太陽の光とターコイズブルーのエーゲ海に恵まれた人気の休暇先ギリシャが、気候変動とオーバーツーリズムで観光モデルの見直しを迫られている。2023年にギリシャを訪れた観光客は3300万人近く、観光収入は285億ユーロ(約4兆5600億円)にのぼった。今年はさらに増える見通しだ。
エーゲ海のキクラデス諸島では近年、オーバーツーリズムに対する怒りからビーチで抗議デモがおこなわれている。「ギリシャの人びとは(キクラデス諸島が)急変しており、数年後には特別なものが失われてしまうのではないかと懸念している」とロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの経済学者、ディミトリス・バヤノス氏は言う。
欧州ではギリシャ以外でも観光客への不満が高まっているが、ギリシャは欧州で最も地球温暖化の影響を受けている国のひとつであり、海面上昇、熱波、不規則な降雨、頻発する山火事などが風景を変えつつある。
観光産業は、希少な水資源に余分な負担をかけ、脆弱な沿岸環境を脅かしている。そのため地方自治体や監視団体(オンブズマン)からは、建設規制、観光客の流入制限、水管理とインフラへの投資を求める声が上がっている。
記録的な高温で観光地を閉鎖
政府はこうした脅威の緩和と、重要な観光収入維持との間でバランスを取る必要がある。ヘレニック観光ビジネス協会によると、観光産業はギリシャ経済に年間628億から756億ユーロ(約10兆480億円から12億960億円)をもたらし、国内総生産(GDP)の約3分の1を占める。
しかし、気候変動はギリシャの観光産業を存続の危機にさらしている。
今年は6月の長引く熱波に続き、7月の気温が過去最高となったことで、観光地は閉鎖を余儀なくされ、熱中症による死者も相次いだ。
高温で乾燥した天候によって山火事の発生頻度も高まり、観光業を脅かしている。8月初めには首都アテネから数キロ圏内で大規模な火災が発生した。昨年は全国で8000件以上の山火事が発生し、数千人の観光客がロードス島を含む島々から避難を余儀なくされた。
オンブズマンは6月の報告書で、ギリシャが健全な観光を維持するためには建設を減らし、水資源と沿岸地域を保護する必要があると指摘。観光による環境リスクの増大、特に飲料水、プール、ウォーターパークなどのための追加的な水需要について警告を発した。
観光税の使途
ギリシャの研究者らと国連教育科学文化機関(ユネスコ)が実施した試験的研究によると、エーゲ海の小さな島々では既に、観光客の需要を満たすために自然水の生産量を倍増する必要が生じている。
経済学者のバヤノス氏は「これらの島々は、開発が進めば進むほど観光客にとっての魅力があせるだろう」と予想。観光業を環境基準に適合させるためには、開発を特定の地域に集中させるなどの対策を採るべきだと語った。
ギリシャは今年、「気候変動に耐えるための料金」として観光税を導入した。深刻化する森林火災や洪水からの復興資金に充てる狙いだ。この税は、ホテルや短期レンタル住宅(民泊)に宿泊する客に課され、2024年には最大3億ユーロ(約480億円)の追加収入を生み出すと予想されている。
しかし、米コーネル大学・持続的観光資産管理プログラムのディレクター、ミーガン・エプラー・ウッド氏は、観光税というものは伝統的に観光地のマーケティングに使われてきており、水供給やゴミ処理、電気・ガス、手ごろな住宅などの恩恵を地元にもたらしていないと話す。ギリシャ自治体中央連合は、観光税を地方政府に回し、観光客管理の財源に充てるよう求めている。
ターコイズブルーにも変化か
ギリシャにおける気候変動の影響は、気温上昇その他の異常気象にとどまらない。ヘレニック観光ビジネス協会の報告書では観光業への脅威として、洪水、水不足、高温、干ばつに加えて、海岸浸食やターコイズブルーの色彩を生み出す海草藻場の減少が挙げられている。
「夏の気温上昇が見込まれる以上、年間を通して観光客を引きつける質の高いサービスを提供することによって観光シーズンを長引かせるのが優先課題だ。ギリシャが持続可能で競争力のある観光を確保する道はそれしかない」とヘレニック観光ビジネス協会の広報担当者はロイターに語った。
また、農業を体験するアグリツーリズム、食にまつわる体験をするガストロツーリズム、アクティビティや自然、文化を体験するアドベンチャーツーリズム、ウェルネスツーリズムなど、「ビーチホリデー」に代わる観光を促進することを推奨している。
また再生可能エネルギーへの投資や、沿岸地域や脆弱なインフラの保護も、観光地にとって長期的なメリットをもたらすとエプラー・ウッド氏は指摘。「よりリスクの少ない、より強靭な未来へと国々を移行させる一助となり、良い影響力をもたらし得る」と語った。
※ユーロ円換算は1ユーロ160円でトラベルボイス編集部が算出
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