど比較的若い年齢層を中心に大きな反響があった」とNFT効果を指摘している。

ジョージアの事例は岩下代表が「観光に紐づく関係人口を世界中に作るという意味でイチ押しの事例」というもの。駐日ジョージア大使が発案したNFT「SUPRA3.0」がそれである。ジョージアの文化や伝統に親しんでもらうのが「SUPRA3.0」の目的で、このNFTを持っていることでコミュニティの一員になれるいわば会員権のようなもの。「SUPRA3.0」にはジョージアの文化や観光に関連する多くの企業が参画しており、コミュニティのメンバーのためにワインの購入割引やホテル宿泊割引等を含めたさまざまな特別サービスやおもてなしを用意している。「まだ販売枚数は200枚程度で、一層のプロモーションが必要だが旅行者の囲い込みやリピーター化に効果が期待できる」(岩下代表)と見ている。

日本NFTツーリズム協会:発表資料より

ふるさと納税返礼品としてのNFT

フォーラムではふるさと納税とNFTとの相性の良さも報告された。NFTを利用したふるさと納税を手掛ける、NFTスタートアップ「あるやうむ」の広報・コミュニティマネージャーの田中文彬氏は、「『ふるさと納税×NFT』で挑む少し未来の地方創生」のテーマで事例紹介をおこなった。

それによると、北海道余市町は、NFT市場の拡大が寄付額の担保につながることや、保有者への特典付与がシティプロモーションへの効果につながること、現地に行くと絵柄が変わるNFTを利用することで観光誘致や関係人口の創出につなげられることなどを評価してふるさと納税の返礼品としてNFTを提供している。

余市町と同様に返礼品にNFTを使っている先行自治体ではいずれも成果を上げており、「余市町のほか大阪府太子町、京都府長岡市はいずれも数時間以内にすべての返礼品に対して寄付が集まり、それぞれ600万円台の納税が集まった」(田中氏)。あるやうむとCrypto Ninja Partnersのコラボによる返礼品「ふるさとCNP」の場合、3つの自治体とも1種3万円で222種類の作品を出品したところ3分ほどで寄付受付完了となり666万円の寄附金額を集めた。

このほか今治市ではNFTコミュニティLLCAとのコラボにより、今治タオルとNFTが届くという「フィジカルグッズ+NFT証明書」という組み合わせが人気を呼んだ。「LLCA」「愛媛県今治市」「ふるさと納税NFT」の3ワードがツイッターでトレンド入りするなど注目を集め、2023年7月にリリースされると1点3万5000円、222点が当日中にすべての枠が寄付受付完了となった。

最新事例としては「スポーツ×地域振興×ふるさと納税」の取り組みとして「北海道コンサドーレ札幌×北海道余市町コラボ『ご当地アートNFT』」が8月12日にリリースされた。これはふるさと納税の返礼品として送られる「ご当地アートNFT」を持って余市町を訪れると、コンサドーレ札幌「オリジナルカメラフレーム」がもらえる仕掛け。さらに余市駅に設置されているQRコードを読み込むと、コンサドーレ札幌の選手の写真が入ったNFTが手に入る特典もある。

なお、あるやうむではNFTに特化したふるさと納税のポータルサイトを自社開発するなど、ふるさと納税分野に力を入れる一方で、今後は「非ふるさと納税領域でも『観光×NFT』に本格参入していく」(田中氏)としており、文化財のNFT化による新たな土産物の開発にも取り組んでいく方針だ。

日本NFTツーリズム協会:発表資料より

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…