世界のパスポート指標を発表しているイギリスのコンサルティング会社「ヘンリー&パートナーズ」は、新型コロナウイルス(COVID-19)によって、世界の人々の移動がどのように変化するか考察している。
同社が発表した2020年第2四半期のパスポート指標によると、ビザなしで渡航できる国・地域が最も多いパスポートは191国・地域の日本。しかし、現在、新型コロナウイルス感染防止のための厳しい旅行制限によって、その利点は失われている。状況はどの国でも同じだ。世界の人口のほぼ半数にあたる約35億人が自発的にあるいは強制的に旅行が制限されている。
ベストセラー作家でFutureMapの創設者であるParag Khanna博士は、「COVID-19パンデミックは、公衆衛生、世界経済、そして社会行動に複合的な影響を与えており、今後、人々の地理的な居住や将来の渡航先を大きく変える可能性がある」と話す。
「現在は、世界の交通は止まったままだが、これが再開されるとき、政府の管理が機能せず、医療体制も脆弱な『レッドゾーン』から、医療体制が整った『グリーンゾーン』に移動する機会を求める人々も出てくるだろう。あるいは、自分たちが望まない検疫が実施されると、そこから逃げ出す人々も出てくるかもしれない。実際、アメリカでは、パンデミックが宣言される前に国内、海外への移動が増えた。特に、ジェネレーションXやミレニアム世代のあいだでは、より安く生活ができる南部の地方都市、南米やアジアに移動する動きも見られた。今後、検疫が解除され、航空運賃が底値のままであれば、多くの人々が、身の周りのものだけを持ち、片道航空券だけを買って、経済的に余裕を持って新しい生活のスタートが切れる国に移動するかもしれない」と指摘している。
ヘンリー&パートナーズも、現在の旅行制限は一時的な措置だが、長期的には国際移動に影響を与えるリスクをはらんでいるとしている。
アメリカ・シラキュース大学のUğur Altundal教授とピッツバーグ大学のÖmer Zarpli教授も、「世界は公衆衛生上の理由から移動の制限を課してきた歴史があるが、それは一時的なものだった。しかし、今回のCOVID-19に対する懸念は、将来のビザ免除を大きく変える可能性がある。各国とも、健康的安全性がビザ免除の重要な要件にするのではないか」と洞察している。
一方、フランスのクレルモン・オーヴェルニュ大学のSimone Bertoil教授は、パンデミックとの闘いは国際協調が必要になってくることから、究極的には国際的な移動の制限は低くなるかもしれなとしたうえで、「自国を完全に守ることができる国はいない。パンデミックは人類が直面しているグローバルな課題であり、世界が現在直面しているもうひとつの大きな課題、つまり気候変動での国際協調をさらに進めていく引き金になるかもしれない」と話している。
オックスフォード大学のMadeleine Sumption教授は、COVID-19によって引き起こされている混乱によって、ブレグジット後にイギリスが実行しようとしている移民制度にも疑問を投げかけられていると指摘する。パスポート指標によると、イギリスは現在185カ国にビザなしで渡航できるが、2021年1月にはEUとの間で自由な移動はできなくなる予定。しかし、Sumption教授は、「今回のパンデミックよって、EUとの関税などを巡る交渉が長引けば、EUとの間の自由移動の期限は延長され、新しい移民制度の施行も先延ばしになる」と見ている。
ヘンリー&パートナーズCEOのJuerg Steffen博士は、COVID-19が世界の投資環境に与える影響について、「COVID-19が終息後、個人投資家、国家とも、どこに投資するかが極めて重要になってくる。別の居住権や市民権を獲得することは、今後予想されるマクロ経済の不安定さに対するリスクヘッジとなりるだろう」と考察している。