新型肺炎の蔓延で、何百万という中国人が移動を規制され、旅行を避けるように要請されている。中国最大の旅行シーズンである春節でのこうした規制は、世界の旅行市場に大きな打撃を与えている。AP通信が世界に発信している。
新型肺炎が中国の動きを止める以前から、中国の観光需要は下降気味だった。しかし、それでも中国人に人気のタイでは、春節期間中500億バーツ(約1774億円)の損失があると試算。アジアや他の国々でも、中国人旅行者の消費に頼っているホテル、航空会社、クルーズなどの観光関連事業者は、中国人旅行者がいなくなることに頭を悩ませている。
中国政府は1月27日、新型肺炎の拡大を避けるために、春節期間を2月2日まで延長することを決めた。中国当局によると、新型肺炎が最初に発症した武漢では2744人が感染し、死者は80人にのぼる。現在まで、中国17都市で、5000万人以上が自宅での避難を余儀なくされているという。
バンコクでは、多くのドラッグストアで医療用マスクが品切れ状態。以前の春節期間よりも中国人観光客はかなり少ないにもかかわらずだ。タイ政府は対策として空港鉄道の車内を消毒すると発表した。
前述のように、タイ観光協会は中国人旅行者一人あたりの消費額を約5万バーツ(約17万7000円)として、春節期間の損失は少なくとも500億バーツ(約1774億円)にのぼると見ている。今年初旬に、タイではボート事故が相次ぎ、中国では現地ツアーオペレーターの安全性が疑問視されたことで中国人旅行者が減少したが、今回の損失はそれに続くものだ。
香港での反政府デモによって、多くの中国人旅行者が香港旅行を回避し、旅行先を他の遠くのデスティネーションに移しているようだ。同じ事は、中国との一体化を望まない候補者が総統に選ばれた台湾でも起きている。
新型ウィルス拡大前、春節期間の海外旅行者数は700万人と試算
数ヶ月前、中国の海外旅行調査機関は、今年の春節期間の海外旅行者数は前年の630万から700万人に増加すると予測していた。
2019年の中国の海外旅行者数は、前年比4.5%増の1億3400万人。しかし、その伸び率は2018年の15%よりもかなり低い。人気のデスティネーションは香港、タイ、日本、ベトナム、韓国など近隣諸国だ。
アメリカへの旅行者数は、米中貿易戦争によって、新型肺炎発症以前から減少傾向。アメリカの税関申告書のデータに基づくと、2018年のアメリカへの旅行者数は過去15年で初めて前年割れになった。2019年も前年比5%減になると予測されている。2020年以降は堅調に成長に転じると見込まれているが、今回の感染拡大と旅行規制がどのような影響を及ぼすかまだ明らかではない。
ヨーロッパでは、パリ、ミラノ、ロンドンなどファションで有名な都市での消費額は大きい。イギリスでの中国人旅行者一人あたりの消費額は2018年で平均2200ドル。中東からの旅行者に次いで多い額だ。しかし、消費額全体は以前よりも減少している。おそらく、中国国内でもラグジュアリーな商品が買えるようになったのも要因かもしれない。それでも、イギリスへの中国人旅行者は増加し続け、2010年比では4倍となった。
新型肺炎の影響を正確に予測することは難しい。旅行のキャンセル、モールでのショッピング、レストランでの飲食、ホテル宿泊以外にも、幅広いビジネスに影響が及ぶ可能性があるからだ。