デジタルの力で観光振興に取り組む、NECソリューションイノベータ(NEC)。これまで日本各地で、地域の観光事業者の束ね役に手を挙げた「とりまとめ事業者」とともに、観光事業者のオンライン販売をサポートする「NECガイド予約支援サービス」を活用して、地域一体となったタビナカ販売を後押ししてきた。
その同社の新たなプロジェクトのひとつとして、沖縄の現地発着ツアーやアクティビティを集めるオンライン予約プラットフォーム「ぷれちょ」を、「とりまとめ事業者」であるジャンボツアーズとともに構築。地域の事業者は「ぷれちょ」に参加し、商品を掲載するだけで、簡単にオンラインでの自社販売が行えるようになる。
2024年春に那覇と石垣島、宮古島で実施した事業者向け説明会では、30を超える事業者が「ぷれちょ」への参加を決めた。NECが目指す地域一体のタビナカ販売は、従来の販売サイトと何が違うのか。多数の事業者が参加を決めた理由は何か。NECの担当者に聞いてきた。
自社販売の仕組みで消費者のニーズにタイムリーに応える
「ぷれちょ」の特徴は、沖縄の大手旅行会社と全国規模で展開するシステム会社が手掛けた、沖縄に特化したタビナカ予約のプラットフォームであること。観光事業者には同プラットフォーム上で直接販売ができる仕組みと場を提供し、消費者には現地滞在中の体験探しから予約・決済までをシームレスに行えるサービスを提供する。
「沖縄へ旅行する観光客にとって価値があり、かつ、沖縄の観光事業者が利益を得られ、さらには地域の活性化につながるサービスを考えた」と、NECソリューションイノベータ(NEC)の田中伸幸氏は話す。
信頼できる観光事業者のタビナカ商品を豊富に揃え、予約から決済までを安全・確実に完結する価値あるプラットフォームとするために、沖縄の観光事業者が参加しやすく、商品の品質を保つ仕組みを設計している。
具体的には、NECガイド予約支援サービスを活用し、商品を掲載した事業者と消費者がスムーズに直接売買できるサービスを提供。NECがシステム面の支援を、ジャンボツアーズがプラットフォーム全体の運営を行う。ジャンボツアーズはタビナカ商品を扱う事業者の1つとして商品の掲載も行うが、主眼に置くのは「ぷれちょ」のとりまとめ事業者として、参加する観光事業者への事務局的な業務やプラットフォームのプロモーションだ。
NECはこれまでも地域や事業者にタビナカ販売のプラットフォームを提供してきたが、今回のように、旅行会社が現地事業者の直販を推奨するサイトを運営するのは初めて。田中氏は「旅行会社が運営する沖縄のタビナカ予約のキュレーションサイトと言えるのではないか」と説明する。
もう1つ、「ぷれちょ」ならではの特徴がある。それは、自社販売による観光事業者の収益向上を後押しすること。「ぷれちょ」に参加する観光事業者はNECガイド予約支援サービスの機能によって、自社商品の販売サイトを開設することもできる。
日本を代表するリゾート地である沖縄は観光事業者のオンライン販売が進んでいるが、OTAに依存する部分が大きく、自社販売に成功している事業者ばかりではない。来沖してからタビナカ体験を探すことが珍しくなくなった消費者のニーズにタイムリーに応えるためにも、観光事業者の自社販売は不可欠だ。そのためNECでは、観光事業者が「ぷれちょ」を通じてDXに向かうことが、沖縄観光の価値を高めることにつながると考えている。
地域や事業者の課題に寄り添い、コンセプト作りから伴走
本プロジェクトは、ジャンボツアーズがNECに沖縄のタビナカ販売における課題を相談したことから始まった。オプショナルツアーやアクティビティの販売サイト「JJアクティビティ」を展開する中で、旅行会社はもちろん、観光客や観光事業者のそれぞれに課題があると見ていたという。
観光客は、様々なタビナカ観光商品のなかから、信頼できる観光事業者の商品だと判断し、選ぶことが意外に難しい。観光事業者も同様で、多くのプレイヤーが参入する群雄割拠のタビナカ市場でどのサービスを選べばよいか、悩む事業者も多い。
そして旅行会社は、観光客のニーズの多様化に応じて扱うタビナカ商品を増やす必要があるが、売り上げに対して業務負荷が大きく、現実的ではない。予約の間際化が進むタビナカ販売では、旅行会社の代理販売によって各種手続きを要することも、観光客と観光事業者には不便であると感じていたという。
そこでジャンボツアーズが注目したのが、観光事業者の直接販売を支援する「NECガイド予約支援サービス」だった。観光事業者が使いやすいように設計されたNECガイド支援サービスの仕組みとNECの地域観光に対する熱意を知り、この課題解決が図れると期待した。
「“餅は餅屋”で、システムによる価値向上は当社の技術力、観光事業者や商品の質や信頼性の担保は旅行会社の経験がものをいう。旅行会社とシステム会社、観光事業者が三位一体になって、沖縄観光を活性化していくことで一致した」(田中氏)。
事業説明会で、こうした趣旨とプロジェクトの概要を話したところ、多くの事業者が賛同。すでに旅行会社やOTAを通して販売している観光事業者はもちろん、新たに自社でのオンライン販売に取り組む観光事業者もあったという。
様々な枠組みで、プラットフォーム構築が可能
観光事業者が「ぷれちょ」に参加する場合、入会金や登録料などは不要。必要な費用はNECガイド予約支援サービスの利用部分のみになる。NECガイド予約支援サービスは初期費用不要、販売手数料はシステムを利用した売り上げに所定の利用料率を乗じた金額(最低月額料金9900円)のみ。決済システムも、初期費用不要・手数料が安価な「全旅ペイメント」を指定しており、スモールスタートが可能だ。
NECが観光分野にコミットすることについて、同社のビジネスラボラトリで長年、NECガイド予約支援サービスを通じた観光振興に取り組んできた川村武人氏は「なぜ大手のシステム会社が、タビナカ分野に全力で取り組んでいるのか。よく聞かれることだが、その理由は明白。観光の世界が変わり、タビナカの重要性が増しているが、その流通はまだ成熟しておらず、観光客と観光事業者が利益を収受できる環境に整備する必要がある。それを当社がサポートすることで地域振興につながればと思っている」と話す。
NECではタビナカ販売の活性化で、新たな展開を見据えている。それは、さまざまな「とりまとめ事業者」による、独自性あるプラットフォームを作っていくこと。
例えば、「ぷれちょ」は沖縄全体のタビナカ予約プラットフォームだが、その他にも、石垣島や宮古島などさらに地域を特化したり、ダイビングやシュノーケルなど、マリンアクティビティを提供する事業者だけに特化したプラットフォームを作ることも可能だ。
「その地域を楽しみたい観光客は、ディープな地域のプラットフォームを使えば好みの体験を探しやすい。アクティビティに特化したプラットフォームの場合、他地域で同じ体験をした消費者を呼び込むこともできる。とりまとめ事業者のアイデアで、タビナカの魅力と可能性が広がっていく」と田中氏は話す。
NECがデジタルによるタビナカ観光振興で心掛けているのは、とりまとめ事業者とコンセプト作りから伴走すること。オンライン販売システムの提供とプラットフォームの構築は、観光振興のスタートに過ぎない。地域とともに、地域の事業者とそこに暮らす地域住民、訪れる観光客のそれぞれに価値のあるプラットフォームへと成長させることを目指している。
⇒ 本記事で紹介した「ぷれちょ」サイトを見る
問合せ先:gias-support@nes.jp.nec.com
記事:トラベルボイス企画部