2020年7月27日にツイッターのトレンド入りで注目を集めた、「ワーケーション」。同日開催された政府の観光戦略実行推進会議の結果として、菅官房長官が普及に取り組むと言及したことに、多くの人が反応した。ワーケーションという言葉は、観光分野では従来から使われてきた言葉だが、コロナ禍でテレワークが浸透した今、より現実味を持って捉える人が多いだろう。
これを機に、ワーケーションを掲げるプランの設定やピーアールを強化する宿泊施設が急増した。すでに観光産業では、法人向け事業などを開始する企業や受け入れ整備を進める地域も増えているが、個人向けの宿泊プランが販売されることで、ワーケーションの考え方を広く浸透させる後押しになりそうだ。宿泊施設の取り組み事例をまとめてみた。 ※写真は「志賀高原癒しの湯・幸の湯」のイメージより
リゾートは温泉やグランピングと組み合わせ
リゾートでのワーケーションプランで多く見られるのは、そのリゾートの良さを活かして仕事の疲れを癒し、意欲を高めるような付加価値を付けたもの。
例えば、「プリンスホテル」では、軽井沢など3か所のリゾート施設でワーケーションプランを設定。「万座プリンスホテル」では、WiFiが整備された客室でのリモートワークに息抜きの温泉や大自然での散策を提案するほか、「屈斜路湖プリンスホテル」では1日1組限定のグランピング体験付きプランを設定した。一緒に滞在する家族の満足度と同時に、リモートワークの効率アップも図るとする。
また、既存のリゾートがワーケーション用の施設を新設する動きもある。
「白馬樅の木ホテル」ではこのほど、テレワークスペース「Workation Hakuba」をオープン。電源や高速WiFiをはじめ、ミーティングやカンファレンスの利用を想定した映像と音響の設備も完備した。雄大な自然を活かしたグランピング施設も併設し、大型テントやツリーハウスでのリモートワークも可能としている。
温泉旅館「箱根小涌園 天悠」でも、このほどコワーキングスペースを設置。1階のバーラウンジの営業時間外スペースを活用したもので、WiFiや全席でのコンセント設置を完備したほか、携帯充電器も貸し出す。これを、宿泊客が無料で利用できるようにした。
仕事の質を高める付加価値プランも
さらに、リモートワークの環境提供だけではなく、一歩踏み込んだユニークなプランも誕生している。
例えば、「伊豆ハウス ラグジュアリーログ暖炉」では、ワーケーション向け宿泊プランで「経営コンサルティングプラン」を設定。ワーケーションの基本プランに加え、外資系コンサルティングファーム出身者による経営コンサルティングを提供する。
「志賀高原癒しの湯・幸の湯」では、ワーケーションにファスティング(ソフトな断食)を取り入れたプランを企画した。ウェルネスブランドのTHE ONEとコラボしたもので、長野駅からの送迎に準備食とファスティングドリンク、回復食を付け、2泊3日のプランで設定。これに、朝ヨガや森林セラピー、乗馬体験などのオプションも用意した。自然の中でのリモートワークと、五感を研ぎ澄ますといわれるファスティングで集中力を増し、一石二鳥の体験ができるとしている。
都市観光では機能性が差別化ポイントに
一方、付近にリモートワークの競合施設が多い都市部のホテルでは、リゾート施設とは異なるアプローチが見られる。
例えば、札幌グランドホテルでは、宿泊用とは別に仕事専用の部屋を付けたワーケーションプランを設定。日中は専用部屋で集中して仕事をし、夜は家族と一緒に宿泊用の部屋で過ごす。仕事と休暇のオンオフができるプランとしてアピールする。
また、スマートホテル「&AND HOSTEL」では高級家具のハーマンミラーと協業で、「エルゴノミクス(人間工学)に基づいた働く環境」を、期間限定で実施。秋葉原の施設のワークスペースに「問題を解決する人々のためのデザイン」を理念とするハーマンミラーの製品を導入し、効率的に作業を行なう体験を提供する。リモートワーカーやパラレルワーカー向けの企画だが、都市観光での滞在で、リモートワークの時だけ利用するスペースとしても利用が可能だ。
&AND HOSTEL「ワークスペースでのエルゴノミクスに基づいた働く環境」
星野リゾートは長期滞在を推奨
観光産業ではコロナ以前から、ワーケーションへの注目が高まっていたが、宿泊施設で取り組みが速かった企業の1つが、星野リゾートだ。2019年秋には、「軽井沢星野エリア」で2020年1月から開始する温泉ワーケーションプランを設定していた。温泉入浴券やカフェでのドリンクチケット、散策道具のレンタルなど、ワークプレイスとリフレッシュメントをセットにした日帰りプランを設定し、軽井沢エリアの宿泊客向けに販売したのだ。
そんな星野リゾートが最近発表したワーケーションの提案は、シンプルな長期滞在。どのブランドでも各施設の立地と設備を活かし、仕事に集中できる環境とリフレッシュできる滞在を提供できるとする。例えばラグジュアリーブランドの「星のや」でのリモートワークでは、オフィスや自宅では味わえない開放感や充実感が得られ、仕事後はすぐに上質な休暇時間に入り込めるとアピール。都市観光の「OMO7旭川」では、15泊で4万5000円~のお得なプランだからこそ、滞在の仕方が広がるとしている。
欧米で先行して普及してきたワーケーション。日本での取り組みはこの数年のことだが、観光産業ではJALやJTBなどが社内制度で導入したほか、JTBでは法人向けサービスも開始。また、環境省が国立・国定公園、温泉地でのワーケーションの推進事業費を補助する公募を開始するなど、地域での受入整備も進んでいる。
ワーケーションが本格的に根付くには企業の制度設計が欠かせないが、ワーケーション推進の取り組みを通し、既存の枠に捉われない観光スタイルが広がることに期待をしたい。
トラベルボイス編集部