「ChatGPT」の公開によって、対話型のジェネレーティブ(生成)AIが身近になった。宿泊業界ではすでに、従来型のAIをはじめ、デジタルを駆使した様々な業務支援ツールが使われているが、従来のAIと生成AIは何が違うのか。宿泊施設は生成AIを搭載するツールを活用することで、どんな効果が期待できるのか。
2024年1月に開催されたトラベルボイスLIVEでは、宿泊施設向けの予約エンジンや多言語AIチャットボットを提供するトリプラ(tripla)のシニアソリューションコンサルタントである岩田尚史氏が出演。生成AIの解説から活用事例、宿泊施設に集積するデータを自館の経営に役立てるヒントまで説明した。
従来のAIと生成AI
AIには、予測・分析から画像認識、音声認識、自然言語処理、機械制御まで、さまざまな技術がある。宿泊や旅行業界ではこれらの技術を活用し、各種管理業務やレベニューマネジメントなどの後方業務から、クチコミや問い合わせ対応、セルフチェックイン、観光案内、旅行プランニングといった顧客対応まで、さまざまな業務分野でAIが活用されている。
岩田氏は、宿泊施設がAIの導入で得られるメリットに、業務効率の改善や人手不足の解消、人的コストの削減、多言語対応をあげた。さらに「スピード感のある対応ができるようになることで、お客様がサービスを心地よく感じ、満足度の向上につながる。集積されたお客様の情報を分析して、次の有効な打ち手を考えることも可能だ」と話し、単なる業務の置き換え以上の効果が見込めることを強調した。
では、「生成AI」とは何か。岩田氏は「大きな特徴は“創造”」と説明。AIにインプットした情報から、従来のAIは“特定や予測”ができるが、生成AIは「新しいものを作ることができるところが、大きく異なる」と話した。
具体的にどういうことか。岩田氏は、宿泊施設のFAQ(よくある問い合わせ)に対応できるトリプラのAIチャットボットを例に、対応の違いを説明した。同チャットボットでは、生成AIのChatGPTと連携している。
チャットボットで「朝食はどんな形式ですか」と質問された場合、従来のAIは事前にインプットされたFAQの回答文から朝食に関する内容をそのまま表示する。そのため、会場や料金、時間、形式など、朝食に関する一切の回答を表示していた。一方、生成AIは質問の内容に合致するものを回答内容から選べるので、「ビュッフェ形式です」とピンポイントに回答が可能。問い合わせした客は知りたい内容をすぐに得られ、満足度が高まる。
また、生成AIはQ&Aの履歴を学習するため、会話の流れに沿った回答も可能だ。例えば「パジャマはありますか?」と質問した人が、その直後に子供用の有無を尋ねる場合、人間同士なら「子供用は?」と聞くのが自然で、生成AIなら事前の会話内容からそれだけでも質問を理解できる。従来のAIは「子供用のパジャマはありますか?」と、改めて質問の対象を明確にしなければ正しい回答を表示できないかった。つまり、生成AIでは、より人間らしい顧客対応ができるということだ。
生成AI×チャットボットで可能になること
さらに岩田氏は、宿泊施設が生成AIを活用できる業務内容を説明。宿泊施設のメルマガ文章や公式サイトに掲載するイメージ画像の生成のほか、販促活動でも公式サイトを訪れた顧客の行動履歴をもとに「お客様に合わせた柔軟なアクションができるようになり、予約率や再訪率の向上が期待できる」と説明した。
具体的には、公式サイトを訪れたリピート客に前回予約した宿泊プランを上位表示することや、新規客に自社の会員登録を促すキャンペーンの提示、ヘビーリピーターには限定のシークレットプランを自動で表示するというもの。これらは、トリプラのAIチャットボットでの展開を構想しているところだという。
また、AIチャットボットに集積されている質問内容などのデータから、宿泊施設の運営を向上させるヒントも得られるという。例えば、公式サイト内のアクセスページに駐車場の案内を掲載しているにもかかわらず、駐車場に関する質問の数が多い場合は、閲覧者が見やすい場所に移動したり、案内を分かりやすい内容に変えたりすることが必要だ。
岩田氏は「質問の数や内容は、お客様のニーズとして読み取ることができる。不満を解決し、宿泊施設の利点に変える。それによって、宿の満足度の向上につながる」と説明する。
インバウンドのニーズ把握にも有効
多言語対応のチャットボットでは、訪日客の需要やニーズも把握しやすい。コロナ後の急回復に合わせ、同社が提供するチャットボットに寄せられる外国語の問い合わせも増加しているという。
外国語のデータのなかから岩田氏が指摘したのが、入国者数と問い合わせしたユニークユーザー(UU)数の違い。参照したデータの対象期間である2023年8月の国・地域別の入国者数は、多い順に韓国、台湾、中国、香港の東アジア勢が占め、米国は5番手だったが、同期間のチャットボットのUUは米国が最多。また4番目が豪州で、トップ10内には英国やカナダなど欧米豪が目立った。
さらに、質問のタイミングや内容を言語別に見ると、外国語では宿泊予約をする前に質問をするケースが日本語より多く、宿泊予約の検討段階で質問をしていることがうかがえる。そして、質問の内容は日本語・外国語問わず「予約できますか?」と宿泊予約を希望する質問が多いが、外国語では特にその傾向が強い。
岩田氏は「インバウンドの集客でチャットボットの有効性がうかがえる。お客様に直接、ここから予約案内をすれば、直接予約に結びつくチャンスになる」と話した。
トリプラのデータによると、同社の予約システムとチャットボットを両方とも導入した宿泊施設と、予約システムのみの宿泊施設では、公式サイトからの予約数は、チャットボット導入済の宿泊施設のほうが約2倍も多かったという。
岩田氏は「旅行者は、最初にウェブ検索やOTA、メタサーチなどで旅行先のエリアの宿泊施設を探し出し、その後、一度はその公式サイトを訪れる傾向がある。公式サイトのチャットボットは常に各ページ上にあり、そこで予約への誘導や自館のメリットをストレートに伝えられることが一役買っている」と話した。
もう1つ、岩田氏が注目したのが、韓国語で1位になった「プールはありますか?」の質問。日本語、英語、繁体字、韓国語の4言語の中で唯一の質問内容が、韓国語では最多だったのだ。
これについて、岩田氏が同社の韓国オフィスに現地の旅行動向を聞いてみたところ、韓国ではコロナ禍を経て、より宿泊施設内の体験を重視してホテルを選ぶ傾向が強まったという。質問1つから、取り込みたいマーケットの最新動向をうかがい知ることができる例だ。
すぐに答えを知ることに慣れた外国人客に対応を
岩田氏の講演を踏まえ、トラベルボイス代表の鶴本は、特に印象的なことに「生成AIはお客様を理解することで、ハイパーパーソナライズができること」を挙げた。
また、外国人のチャットボットの利用状況に「特に欧米の方々は使い慣れており、即レスを求めている人が多い」と指摘。「公式サイト内に書いてあるとはわかっていても、そこを探し出すよりはチャットボットに聞いた方が早いと考える。それが、チャットボット導入済みのホテルの予約率の高さに表れていると思う」と話した。
なお、質疑応答では視聴者から「AIの精度」など、様々な質問が寄せられた。岩田氏は、AIの精度は「AIがどれだけ情報を蓄積できているか。ラーニングが進んでいるかで精度が上がる」とし、精度の高いAI搭載ツールを選ぶために着目すべきは「導入施設数」とアドバイスした。
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記事:トラベルボイス企画部