データ統合技術「API」は、旅行業界に何をもたらすか? 今、注目すべき最新動向と7つのポイントを分析【外電コラム】

IBMは、2016年にAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)市場の経済規模は、2018年までに2兆2000億ドルに達すると予測した。あらゆる産業において、データの統合や相互のやり取りが進むこと、またこうしたデータの取引価値など、複数の要因を根拠として挙げていた。

その後、マッキンゼーによる2017年9月の予測では、一年後の2018年9月までに、一般公開される「パブリックAPI」の数は3倍に増加し、機能面では、デジタルウォレットなどモバイル向けサービス、人工知能(AI)や機械学習での活用が広がるとの見通しだ。APIによって創出される世界全体での市場機会は、利益額ベースで1兆ドルと試算している。

*編集部注:APIとは、ソフトウェアの機能を共有できる仕組み。よく利用される機能がAPIとして提供されていれば、共有する側は新たなプログラムを組む必要がなくなり、開発が効率的になる。

これら二つの予測をみれば、市場規模の金額こそ異なるものの、APIがテクノロジー業界を塗り替えることは間違いないと考えていいだろう。モバイル・ファーストの取引、IoTによるスマートな環境、自動化されたボットや音声アシスタンスによる消費者対応、あるいは拡張現実(AR)などがさらに普及していくという流れだが、その大前提として欠かせないのが、データのやり取りだ。

旅行業界では、すでにAPIがよい形で活かされるようになっているが、2018年は、この傾向に、さらに拍車がかかりそうだ。

日々、色々なところで読んだり書いたりしているように、シームレスな旅行体験が楽しめる未来を迎えようというなら、今後、APIによるデータ統合は必須条件となる。

以下に、今、注目するべきAPIの最新動向を挙げてみよう。

1:正真正銘の旅行グローバル化

旅行は世界にまたがる産業であり、今頃、グローバル化の話?と違和感を覚えるかもしれない。だが、現実には、未だに閉鎖的なデータ・サイロがその基盤となっている。これを根底から変える必要がある。マーケットは、インテグレーションに向けて動き出している。スピード感が足りない面は否めないが、間もなく、重要な転換期を迎えるだろう。異なる地域にいる旅行関係者たちをつなぐ取り組みにより、モバイルでの一般消費者向けリテール業が広がり、国境が消えてゆく。

北京、シリコンバレー、あるいはストックホルムなど、世界中どこにいても関係ない。旅行プランニングの際、不正確な情報に翻弄されたり、予約したサービスの決済方法で迷うような事態を、仕方ないとあきらめてはいけない。2018年は、こうしたストレスがAPIによってさらに軽減されることを期待したい。

2:NDC XML標準のAPI

IATA(国際航空運送協会)では、航空業界におけるデータの相互やり取りを改善するべく、新しい通信規格「NDC」の標準化に取り組んできた。世界を代表するGDSの全てから、各社システムにおけるNDC対応への協力を得た後は、航空各社による利用の拡大と、よりクリエイティブなソリューションの開発を期待したい。

3:フレキシブルなリテール業務

昨年のルフトハンザ航空によるオープンAPI導入は、旅行サービス提供側が、リテール業務のフローをもっと柔軟にしようとする取り組みの一例だ。これにより、旅行システムの開発者が自社プラットフォーム上でルフトハンザの航空券を販売し、コミッションを稼ぐことが可能になった。同社では、続いてアンシラリーサービス販売も、この対象に加えていく方針だ。

APIを統合すれば、販売機会はずっと大きく広がる。例えば、旅行客が必要としそうなタイミングを見計らって、便利な追加サービスやプロダクトを売り込むにも役立つ。

4:顧客にもっとわかりやすく

シームレスなデータのやり取りが可能になれば、サービスの連続性が高まり、複数のプラットフォームを利用している顧客にも分かりやすく、便利になるはずだ。例えば、フィンエアーは昨年から、アマデウスの「デジタルリテールAPI」を採用。これによって、フライト情報を検索していた利用者がいったん(サイトを)離れても、ショッピングカートの中身をオープン状態で維持し、利用者が戻るまで数か月の間、予約に必要な諸情報を保存できるようになった。旅行のプランニング方法は、人それぞれ。予約を即断できるとは限らない、という利用者側の実情をよく理解していると言える。

5:CRMの改善

APIは、チャットボットや音声アテンダントを活用した顧客とのリレーションシップ・マネジメントにも役立つ。相手がどこにいても、どのプラットフォームを使っていても、顧客とつながっている旅行会社を目指すのなら、顧客との対話において、APIをもっと活用するべきだ。

6:マルチモーダルな未来へのサポート役

旅行において、進化しているのは、デジタルを使った意思疎通だけではない。移動のあり方そのものが、複数の交通機関の連携を通じて利用者に最適な移動環境を提供する交通体系、いわゆる「マルチモーダル交通システム」の登場によって変貌しつつある。「移動のサービス化(MaaS=Mobility as a Service)」という未来を見据えて、一部の空港では、APIをパートナー企業に開放し、切れ目のない移動サービスを実現しようと動き始めている。IATAとACI(国際空港評議会)が提唱する「NEXTT(New Experience in Travel and Technologies)戦略」は、現在、空港到着後に集中している旅行の諸手続きを、空港外で済ませられる体制の整備を目指すもの。マルチモーダル交通システム上にこうした拠点を作ることを検討している。APIプラットフォーム開放を促進する動きになるかもしれない。

7:ハッカソンの興隆

ハッカソンは、これまでも旅行業に様々な恩恵をもたらしてきたが、今年はさらにその傾向が強くなりそうだ。独立系の開発者ならではの視点は、斬新でフレッシュなものだ。以前、tnoozが開催したハッカソンでは、IATA主導のもと、NDCハッカソンが実現したが、今年1月には、tnoozとHEDNA(ホテル電子流通ネットワーク協会)、ホームアウェイが手を組み、テキサス州オースティンで、ホスピタリティ・ソリューションズにフォーカスしたハッカソンを共催している。

※編集部注:この記事は、世界的な観光産業ニュースメディア「トヌーズ(tnooz)」に掲載された英文記事を、同編集部から承諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。

※オリジナル記事:The top seven travel API developments to look out for in 2018


著者:マリア・ガルシア氏(tnoozゲスト編集者)

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…