世界の航空会社は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染リスクを抑えるさまざまな対策を取りながら、運航再開に向けて動き出している。
国際航空運送協会(IATA)が今年1月から3月にかけて行った航空会社への聞き取り調査によると、機内での感染が疑われたケースは3件。それもすべて乗客から乗務員への感染と言われている。また、パイロット間の感染も4件報告されているが、飛行中か、あるいは飛行前後か、判明していない。
乗客間の感染については、疑わしい例は報告されていない。IATAによると、飛行後にCOVID-19に感染していると確認された1100人を追跡したところ、同じ便に搭乗していた10万人以上の乗客なかに、2次感染者は一人も確認されなかったという。
そうした状況から、IATAは乗客や乗務員のマスク着用を推奨している一方で、最新の換気システムが整っている機内での感染リスクは低いとして、ソーシャル・ディスタンスを確保するために中間席を空ける必要はないとしている。
それでも、各航空会社は、旅行者に安心感を与えるために、搭乗前から、空港、機内、飛行機を降りるまで徹底した感染防止対応を取っている。
搭乗前は非接触チェックインを
搭乗前の対策として、フィンエアーは、モバイルアプリでのオンラインチャックインをこれまで以上に推奨している。空港チャックインカウンターでの密集を避け、不特定多数が接触する自動チェックイン機の利用を減らすためだ。セブ・パシフィック航空は、複数の手荷物がある場合、代表者1名のみがまとめて手荷物をカウンターで預けることを呼びかけている。
搭乗ゲートでは、各社ともソーシャルディスタンスの確保に努めており、搭乗前には消毒液による手の洗浄を求め、体温チェックを行う航空会社もある。また、できるだけ乗客同士の接触を避けるため、フィンエアーでは、ビジネスクラスなどの優先搭乗を一時的に中止し、後方座席から順番に搭乗させる方法をとっている。
続々と機内でのマスク着用が義務化
機内での対策としては、各社は乗客のマスク着用を求めている。ヨーロッパでは、各国が公共の場所でのマスク着用を義務付ける規制を課していることから、航空会社もそれに準じている。たとえば、ルフトハンザグループは5月4日から、エールフランスは5月11日から機内でのマスク着用を義務付けた。また、北米でも、アメリカン航空が5月11日から義務化し、ユナイテッド航空、デルタ航空も同様の措置を取っている。
一方、ANAやJALは義務化しておらず、「協力のお願い」で対応している。いずれにせよ、一時的措置とはいえ、機内でのマスク着用は航空会社のスタンダードになりつつある。
乗客だけでなく、乗務員のマスク着用の義務化も進んでおり、大韓航空などはマスク、手袋以外に防護服、ゴーグルの着用を必須とする徹底ぶりだ。
座席の間隔を空けソーシャルディスタンス確保
IATAは、機内でのソーシャルディスタンスの確保は必要ないとしているが、中間席を指定対象外にする対策を取っている航空会社も多い。たとえば、JALやエア・カナダは6月30日まで、窓側と通路側の席のみの予約としている。チャイナ・エアラインは、座席の移動、近距離(1メートル以内)での他人との接触や会話を控えるように呼びかけている。
一方、ルフトハンザグループは、マスク着用によって適切な予防が可能になるとして、エコノミークラスとプレミアムエコノミークラスで実施していた隣席を空ける措置を止めた。
IATAは、他の公共交通機関と比べて、航空機内は飛沫感染のリスクは低いと強調している。その理由として、乗客は基本的に全員前方を向き、対面する機会が少ないこと。座席が前方への感染バリアになっていること。天井から床への空気の流れによって、キャビンの前後に感染する可能性は低く、さらに他の屋内環境とは異なり空気の流れが早く、飛沫が停滞しいないこと。そして、高効率粒子空気フィルター(HEPA)によって機内の空気の流れがクリーンに保たれていること、を挙げている。
IATAのアレクサンドル・ド・ジュニアック事務局長は、「大規模なワクチン接種、免疫パスポート、効果的な感染検査、航空業界の復活には、どれも必要だろう。しかし、それがいつ実現されるかまだ分からない。そのなかで、我々は、感染防止のために、すでに効果が認められている対策を組み合わせて実施していく必要がある」とコメントしている。