静岡県藤枝市、スポーツツーリズムで「稼ぐ地域づくり」、滞在時間の延長や周遊促す仕組みを構築へ

静岡県藤枝市は、サッカー観戦による人の流れと地域経済活性化の創出を目指す「蹴球都市藤枝 Next100 スポーツツーリズムプロジェクト」を立ち上げた。これは、観光庁の「観光DXによる地域経済活性化に関する先進的な観光地の創出に向けた実証事業」の採択を受けたもので、ナビタイムジャパンと共同で観光DXを通じて「稼ぐ地域づくり」を目指す。

藤枝市は、単にスポーツだけでなく文化として根付いているサッカーを核としたまちづくりを推進している。Jリーグ藤枝MYFCの試合観戦やスポーツ合宿などで一定の成果をあげている一方で、滞在時間が短いことから現地消費額が伸びず、また来訪者の移動手段などの課題を抱えているという。

そうした課題を解決し、持続可能な観光スタイルを確立するために、今年7月にオール藤枝でスポーツツーリズムに取り組む「蹴球都市藤枝 Next100 スポーツツーリズム共創会議」が設立された。

スポーツを契機に稼ぐ観光の確立へ

共創会議のキックオフカンファレンスで、藤枝市の北村正平市長は「スポーツを契機として、歴史文化、お茶などの食文化、豊かな自然など地域の宝を集めて、経済界、行政が一体となって観光交流人口を拡大し、稼ぐ観光の確立を目指す。今回の取り組みが全国の先進モデルとなり、市民が元気で幸せになるまちづくりを進めていく」と挨拶した。

また、ナビタイムジャパンの大西啓介社長は、「交通や滞在時間の延長は、スタジアムでのスポーツ観戦における全国的な課題」と指摘したうえで、ナビタイムジャパンのソリューションを活用することで、スポーツによる地域経済の活性化に貢献していくことに意欲を示した。

ナビタイムジャパンは、2023年4月に「スポーツビジネス事業部」を発足させ、スポーツだけでなく、観光、交通、商業などの他分野との共創で、商圏エリアの拡大を支援する事業を始めた。2023年9月には、ベガルタ仙台のホームゲームで訪日外国人観光客に向けた「スポーツ観戦×観光・地域周遊促進」の取り組みを実施。自治体との協業は、藤枝市が初めてとなる。

(左から)観光庁の秋本純一氏、井林たつのり内閣府副大臣、北村藤枝市長、ナビタイムジャパン大西社長、藤枝市観光協会の江﨑晴城会長

観戦者向けにはユニタビ、事業者向けにはLINE

プロジェクトでは4つの取り組みを進める。

来訪者向けには、ナビタイムジャパンが「ぴあ」と共同運営するアプリ「ユニタビ」を活用して、ターゲットに合わせた情報を発信する。ユニタビは、JリーグのQR観戦チケットと共にスタジアム周辺の観光情報を提供するもの。リニューアルする藤枝市観光協会のウェブサイトと合わせて、地域内のアクティビティや飲食などの情報を提供していくほか、予約のオンライン化を進めていく。

地域の事業者向けには、LINEを活用したコミュニティプラットフォームを構築し、受入態勢の整備に取り組む。事業者も使い慣れたLINE上で、試合開始日や試合時間、チケット販売数や来場者数予測などのデータを提供。事業者側は、これまで勘と経験に頼っていた仕入れなどを、データに基づいて効率化することで、収益性を高めることが期待される。

また、LINEのプッシュ通知によって、事業者はタイミングに合わせたクーポンの発行や広告の展開も可能になる。例えば、試合終了を知らせる通知と共に、お店の開店状況を尋ねる通知を配信。事業者がLINE上で「開店している」「空席あり」などと応えると、その状況やクーポン情報などがユニタビに反映され、プッシュ通知で試合帰りの利用者に送られる。

プラットフォームでは、生成AIを活用したチャットツールを活用することで、事業者の負担を軽減する。ナビタイムジャパンは、そのツールを構築するとともに、藤枝MYFCから提供される各種データの解析を担う。

3つめの取り組みは、輸送手段の効率化。藤枝市内の公共交通機関は脆弱なため、スタジアム周辺では特に試合終了後に渋滞など交通問題が発生していることから、今後はバス、シェアサイクル、相乗りタクシーなどモビリティの選択肢をユニタビでリコメンドしていく。ナビタイムジャパンでは、今回の実証を通じて、周遊データを収集・分析することで効率的な移動の支援を目指す。相乗りタクシーでは、静鉄タクシーと連携し、ユニタビでマッチングできる仕組みを構築する計画だ。

さらに、藤枝市民大学など地域の教育機関とともに、デジタル人材の育成と活用にも取り組む。

稼ぐ地域に向けて、消費と魅力向上の好循環を

藤枝市では、サッカー観戦後市内に宿泊する観戦者を対象に宿泊費を補助する「藤枝に泊まろう!」キャンペーンなど、滞在時間の延長を促すさまざまな施策を展開してきた。一定の効果は出ているものの、キャンペーン利用者に対する調査では、宿泊しても「どこにも行ってない」人が45%近くもいることから、周辺の経済効果につながる周遊に課題感を持っているという。

今回の実証プロジェクトで、今年度はスタジアムへの来訪者の増加と地域での消費促進に取り組み、2025年度では新店舗開店や新商品の創出を通じて、地域の魅力を向上させるとともに、新たなファン層の獲得を狙う。2026年度には、その好循環をつくり上げたうえで、プロジェクトの自走を目指す。

一方、スポーツツーリズムに力を入れるナビタイムジャパンは、今年9月頃にはアビスパ福岡との協業を実施する予定。今後は、試合と試合日前後1日の体験をチケット1枚で楽しめる仕組みの構築も視野に入れるなど、Jリーグをはじめとするスポーツによるまちづくりで地域経済活性化を支援していく考えだ。

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