米国から多くのテイラー・スウィフトのファンが、欧州18都市を巡る彼女のツアーに駆けつける。パリで行われる4公演は完売。そのチケットの20%が米国人によって購入され、次の会場となるストックホルムには米国から約1万人が訪れると見込まれている。
オンライン旅行の世界大手エクスペディアは、ビヨンセのワールドツアーでも見られたこの傾向を「ツアー・ツーリズム(tour tourism)」と呼んでいる。テイラー・スウィフトの場合、Disney+のストリーミングで観ることができるにも関わらず、海外に行くのだ。
カナダ・オンタリオ州のジェニファー・ウォーレンさんと、その11歳の息子は熱烈なスウィフトファン。米国でのコンサートチケットを手に入れることはできなかったため、他にチケットを入手できる公演を探したところ、ドイツのハンブルグで手に入ることがわかった。そこで、コンサートに合わせて、家族で欧州でバケーションを過ごすことを決めた。
彼女が手に入れたチケットは、ステージ前方の特等席で1枚600ユーロ(約10万円)。その直後、11月にトロントで公演が行われることが発表されたが、ウォーレンさんによると、そのチケット価格は二次再販サイトですでに3000カナダドル(約34万2000円)に跳ね上がっているという。
ツアー・ツーリズムは本当に存在するのか?
熱烈なファンがお気に入りの歌手やバンドを追いかけるのは新しい現象ではない。最近でも、カリフォルニアのコーチェラやイギリスのグラストンベリーなどの音楽フェスティバル、ラスベガスでのエルトン・ジョン、レディー・ガガ、アデルなどのコンサートには様々な場所からファンが押し寄せた。
パンデミック以来、物質的なものよりも「体験」を求める消費者の需要も、この傾向を後押ししていると話す専門家もいる。
マスターカード経済研究所の首席欧州エコノミストであるナタリア・レクマノバ氏は、「2023年の米国でのテイラー・スウィフトのツアーでは、コンサート会場半径4キロ以内のレストランやホテルが多いに潤った。欧州ツアーでも、同じことが起きるだろう」と予想する。
地域経済を潤す「スウィフトノミクス」
テイラー・スウィフトのコンサートによる地域経済への効果は大きく、その現象は「スウィフトノミクス」あるいは「スウィフト・リフト」と呼ばれている。シンガポール政府が今年初めにスウィフトと特別協定を結んだのも不思議なことではない。
民泊エアビーアンドビーは、スウィフトが今年6月と8月に公演する英国エディンバラ、リバプール、カーディフ、ロンドンでの検索数が、昨年夏のチケット発売時には平均337%増加したことを明らかにした。
北欧で唯一公演が行われるストックホルムの商工会議所は、5月17日~19日のスウィフトのコンサートのために、約130カ国から約12万人が訪れると予測。航空会社は、その期間、隣国のデンマーク、フィンランド、ノルウェーからのフライトを増便したという。
また、商工会議所によると、ツアー日程に合わせて宿泊料金が高騰したにもかかわらず、市内のホテル4万室は完売。コンサート来場者は滞在期間中に4600万ドル以上(約71億円)を地元経済につぎ込むと見込まれている。しかも、この推定額にはスウィフトのチケット代やスウェーデンまでの交通費は含まれていない。
ツアー・ツーリズムは続くのか?
スウィフトやビヨンセなどが創出するツアー・ツーリズムは、他のアーティスにも波及するのだろうか。エクスペディアでは、今夏、欧州でツアーを行う大物アーティストのコンサートを目的とした海外旅行予約が増えるだろうと見ている。
一方で、旅行コンサルタントのカット・モーガ氏は、言語の壁、為替、国際的な銀行規制、キャンセルのリスクなどチケット購入のハードルによって、定期的なライブ旅行は限定的だろうと見ている。
ブッキング・ドットコムのグレン・フォーゲル最高経営責任者は、スーパースターが小規模な目的地を訪れると「ちょっとした衝撃」を生み出すが、旅行業界にとっては、「1人のスターが世界を回っても、大きな違いを生み出すことはない。ファンが、旅行の予定を変更して、スウィフトのコンサートに行くだけ。それはただ、旅先を変えているだけだ」と冷静だ。
※ユーロ円換算は1ユーロ167円、カナダドル円換算は1カナダドル114円、ドル円換算は1ドル155円でトラベルボイスが算出
※本記事は、AP通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。