ANAがアバターで「瞬間移動」の新サービス開始へ、来春にアプリでも、遠隔操作で創る「未来の旅」を取材してきた【画像】

ANAは2018年3月29日、羽田空港で「ANA AVATAR VISION」に関するサービス説明会と体験デモンストレーションを実施した。ANAは、2018-2020年度グループ中期経営戦略でSociety 5.0 (超スマート社会)の実現に向けた取り組みのひとつとして「ANA AVATAR VISION」を策定。3月12日には非営利団体「XPRIZE財団」が主催する国際賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」(賞金総額1000万米ドル)の内容を発表し、4年間にわたるレースをスタートさせた。

AVATAR(アバター)とは、ロボティックス、VR、AR、センサー、通信、ハプティックス(触覚)技術などさまざまなエクスポネンシャル・テクノロジーを組み合わせ、仮想空間上で遠隔操作などを行う技術。ANAとしては、今後この取り組みを一般に紹介していくことで、AVATARの社会的ムーブメントを起こしていきたい考えだ。

ANAホールディング社長の片野坂真哉氏は、「ANA AVATAR VISION」について、「未来のサービスとして発展させていき、新しいライフスタイルを創出していく」と説明。遠隔操作による疑似体験は、ANAの本業である航空輸送と相容れないのではないかという声があるなか、「たとえば、タイの人たちがタイにいながらAVATARによって流氷に触ることができれば、その体験は実際の旅行に結びつくはず」と話し、旅行需要の創出にもつながるとの考えを示した。

Beam Proで大分県にいる広瀬勝貞知事と話すANA片野坂社長

「ANA AVATAR XPRIZE」ではすでに世界150チームが参戦意向

同社デジタル・デザイン・ラボ・アバター・プログラム・ディレクターの深掘昴氏は、「ANA AVATAR VISION」の概要について説明。3つの分野における取り組みを紹介した。

まずは「ANA AVATAR XPRIZE」。高度なAVATAR開発を目指し、一台であらゆるタスクを行うことができる「ジェネラル・パーパス・アバター」を5〜10年で実現させる。国際賞金レースは、それを加速させるためのものと位置づけられる。ローンチして間もないにもかかわらず、すでに全世界から150以上のチームが参戦に名乗りを上げているという。2回の予選審査を経て、2021年10月にファイナリスによる本戦が行われる。予選で課せられる課題は災害救助、医療介護、特殊作業の3テーマ。ヒューマノイドである必要ない。

ANA デジタルデザインラボの深掘氏(左)と梶谷氏。

来春に既存AVATAR技術をサービス化、アプリも開発

2つ目の分野は、既存技術のサービス化に向けた市場テスト。大分県を世界初のアバターテストフィールドに指定し、遠隔から大分県に置かれたアバターを操作することで、宇宙開発、農林水産業、観光、教育、医療などでの実証実験を行う。今年4月から既存のプロトタイプの改良を行い、10月から実証実験を開始。2019年4月以降にはサービス化を実現する計画だ。

深堀氏は「近い将来、東京にいながら佐伯市の海で釣りをし、釣果をそのまま発送することも可能にしたい」と意欲を示す。現在、日本のハプティクスをはじめとするアバター技術は世界トップレベル。「しかし、研究開発から事業化に進む段階が大きな課題」(深掘氏)であることから、ANAとしてはその課題解決をサポートしていく。

遠隔操作では、すでに実用化に近づいている技術もある。遠隔コミュニケーションツール「Beam Pro」は、空港での案内サービスのほか、「沖縄美ら海水族館」や「広島平和記念資料館」でのガイド機能として期待されている。実際に現場を訪れることなく見学できることから新たな教育機会としての活用が見込まれるほか、海外との時差を利用し、閉館中でも海外にいながら見学できるサービスも視野に入れているという。

ANAでは、サービス開始に合わせて、ANA AVATAR専用アプリ「AVATAR-IN」をリリースする計画。「教育、医療、スキルシェア、観光などさまざまなAVATAR体験ができるプラットフォームとして、新しい市場を創造していく」(深堀氏)。

クラウドファンディングでスタートアップをサポート

3つ目の分野が、既存のAVATRA技術のサービス化を促進させていくためのANAクラウドファンディング「Wonder Fly」の活用だ。同社デジタル・デザイン・ラボ・アバター・プログラム・イノベーションリサーチャーの梶谷ケビン氏は、「これによって、AVATARスタートアップを支援していくとともに、AVATARの知名度も向上させていきたい」とコメント。ANAマイレージクラブで貯めたマイルでも支援できることから、幅広い参加に期待をかける。

現在、慶應義塾大学ハプティクス研究センターが立ち上げたRe-alの「力触覚ロボット開発」が目標金額を達成。ベンチャー企業のメルティンMMIが開発を進める「リアルアバタープロジェクト」の資金調達がスタートしている。

現在のAVATRA技術の実力は? 体験デモで探ってみた

説明会では5つのAVATAR技術が展示され、報道陣向けに体験デモが行われた。

▼ANA AVATAR Fishing (Re-al)

ハプティクス技術とVRを組み合わせ、大分県の釣り堀での釣り体験。実際に体験してみると、離れた釣り竿の動きが連動し、腕や手に伝わる力の感覚もリアル。担当者によると、実際に魚がかかったときの引きの感覚も忠実に伝わるという。ただ、VRゴーグルの解像度が低いため、視覚と触覚が連動したバーチャル感はもうひとつという感想だ。

▼ANA AVATRA Diving (メルティンMMI)

ロボットハンド技術とVRによって、大分県の海に潜り貝などの水産物を実際に収穫。精密なロボットハンドは、災害現場や特殊作業などさまざまな用途への応用が見込まれるという。

▼ANA AVATAR Museum

沖縄美ら海水族館を遠隔見学。二次元視覚だけのAVATARのため既存技術のなかで最も実用化に近い。コントローラーを使い、自分本位で見たいところを見られる点がおもしろい。

▼ANA AVATRA Airport Service

Beam Proを使った空港案内サービス。遠隔にいるグランドスタッフが乗客をサポートする。今後、訪日外国人旅行者がさらに増えると予想されることから、多言語案内での活用も視野に入れる。

▼力触覚ロボット開発 (Re-al)

Wonder Flyでクラウドファンディングされたプロジェクト。目標額100万円に対し、すでに221万円以上が集まった(3月29日現在)。最先端のハプティクス技術によって、プラスティックコップとブロックを交互に手で掴むと、触覚の違いを感じることができ、握手をするとそのヒューマンタッチも伝わる。ただ、握手の力加減の伝わり方にはまだ若干の違いがあるという。

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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