BtoB向け観光商談展示会「iTT国際ツーリズムトレードショー」が2024年5月8日から10日にかけて東京ビッグサイトで開催された。昨年初めて開催された「iWT国際ウェルネスツーリズムEXPO」を第2回として引き継ぐとともに、今年は新たに「観光DX・マーケティングEXPO」が加わった。2つのEXPOあわせて144社・団体が出展。3日間の来場者数は累計9357人となり、前回を上回る規模のツーリズムイベントとなった。その様子をレポートする。
多彩な出展を集めたウェルネスツーリズム
iWT国際ウェルネスツーリズムEXPOでは、国内から宿泊施設などのウェルネス施設、自然体験やヨガ、禅体験などのアクティビティ、シェアオフィスやインセンティブ旅行などのワーケーション、医療ツーリズム事業者、自治体/DMOなどが参加したほか、海外からも韓国観光公社、スリランカ政府観光局、フィリピン観光省が広いスペースでウェルネス体験をアピールした。
展示内容も多彩。今年7月に開業予定の青森駅直結のウェルネス特化型ホテル「ReLabo Medical Spa & Stay」は、そのサービスとホスピタリティを紹介。千葉県、沖縄県、島根県、北海道、群馬県、南三陸町、室戸市などは、観光誘致の一環としてそれぞれのウェルネス体験をアピールした。さらに医療ツーリズムでは、再生医療から形成外科/美容整形まで日本の最先端医療技術で訪日客を誘致する取り組みも展示された。
今年は、新たな試みとして、6人の審査員が選んだ「ウェルネス・デスティネーション・アワード2024」も展示。全23地域・施設のノミネートのうち、「広島市湯来町の活性化の取組」「沖縄県北中城村の発酵ライフスタイルリゾート」「京丹後市」「沖縄県大宜味村のやんばるホテル南溟森室」「松本市のSatoyama Villa 本陣」「熊野市の熊野倶楽部」「竹田市・長湯温泉」「高野山」「北海道阿寒湖温泉」「八ヶ岳観光圏」の10地域・施設が会場で展示紹介された。
観光DXは課題解決からエンタメまで
一方、観光DXマーケティングEXPOでも、人材不足や業務効率化などの課題解決ソリューションからインバウンド対応、エンターテイメントまで幅広いビジネスが集まった。
宿泊施設のキャンセル料徴収をデジタルでサポートする「Payn」、タビマエに観光スポットを擬似体験できるVRアプリを開発する「コンセント」、地域のストーリーを伝える音声ARガイドサービス「Pokke」、デジタル認証式入退場ゲートを提案する「Fujitaka」、宿泊施設向けクラウドサービスを展開する「陣屋コネクト」など観光の足回りを支援する企業が参加。また、大手のJTBは、同社が展開する各種観光DXソリューションの展示を実施した。
多彩なウェルネス分野のセミナー、経産省の医療インバウンド促進など
今年のiTT国際ツーリズムトレードショーは、情報や知見を共有する各種セミナーもウェルネス、観光DXそれぞれで開催された。基調講演は、福岡県「ほどあいの宿 六峰館」社長で全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会会長の井上善博氏が「宿文化の維持・発展」について講演した。
ウェルネスツーリズムでは、経済産業省の商務・サービスグループ・ヘルスケア産業課課長補佐の里貴之氏が「医療インバウンド促進に向けた取り組み」について説明。世界の医療ツーリズムの市場規模は10兆円と推計されているが、日本はまだ限定的としたうえで、経産省としては活動を紹介。医療滞在ビザ身元保証機関の登録などの支援や、国内の医療機関向けに情報発信を強化していると話した。
また、中国のほか、需要が高いベトナムやインドネシアなどをターゲットとし、最先端のがん治療のほか健康診断ニーズにも応えていく考えを示した。そのうえで、課題として通訳のスキル、行政と医療機関との連携などを挙げた。
羽田空港に隣接する藤田医科大学東京先端医療研究センターの榛村重人教授は、同センターの取り組みについて説明。健診ニーズが最も多く、がん診断PET-CTやがんゲノム診断も実施するほか、活動長寿プログラムも提供し、食事、運動、睡眠などで伴奏型プログラムも提供している点も紹介した。一方、課題として医療ビザのタイミング、放射線による抵抗感(特に中国)、通訳の手配、支払いなどを挙げた。
銀座高須クリニック院長の高須英津子氏は、美容整形のトレンドやニーズは国によって異なることから、事前のカウンセリングが重要と強調。来院者の多くが日本での旅行を楽しみながら施術を受ける海外富裕層のため、世界基準の設備を用意するほか、スタッフ教育にも力を入れるなど、おもてなしにも気を配っていると説明した。コロナ前の来院者数にはまだ戻っていないものの、順調に回復。中国がトップマーケットで、近年はベトナムに注目しているという。
エイチ・アイ・エス(HIS)ヨーロッパ・中近東・アフリカ・南米事業グループ グループリーダーの大室聡志氏は、HISが考えるウェルネスツーリズムを「豊かな人生のために、カラダとココロの健康をつくっていくこと」と説明。そのうえで、従来の思い込みがチャンスを潰すとして、同じ商材でも目線を変えて、提案していくことが大事となり、誰でも取り組めることと強調した。
イーストホームタウン沖縄代表取締役の相澤和人氏は、沖縄でのリトリートや「沖縄の人に会いに来る」旅行者が増えているとしたうえで、また挑むために少しだけ現実から逃げる「逃げ旅」を提案、商品化していることを紹介した。ターゲットは、ある程度所得があり、良いものにはお金を出すマインドリッチ層。また、「泣くことは、笑うこと同様にココロの平安にいい」と主張し、商品の目的として参加者を「泣かすこと」を掲げていると説明した。
「観光×デジタルの今とこれから」、広域連携マーケティングの意義とは
観光DX・マーケティングセミナーでは、観光庁参事官(産業競争力強化)付専門官の秋本純一氏が、国の観光DX政策について講演した。
旅行者の利便性向上/周遊促進、観光産業の生産性向上、観光地経営の高度化/戦略策定、デジタル人材の育成の4本柱で政策を推進。それらを連関させて、観光地経営の高度化を支援していく方針を示した。また、各地域の先進事例も紹介。地域のデータインフラを構築し、地域のイノベーション創出や外部や異業種からの投融資を促進していく重要性を指摘した。
トラベルボイスの鶴本浩司代表も登壇。「観光×デジタル、いま起きていること、これから起きること」について講演した。
従来は認知と選択のためにタビマエでのデジタルの取り組みが重要だったが、SNSの普及でタビナカでの発信が認知につながる時代になったと指摘。そのうえで、旅行中の旅行者にいかにデジタルでアプローチしていくかが大切になっていると強調した。また、情報共有では、クチコミに丁寧に対応することで、旅行者との関係性を構築していく必要性にも触れた。
さらに、これからのキーワードとして、AIによる「代替」、スマートチェックインなど「効率化」、料金最適化などテクノロジーを活用した「利益貢献」、イノベーションを組み入れた「新体験」を挙げた。
マーケティングについての講演では、いせん代表取締役で広域観光圏「雪国観光圏」代表理事の井口智裕氏が登壇。「雪国文化」を軸とした広域連携による新たな観光地域の取り組みについて説明した。
8000年前の縄文から続く雪文化の知恵が現代の暮らしにも生きていることに着目し、広域によるブランディング創造を始めたという。「文化は複層的なところから見えてくる。観光のエッセンスとして、長年続いてきた文化をストーリーに落としこむ」として、その圧縮作業は一つの自治体でおこなうことは難しことから、広域連携での取り組みに意義があるとした。
そのうえで、「やる気のある事業者を結びつけて、強いストーリーの輪をつくっていく。100年先まで続くブランドをつくっていくことが雪国観光圏の価値」と強調した。さらに、「地域と宿との協業こそが新たに市場を生み出す」との考えを示し、インバウンド市場では「エコロッジ」の名称で売り込みを図るほか、雪国リトリートとして、滞在型の個人客を取り組むプロモーションを展開していく方向性を示した。
注目度が高かったセミナーについては、後日詳報レポートを公開する。
来年の「iTT - 国際ツーリズムトレードショー TOKYO 2025」は、今年と同様に「iWT国際ウェルネスツーリズムEXPO」と「観光DX・マーケティングEXPO」との併催。東京ビッグサイトで6月25日~27日に開催される。