こんにちは、機内食コラムを担当する旅行・グルメライターの古屋江美子です。
ユネスコ無形文化遺産でもある和食は世界的にも人気が高く、外資系エアラインの機内食で提供されることも増えてきました。フィンエアーでは、成田発便のビジネスクラスの和食で、日本人シェフ監修によるシグネチャー・メニューの提供を2018年2月7日より開始。マリメッコとのコラボレーションなどモダンなセンスに定評のあるフィンエアーが提案する新しい形の和食とはどんなものでしょうか? 記者発表会&試食会を取材しました。
機内食コラボは日本路線のサービス強化の一環
フィンエアーでは2013年からカスタマー・エクスペリエンス向上の一環として、長距離路線のビジネスクラスにおいて世界各国のトップシェフたちと共同で開発したシグネチャー・メニューを提供しています。
今回新たにシグネチャー・メニューをスタートする成田/ヘルシンキ線のビジネスクラスの和食では、旬の野菜と乾物を主役とした和食店「七草(ななくさ)」(東京都渋谷区)のシェフ、前沢リカ氏とコラボレーション。アジアではすでに中国・香港発便でシグネチャー・メニューを提供していますが、日本人シェフとのコラボレーションは今回が初めてです。
今年日本就航35周年を迎える同社にとって日本はフィンランドに次ぐ市場であり、2018年の夏季スケジュールでは成田線増便を発表。そうした好調を受け、サービス強化のためにビジネスクラスで新しい形の日本食を提供しようと今回のコラボレーションが実現。日本マーケットを重視している同社の姿勢がうかがえます。
機内食で「日本の風景」を表現した前沢シェフ
今回、前沢シェフを起用した理由について、フィンエアー本社広報担当のマリ・ロウヴィ氏は、「フィンエアーが重視する機内食の要素であるローカル食材や季節の変化を、前沢シェフもとても大切にしていた」と説明。同社が日本人シェフを探しはじめた際、幸運にもかなり早い段階で前沢シェフと出会うことができたそうです。
今回のシグネチャー・メニューは「日本の風景をみるような料理」にしたと前沢シェフ。2018年2~5月提供の春メニューの前菜「初の七草花織り箱」の全13品には、菜の花や蕗(ふき)、筍などの春の味覚や、「七草」らしい干し柿や干し椎茸などの乾物が使われ、彩り豊かでまるで春の里山の風景のよう。料理は雑味のないやさしいおいしさで、野菜の味もしっかり感じられました。シャキシャキした筍煮やモチモチの生麩の百合根饅頭揚げなど、それぞれに食感の妙があります。
和食の枠にとらわれないフィンエアーらしい和食
現在フィンエアーは、JAL、ブリティッシュ・エアウェイズ、イベリア航空と日本/欧州路線において共同事業をおこなっています。ただ、サービスにおいて他社は意識せずあくまで「フィンエアーらしさを提供したい」とフィンエアー日本支社長の永原範昭氏。今回のシグネチャー・メニューも、とくに純和食などにこだわったものにはなっていません。
もともと前沢シェフは、和食のベースは大切にしつつも、西洋の要素を自由な発想で料理に取り入れることを得意としてきました。「七草」の料理でもハーブやスパイスを使ったり、和と洋の野菜を組み合わせたりしたものがよく出されます。
シグネチャー・メニューのメイン料理「牛ヒレ肉の八丁味噌とバルサミコソース添え 蕗の薹(ふきのとう)のタプナードとともに」も、一般的な和食の枠にとらわれない前沢シェフらしいひと品です。ポイントは和洋の食材をいかした2種類のソース。ひとつは蕗の薹(ふきのとう)を南仏のオリーブのペースト「タプナード」とあわせたもので、蕗の薹のさわやかな苦みがアクセント。もうひとつ、八丁味噌とバルサミコ酢をあわせたソースは、深いコクと酸味があり牛肉との相性も抜群です。
「日本の春の味である蕗の薹を海外の方にもぜひ召し上がってほしいと思ったのですが、独特の苦みや香りを強すぎると感じる方もいるのではないかと考え、ソースを2種類用意しました」と前沢シェフ。まずは海外の方にも蕗の薹との新たな出会いを気軽に楽しんでほしいといいます。
ちなみに、すでにサービスを始めている中国発のシグネチャー・メニューはスティーブン・リュー氏による西洋と東洋の味を融合させた創作中華料理。ローカル料理を提供する際、伝統的な料理の枠にとらわれず、センスを発揮して自由なアレンジを加えるのは、今回の和食にも共通するフィンエアーらしいアプローチといえるのかもしれません。
日本とフィンランド、食の共通点
フィンエアーらしさを追求しつつも奇をてらったものにならないのは、日本とフィンランドの食に共通点が多いことも背景にあるのではないかと思います。
フィンランドを含む北欧料理は、豊かな自然の恵みを用い、素材の持ち味をいかしたシンプルなものが多いのが特徴。美しい盛り付けも含め、日本の食文化と似ています。また、日本食は魚をよく使いますが、フィンランドも魚をよく食べる国であり、食材にもなじみがあります。
最後に、木のボックスに入った前菜はお花見弁当をイメージしているそうですが、お花見弁当と機内食にも共通点がありました。一般的に機内では味覚が鈍くなるといわれ、味付けを少し濃くしたり、汁気を少なくしたりすることが多いのですが、お花見弁当も同様。いつもより味を強く煮含めたり、煮物の汁がまわりのおかずにつかないように気をつけたりするそうです。「この前菜はお花見弁当を作るような気持ちで作っておりましたので、いつも自分が作っている料理の何倍も味を濃くしなければならない……ということはなく、かなり自然に一番自分がおいしいと思うところで味を決めることができました」と前沢シェフ。
前沢シェフ監修のシグネチャー・メニューは3~4カ月ごとに変わる予定。前沢シェフは「日本の人にも欧州の人にも満足してもらえる味」を目指したそうで、それぞれからどんな感想が寄せられるのか今から楽しみ。機内食における和食のバリエーションは、今後もますます広がりを見せていきそうです。