トーマス・クックの破綻は、旅行業の歴史において最も注目を浴びた失敗のひとつとして、今後アナリストによって詳しく分析されることになるだろう。
その要因としてさまざまなことが考えられる。2007年のMyTravel買収以降、慢性的な財政問題に苦しみ、いくつかの主要マーケットでは政情が不安定で、夏には異常な暑さに見舞われた。他にもいろいろとあるが、それらすべてが、トーマス・クックが多額の負債を抱え、こんなにも劇的に破綻した要因だろう。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
トーマス・クックは、10年ほど前からライバルであるTUIと同じペースで、あるいは顧客トレンドに合わせてデジタル化を進めようとしたが、そのデジタル戦略の失敗も破綻の一因と言える。
トーマス・クックは、オンラインで旅行を予約したいと思う旅行者が増えているという市場動向を理解するよりも、むしろ特定のセグメント(たとえば、富裕層あるいはオールインクルーシブを好む層)をターゲットとするビジネスモデルを堅持した。自社でOTAを立ち上げようとしたが、そこでも他のどこでも売っているような量販型商品を売り続けようと考えていたようだ。
しかし、このOTA計画は立ち上げる前に失敗。従来のパッケージモデルから新しいモデルへシフトし、資産が十分ではなくとも機動力のある競合他社に対抗する差別化に躊躇したことで、トーマス・クックのデジタル化は後手を踏むことになる。
2012年にCEOに就任したハリエット・グリーン氏は、雇用を調整し、構造改革を行い、ブランドも再構築。金融業界では同社の財務状況を好転させくれるリーダーとして歓迎された。
初めての本格的なデジタル戦略もグリーン氏がトーマス・クックに持ち込んだものだ。彼女は前職の電子システム企業Premier Farnellのように技術力を高めようとした。
2014年当初、グリーン氏はトーマス・クックの問題として、以下のような危機に直面していると説明した。
- オンラインビジネスにつながりがないこと
- オムニチャネルの経験がないこと
- 上級役員にデジタル経験を持つ人間がまったくいないこと
- デジタライゼーションの文化が社内にないこと
- 脆弱なデジタル顧客体験
- デジタル戦略を困難にするサイロ・アプローチ(縦割り型手法)
グリーン氏のデジタル改革は当初、ある程度の成果を生んだが、彼女は突然トーマス・クックを去ることになる。その後、再び近代化に向けた真剣な取り組みは頓挫することになってしまった。
トーマス・クックのデジタル戦略に対する真剣さを示すために、グリーン氏はトーマス・クック初のチーフ・デジタル・オフィサーとしてPremier Farnell社で同僚だったマルコ・ライアン氏を招聘した。ライアン氏はグリーン氏がトーマス・クックを離職する1ヶ月前にその職に就いたが、彼もまた10ヶ月ほどで会社を去ることになってしまった。
トーマス・クックのデジタル戦略のビジョンは、同社が抱える幅広い問題を一掃する完全な戦略ではないものの、将来の改革に向けた示唆であったことは間違いない。その示唆は、ライアンの在任中ではなく、その2年後の2017年に「TED✕Talk」でライアン自身が語ったことから伺える。皮肉にも、2017年はトーマス・クックにとって終わりの始まりの年になったのだが。
TED✕Talkでのマルコ・ライアン氏の講演(Youtube:約15分)
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
※オリジナル記事:Thomas Cook's digital strategy - great ideas that came too late
※著者:ケビン・メイ(Kevin May)