英調査会社ユーロモニターインターナショナルによる最新の旅行者調査「Voice of the Consumer: Travel Survey」では、旅行の目的や内容に即して、旅行者を8つのセグメントに分類した。このなかで最も多いのは、同社が「Leisure Seeker(レジャー・シーカー)」と呼ぶ価格志向の強い消費者層で、全体の23%を占めている。同セグメントを攻略するために知っておくべき変化とは何か?
パンデミックの前と後では、旅する理由から旅に対する考え方までが、世界中で様変わりしており、これまでの行動分析が役に立たなくなっている。そこでユーロモニターでは、このほど実施した調査「消費者の声(Voice of the Consumer):トラベルサーベイ2023」(回答者数4万30人)をもとに、新しい時代の旅行者像を8つのセグメントに分けて考察を加えた。この中で、最も人数が多いセグメントが「レジャー・シーカー」だ。
レジャー・シーカーは、8つのセグメントの中で最も価格志向が強いため、価格だけを見て判断する旅行者だと勘違いされるが、その実像はもっと複雑で、節約志向であると同時に、質の高さと価格のバランスを見ていることが、今回の調査データから浮かび上がった。レジャー・シーカーが重視する質の高さとは何かを理解し、どんな価値があるのかをしっかり伝えることが、このセグメント攻略を目指す旅行事業者には欠かせない。
レジャー・シーカーと物価高騰による影響
パンデミックの危機が去った今、レジャー・シーカーにとっての不安要因は、世界的な生活物価の高騰だ。2022年に渡航規制はほぼ解除されたが、多くの国でインフレが過去最高レベルとなった。こうしたなか、旅行市場に占めるレジャー・シーカー比率は、生活物価の高騰レベルと相関関係が見られる。今回の調査でレジャー・シーカー比率が最も高かった10カ国のうち6カ国は南米で、トップはコロンビア、次いでブラジル、メキシコ。南米では、過去2年に渡りインフレが続いたため、レジャー・シーカー比率の拡大が進んだ。
世界的なインフレは2023年にひと段落したものの、パンデミック以前と比べると、旅行にかかる費用は高いままで、食料、エネルギー、労働コストの高騰が主な要因になっている。
ユーロモニターの調査によると、海外旅行の世界平均価格は、2023年と2019年を比較すると24%上昇した。国内旅行では同12%増となっている。
レジャー・シーカーは、物価高の影響をもっとも受けやすい旅行者セグメントだ。生活必需品の購入コストが増えれば増えるほど、不要不急の旅行にあてる予算は減少。旅費も高止まりしているため、海外旅行ではなく国内旅行に変更するなどの妥協も必要になる。旅行事業者がこうした旅行者に引き続きアピールするためには、旅行の価値と割安感、その両方を訴求することが重要になる。
価格志向の安直なイメージに惑わされるな
価格重視の旅行者に対しては、どうしても底値の競い合いになり、その結果、サービスを削ることになりがちだ。だが、ユーロモニターの調査データを見ると、レジャー・シーカーたちは、シンプルで効率的な旅行プランに、より強い購買意欲を感じていることが分かる。具体例としては、パッケージツアーやオールインクルーシブ型リゾートなど。こうした商品の購入意欲は、レジャー・シーカーが全体平均の4倍以上となった。特に人気があるのがパッケージツアーで、事前に予算を確定できること、決済方法の選択肢が幅広いことが理由だ。シンプルな旅行商品に魅力を感じるのは、日常生活における様々なストレスが一因でもありそうだ。
ユーロモニターの2023年調査結果では、レジャー・シーカーの41%が、常に用事を片付けるプレッシャーに追い立てられていると回答している。
つまり、レジャー・シーカーは価格志向であると同時に、分かりやすくシンプルであることにお金を払う価値を見出している。例えば、オールインクルーシブ型のリゾートのように、シンプルかつ旅費の削減効果も期待できることが望ましい。
ヒルトン、マリオット、ハイアットなど大手ホテルチェーンは、ここ2年ほどの間にオールインクルーシブ施設の展開拡大を相次ぎ打ち出している。その多くは、富裕層がターゲットだが、お得感をうまく伝えることができれば、レジャー・シーカーからの関心も高くなるはずだ。
オールインクルーシブ施設の新規開発が目立つエリアがメキシコやカリブ海諸国で、狙いは米国人旅行者だ。だが前述の通り、南米各国にはレジャー・シーカー層が多く、有望な潜在顧客であることに、リゾート側は留意すべきだ。
レジャー・シーカーに訴求すべき価値とは
旅行各社が届けるメッセージが、それぞれの顧客セグメントの価値観に合っているかは重要だ。レジャー・シーカーに対しては、価値を伝えるコミュニケーションがカギになる。旅行事業者が力を入れている領域の一つがロイヤルティ・プログラムだ。会員になれば、割引や体験内容のアップグレードなどの特典が享受できる。
だが、調査結果を見ると、レジャー・シーカーの場合、ロイヤルティ・プログラムの特典を活用した買い物への関心度は、他のセグメントを若干、下回っている。この分野への投資は引き続き活発だが、お得感と旅行プランニングのシンプルさ、両方のメリットをもっと分かりやすく打ち出す必要がありそうだ。会員プログラムの魅力を旅行者に分かりやすく伝えることは、レジャー・シーカーとの関係強化につながるはずだ。
同様の理由から、分かりにくい手数料などを課している旅行事業者は、注意が必要だ。価格に敏感なレジャー・シーカーは、予期せぬ手数料を引かれるぐらいなら、予約をすべて取りやめにすることも辞さない。価格の透明性は、レジャー・シーカーにとって欠かせない要素だ。すべての手数料を明示し、それがより良い旅行体験につながる理由を説明した方が、顧客喪失のリスクを最小限に抑えられる。
レジャー・シーカー市場を味方につけよう
レジャー・シーカーの注目度は、他の旅行者セグメントに比べて、あまり高くはないのが現状だ。対照的に、ラグジュアリー・シーカーやブレンディッド・トラベラーは、消費額の大きさや、既存ビジネスモデルを打破する存在感がよく話題になる。しかし今回のユーロモニター調査結果からは、レジャー・シーカーの市場規模はもちろん、そのダイナミズムや価格と価値のバランスに対する意識の高さが明らかになった。旅行事業者にとっては、マーケティング戦略が欠かせない重要なセグメントの一つだと言える。
オリジナル記事:The New Leisure Travel Seeker: Not Sacrificing Quality for Cost
著者:ユーロモニターの南北米地区の旅行担当コンサルタント